第21話真実の口編⑨
そうこうしているうちに、へなちょこ班長が脚立を持ってやってきた!
「主任お願いします!」
研磨機の足下に、脚立を開けて立てる。
俺に?
俺に、登れというのか?
俺に登って、研磨機に手を入れろというのか?
「待て!・・・待ってくれ!」
「主任、何を待つんですか?お客さんみんな、待ってますよ。」
へなちょこ班長が指を指す、もうお客さんが何人も立ち上がって、怒ってこっちを見ている!
「待ってくれ!まだ、方法があるはずなんや!」
僕は記憶の引き出しを片っ端からあけ、退職した主任の言っていた事を引っ張り出してくる。
もちろん頭の中で。
「ブレーカーを落とさんと手を入れると危ない。止まってるようで急にモーターが動き出すかもしれない。」
そうだ!ブレーカー!まずはブレーカーを落とすのだ。もしくは、すでにブレーカーが落ちているから動いてないのかもしれない。
何らかの衝撃でブレーカーが落ちているから、今研磨機が動いていないのかもしれない!
そのブレーカーさえ見つけて電源を入れれば、復旧するかもしれない!
あわてて、研磨機の柱の近くの幕板(パチンコ台の上にある、めくり上げる板の部分。)を開けてブレーカーを探す。
あった!黒い明らかに見た感じ、ブレーカーっぽいものがあった!
そのブレーカーはONになっていた。
よし、一度OFFにしてみよう。
パチッとブレーカーをOFFにした。
なんと、次の瞬間、
そこのパチンコ台が一列真っ暗になった!
「お兄ちゃん!今、大当たりしてたのに!」
おばあちゃんが叫ぶ!
やばい!これはパチンコ台のブレーカーだ!
速攻で、ブレーカーをONに戻す。
「ちょっと!お兄ちゃん!大当たりしてたのに!どないしてくれんのよ!」
「すいません!その件に関しては、後ほど対応します!」
もう悲惨な状況がさらに悲惨を生み出す。
間違って、パチンコ台のブレーカーをOFFにしてしまい、一列電源が落ちた。
違う!俺が探しているのは、研磨機のブレーカーだ!
さらに黒いブレーカーを見つけた!
それをパチッとOFFにする。
次は一列、ナンバーランプが消えた!
違う!これはナンバーランプのブレーカーだ!
またブレーカーをONに戻す。
電源復旧したナンバーランプは、全部今日の大当たり回数ゼロになってしまった。
「お兄ちゃん!これ、どないなってんの?」
またお客さんに怒鳴られる。
「その件に関しても、後で対応いたします!」
僕は叫んだ。
それでも、それでも、研磨機のブレーカーが見つからない。
ん?これか?
この黒いブレーカーか?
でも、これもONになってる!
またこれをOFFにしたら、今度は何が消えるんだ?またパチンコ台の電源が落ちたら、それこそ火に油を注ぐだけだ。
パチッとブレーカーをOFFにする。
シーン。何もおきない。
さらにすぐにブレーカーをONにする。
ザ、ザ、・・・
少し研磨機が動いた!動こうとした!
ということは、これが研磨機のブレーカーだ!
ブレーカーの入り切りで、少し動こうとしているということは、
やはり、研磨機内部で何かが・・・・
詰まっているのか??
「ちょっと!お兄ちゃん!何とかしてえー!」
お客さんのおばあちゃんに肩を掴まれる。
「ちょっと、待ってくれ!お願いします!時間を下さい。」
僕はそのまま、事務所に駆け込む。
事務所に行った理由は、たったひとつ!
主任がホワイトボードの裏に書いてくれた、マジックで書いてくれた、研磨機の断面図だ!
もう手を突っ込む以外に解決方法はない!
だけど、あの断面図があれば、少しでも、少しでも手を突っ込んではいけない部分がわかるはずだ!
事務所に入り、ホワイトボードをひっくり返した!
パタン!
「な、なんじゃこら~!!!!」
僕が見たのは、裏を返しても、なんも書いてない
真っ白なホワイトボードだった!
なんもない!あの時主任が書いてくれた、唯一の手掛かり、研磨機の断面図が、
「あ~っ!あ~っ!あ~!!」
色んな事を思いだす。
そういえば先月、バイトの女の子が事務所を掃除してくれていた。
あの時、あの時、ホワイトボードの裏を、
消したのか!
消してしまったのか!
唯一の希望を!!
コロン、コロン、カツン!
事務所の外のドアに、玉が転がって当たる音がする。
研磨機が止まって、台から溢れてきた玉が、もはや事務所の外にまで転がってきたのだ!
もう、どうしようもない!
もう、手はない。
研磨機に、真実の口に、手を入れるしかないのだ・・・・
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