8/6 麦茶

まさか……

まさか………私が………こんな古典的間違いを犯すとは…………


日差しが強く、気温の高い夏の日。

たまには運動をするかと思い、地下鉄二駅分を歩いてみた。

一駅分を歩いた頃には(止めておけば良かった)と後悔した。

全身から滝のように汗が噴き出て、シャツも下着もびしょ濡れになったのだ。

ここで無理をせず公共交通機関を使えば良かったのだが、既に半分歩いてしまった後で公共交通機関を利用するのは負けた気分になるので、暑いのを我慢して歩いた。

そして、後ろ髪がうなじから出る汗でべたべたになる頃、家へと辿り着いた。

家の戸を開けると、外よりも暑いむあっとした空気が溢れ出て、暑さで参っている私の頭を余計に茹で上がらせた。

このまま寝室に行き、冷房と扇風機を使用しながら布団に横になりたかったのだが、先に水分補給をしようと思ったのがいけなかった。

冷蔵庫を開け、目に付いた茶色い液体の入ったガラス瓶を手に取り、行儀が悪いのを気にせずに蓋を開けて口を付ける。

そして一息にその液体を啜り、思わず咽せて吐き出した。


そう、茶色い液体は麦茶ではなく、麺つゆだったのだ。


昨晩、いつもは麦茶を入れて冷やしているガラス瓶に、たまたま麺つゆを入れて冷やしていたのを忘れていたのだ。

お陰で、冷蔵庫の中と床が私の吐き出した麺つゆでびしょ濡れだ。

暑い中、泣く泣く冷蔵庫の中身を全部取り出して拭いている。

麦茶と麺つゆを間違えるのは古典的な駄洒落としてよくあるネタだが、まさか実際にこの身で行ってしまうとは……


暑いのは判断力を鈍らせるのだな。

素直に地下鉄かバスを使用するべきだった。

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