7/29 牛乳

この世には生き物の血を啜る吸血種が存在する。

彼らは生きるための食事として生き物を襲い、その血を吸って生きてきた。


吸血種にとって血を吸うことは生きるための術なのだが、他の生き物にとってそれは忌むべき行為とされている。

特に人にとっては吸血行為そのものが禁忌とされ、古来より吸血種は駆除の対象とされてきた。

血を吸う者を許してはいけない。全て滅ぼさなければいけないと。

所謂魔女裁判と呼ばれるような冤罪もあったそうだが、吸血種を滅ぼすためになら仕方ないと黙認されてきた。

今でも吸血種を見かけた場合は行政に連絡し、駆除又は危険性がないのなら保護することが決まりとなっている。


しかし、現代では過去の大量駆除の影響で吸血種の数は極端に少なくなっており、普通の生活をしていればまず出会うことはない。

人が積極的に滅ぼそうとしても絶滅していない吸血種の存在を驚くべきなのか、そこまでして吸血種を滅ぼそうとする人を驚くべきなのか。


これ程までに人が吸血種を駆除しようとするのは、己が食物連鎖の頂点に立っていないと不安だからなのだろう。

生き物ならばどの種も食物連鎖の理からは逃れられないというのにな。


そんな忌み嫌われる吸血行為だが、最近になって、『母乳は血液を基にしているので母乳を吸う行為も吸血行為の一種であり、牛乳を飲むのも吸血行為である』という論文が発表された。

この論文は大変な物議を醸しだし、教会を巻き込んだ大変な騒動になった。

もしもそれが本当ならば子に母乳を与える生き物が全て吸血種となってしまうのではないのか。学校給食に牛乳が出るのは吸血種を育てている事になるのか。我々はそんな忌むべき種族ではない。正しい行いをする生き物だと。

しかし、実際に母乳も牛乳も血液を基にして作られているため、この論文を認める声のほうが多く、一つの見解としては正しい論文とされて騒動は決着した。


さて、前置きが長くなったが、母乳が元は血液だという事は、つまりは吸血種とはいくつになっても母乳が忘れられない種族だという事ではないだろうか。

母親の母乳が飲めなくなったので、代わりに血液を求めるようになった種族という事だ。

また、母乳だけを飲んでいるという事は息も体臭も乳臭く、排泄物も殆どない種族という事になる。

そう思うとなんだか吸血種は怖くなく、逆に可愛いらしささえ感じてくる。

吸血種は究極的にマザコンな生き物だと考えれてしまう。


実際に吸血種が母乳や牛乳だけで生きれるのかどうかは研究中らしいが、血を吸わなくても生きていけるのが分かれば現代の吸血種の扱いも変わるだろう。

特に、牛乳で代用できるのならば脅威でもなんでもなく、近しい隣人として付き合っていけるはずだ。


牛乳には可能性がある。

人と吸血種を繋ぐ可能性だ。


かくいう私も、運動後はよく牛乳を飲む。

激しい運動をした後などは1リットルいく事もある。これは私も吸血種の素質があるという事だろうか?

だとすると、私は普通の食事も取れる最先端の吸血種だな。

なんてことだ。研究機関に出頭するか?牛乳じゃなくてもとんこつスープでも多分行けるぞ。

吸牛乳種か吸とんこつスープ種だな。

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