第23話真実の口編⑪

脚立から転げ落ちた僕はそのまま、床に身体を打つ。

完全に指を食いちぎられた!

・・・と、思った。

が、手のひらを見てみると、指はジンジンするが、全て無事に付いている。


静電気!


そうか、研磨機の中は玉の研磨により、壮大な静電気の塊になっているのだ!

僕が食らった痛みは、ただの静電気。

しかし、勇気を振り絞って捨て身で手を突っ込んだのに、静電気で返り討ちにあった。

あの勇気を完全に折られてしまった。

半ば勢いと踏ん切りで手を突っ込んだのに、それが返り討ちにあい、もう腰がひけてしまっていた。

完全に。


・・・・怖い、怖い!

・・・もう、二度と手など入れたくない!

あの時の勇気は、もう二度と戻ってこない。


脚立の下で指の痛みをこらえながら、僕はガタガタと震えだした。震えが止まらない。

そこに班長がすっ飛んでくる。


「まだ治らないんですか?お客さんもう怒って限界ですよ。」

「・・・・」

そこに威勢のいいおっちゃんがやってくる。

「あんな!いい加減にせえや!いつまで玉出てけえへんのや!」

その後ろのお客さん達もそうや!そうや!と連呼する。


「・・・・・・・」


それに対応する言葉も出てこない。

へなちょこ主任の僕は、その場にへたり込み、その頬には涙が伝ってきた・・・

「!!!」

それを見たへなちょこ班長は、すぐさまそんな僕を隠そうと自分の身体でお客さんと僕との間に入り込む。

「すいません!もうしばらく!もうしばらくお待ち下さい。」

その班長の身体の後ろで僕は、泣いていたのだ。


「もう少しって!あとどのくらいやねん!」

「もう少しです。お願いしますから、時間を下さい。」

身体を張って班長がお客さんを止めてくれている。

僕は、見えないように涙を拭い、

また脚立を登ろうとした、しかし、


足がガタガタ震える。

震えがどうしても、止まらない。

恐怖と絶望で、今、死刑台の階段を登っているようだった・・・・


ガシッ!


誰かが脚立に手を添えた。

班長か?いや、違う、班長は今お客さん達を抑えている。

誰だ?

脚立に手を添えたのは?

下を見ると、さっきまで怒っていたお客さんの、おばあちゃんである。


「お兄ちゃん!行って!!」

さっきまで文句ばかり言っていた、おばあちゃんが、僕にブレーカーを落とされて大当たりしてる台まで消された、あのおばあちゃんが、

僕の脚立を支えて、手を添えてくれたのである!


「お兄ちゃんしか、なおされへんのやろ?お兄ちゃん!早く!」

「しかし・・・」

「早く!行って!」


おばあちゃんに後押しされて、僕はもう行くしかない!

なおし方を知らないなんて、そんな事もう、つべこべ行っても仕方ない。

この店には、本当に、本当に、この研磨機と向かい合えるのは、僕しかいないのだ!

「ありがとうございます!」

そう言って脚立の最上段まで登った。再び。

そして、再び、研磨機という名の、真実の口に手を入れる。


バチっ!!


また静電気、しかしそれに怯む事なく、研磨機の奥へ奥へと手を突っ込む。


生暖かい、パチンコ玉の感触。

もっと奥、さらに奥へと手を入れていく。


スブブブブ・・・・


肩まで手をねじ込んだ。

今、もし研磨機が動いたら、指どころではない。手どころではない。

肩から先、全部食いちぎられる。


それでも!僕は行くしかないんだ!

これをなおせるのは、僕しかいないのだ!


スブブブブ!

最深部まで手を入れる、その指先、

何かが、僕の指に触れたのだ。


なんだ?これは!!

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