6/14 ガーリックフランス
朝の10:30。
私は街のパン屋へと向かっていた。
この街のパン屋の開店時間は朝の8:00だが、わざわざこの時間に行くのは理由がある。
大蒜とパセリやパプリカ等の香草をオリーブオイルと混ぜ、それを塗って焼いたフランスパンの、ガーリックフランスの焼成が終わる時間なのだ。
あのパン屋はよくあるパン屋と違い、菓子パンの類が少ない。
替わりに、
ウインナーに薄くフランスパン生地を巻いたパリパリウインナー
太いソーセージをもちもちした生地で挟んだビッグソーセージ
粒マスタードとベーコンの風味が香るベーコンエピ
茸とベーコンとホワイソソースを包んで焼いた茸グラタンパン
他にもフィッシュバーガーは鯖と鮭の二種類。コロッケパンとメンチカツパンはソース別で二種類ずつ。ピザは時間帯によって替わり、一日を通すと六種類もある。
そんな中で私が特に気に入っているのが、ガーリックフランスだ。
堅く顎が疲れるほどのフランスパンを噛み締めると、中からじわりと広がる大蒜とオリーブオイルの風味。
爽やかでありつつ、大蒜のしっかりとした満足感。そして絶え間なく押し寄せる油の旨味。
伊国の料理に良く使われている組み合わせだが、本当に大蒜とオリーブオイルの組み合わせは最高である。塩胡椒をすればそれだけで飲める。
肉類を挟んだパンも美味いのだが、それらを使わずに植物由来の物だけであれだけ美味いと感じる物はそうそう無い。
そうして私は鼻息を荒くしながら商店街を歩く。
既に口はガーリックフランス用に出来上がっており、その味を求めて唾液が止め処なく生成されて行く。
「待っていろ!ガーリックフランスよ!!」
思わず唾を飛ばしながら叫ぶ。
周りの人間が私を振り返るが、そんな小さな事は気にしては居られない。
意気揚々と仏花の専門店の角を曲がり、パン屋の前に躍り出て
『本日臨時休業』
「っっっっぬぅぅぅううううあああああああああああ!!!!!!」
叫ぶ。
地面に膝をつき、恥も外聞もかなぐり捨てて慟哭する。
何故ゆえに、私がこのような目に合わなくてはならないのだ。
私はこんなにもこの世界を思って生きているのに。この世界は私に対して残酷すぎる。
火曜日が定休日なのは知っていた。だから今日はやっているはずだと思っていたのに。
これが因果の循環なのか。逃れることの出来ない深淵の業。途切れるはずだった呪いの残滓。今も私を蝕む抑止力め、今はそうして悦に浸るが良い。いつの日か私は願いを断ち切る。それまで勝った気で居るが良い!!!
あ、おばあさん、大丈夫です。ちょっとショックな事があっただけなので。
仕方ない。帰ろう。
折角朝から起きたのに無駄になってしまったな。
銭湯にでも行くか。食事セットなら貸しタオルもついてくるし。
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