第22話真実の口編⑩

僕はついに店長に電話をする事にした。

店長は朝から新台の展示会に出掛けて不在だった。

もはや、店長に報告してすがる他ない。


「もしもし?どうしたんや?」

「原田です。研磨機が止まってしまって、どうにもなおらなくて、業者も来るのに三時間くらいかかるんです。」

「どうにもならんのか?」

「はい。」

「本当に色んな手を尽くしたんやろな!」

「・・・・はい。」

「まだ、できる事があるんちゃうんか?」

「・・・・・」

「ええか、俺もあと戻るまでに、二時間はかかる。今、そこには研磨機なおせるのは、もはやお前しかおらんのや!」

「しかし・・・」

「そのまま、玉が溢れかえった状況を、どうにかできるのは!今、そこにお前しかおらんのや!誰も助けられへんのや!」

「・・・・・」

「まだ、できる事が、絶対あるはずや!それをやるんや!」

「・・・・・はい。」

僕は電話を切った。


事務所のドアを開ける。事務所の前にまでパチンコ玉が、転がってきていた。

従業員のほとんどが、ほうきとチリトリで玉を拾っていた。

遊技できなくなったお客さんが、何人も立ち尽くしているじゃないか。


「くそう!!」


もはや方法はない!

僕は研磨機の柱にかけより、立てかけた脚立に登り出す。

「早く何とかしてーや!お兄ちゃん!」

お客さんのおばあちゃんが叫ぶ!

もうこれ以上待たせる訳にはいかない。


脚立の最上段まで登った僕は、研磨機を上から覗く。

フタがしてあった。なるほど、フタがあるのか。その時に初めて知った。

研磨機のフタを開けて中を見てみる。

真っ暗で何も見えない。

うっすらとパチンコ玉が見える。

もはや、手を入れるしかない。


映画「ローマの休日」のワンシーンを思いだす。

「この真実の口は、嘘つきが手を入れると、食いちぎられるんだ。」

まさに、これは真実の口だ。

研磨機の事をよく知らないのに、なおせないのに。

なおせるフリをして、嘘をついた、僕が今から手を入れる。


まさに、研磨機という名の、真実の口だ。


意を決して、研磨機の中に手を入れてみる。

おそる。おそる。


次の瞬間!

バッチーン!!

指先に激しい痛みを感じる!


「あっ!痛ーーーっ!!」


僕は脚立の最上段から、転げ落ちた・・・

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