6/12 焼肉屋のハンバーグ

「はいっ☆ というわけでぇ~、今日はホルモン焼肉に来ちゃいましたぁ~♪」


何が「というわけ」なのか。

いきなり現れて『ガッツリ食べたい』と言われたのでここに連れてきたが、その理由はまだ聞いていない。


「もう~、またまた~♪ そんな細かいことに拘ってるとハゲちゃうぞ☆ミ」


心を読むのを止めろ。それとそのムカつく喋り方も止めろ。星を出すな星を。

見ていて痛い。もうお前も今年でいい歳だろ?親の前で出来るのか?その星を出す喋り方を。ただでさえ独身のままなんだから、少しは歳相応の落ち着きをだな…


「分かったから。止めるから。それ以上言わないで…口に出てるから……周りの人聞いてるから……」

「そうか、すまんな。分かればいい」


そういう訳で焼肉屋だ。

焼肉と言ってもホルモン専門店であり、入場料に1000円かかるが、ほぼ原価のホルモンとそこそこお得な値段の肉類を頼めるという少し変わったシステムの店だ。

入場料だけでご飯とテールスープと卵とドリンクバーが食べ放題になるので、食い溜めをする事を考えれば入場料1000円は安い。


肉も前途の通りホルモンはほぼ原価で注文出来るので、とりあえず塩ホルモンとハツを五人前ずつ頼む。

そして肉が来る間にテールスープを取りに行き、チューブの大蒜と辛味噌と卵で味付けをする。


「なんかすごい慣れてない?」


当たり前だ。

何回ここに通ってると思ってるんだ。月に4回は来るぞ。


「あんた、それ……ま、まあ、いいわ。あんただし……」


よく分からないが、納得しているのならいいだろう。

それよりも、だ。


「とりあえずホルモンは頼んだが、実はここはハンバーグが絶品なんだ。ハンバーグと言えば6:4の合挽きが至上と言われているが、ここのは牛肉100%でとても肉々しくて美味い」

「へー、マジなの?」

「ああ、マジだ」

「あんたが言うのならマジなんでしょうね」


当たり前だ。私は嘘は吐かない。

丁度塩ホルモンとハツを運んできた店員に、ハンバーグを二つとスーパーBooというソーセージも頼む。これもとても肉々しくて美味い。

今日は驕りの焼肉だしな、この機会に普段食べれないものは頼んでおかねばなるまい。


「まぁ、安いからいいんだけどさ…」


そうだぞ。

私が満腹になるまで食べても6000円いかない店だ。叙々苑なら軽くでも1万を越える。

一度焼肉のサカイで後輩と酒を交えつつ満足いくまで食べた時は3万を越えたな。あの時は若かった。後でトイレで全部吐いたし。勿体無かった。


そうこうしているうちにハツの反面が軽く焼けてきたので、裏返して片面は軽く炙ってからタレつけて口に運ぶ。美味い。

これだ。ハツは半分程度生のままが美味い。

肉はなるべく生のほうがいい。ローストビーフなんてどれだけ生に近く出来るかを追求しているしな。

だが、ここのハンバーグだけは別だ。

生ではなく、しっかりと焼いたほうが美味い。焼かないと肉汁がうまく溢れない。


店員によって運ばれてきたハンバーグをまずは縦に二つに切り、細長い棒状にする。

そしてそれを適度に転がしながら表面を焼き、時折押さえつけて平たくしてハンバーグの形に戻していく。

勿論、スーパーBooも一緒に転がしながら焼く。


「なんでそんな面倒くさいことしてんの?」

「美味しく食べるためだ!」

「そう…」


そうして表面をカリッとさせたハンバーグを作り上げ、最後に卓上にある岩塩を振る。

香辛料が混ぜてあるのでタレを付けずにそのまま食べられるが、岩塩を足すととてもご飯に合うのだ。


「さあ、食べてみろ。まず一つ目はそのまま食べて、二つ目はご飯と一緒に食べるんだ」

「本当にあんたって食べる事については一生懸命よね」


当たり前だろう。生き物は食事をしないと死ぬのだ。一生懸命になって何が悪い。

いいから味わってそのハンバーグを食べるんだ。


「はいはい、分かった分かった。あーん」

「自分で言うのか」

「んー………なにこれ………おいしい……マジだ…………」

「マジだろ?」

「うん、マジだった。マジやばいこれマジ」


そうだろそうだろ。本当にここのハンバーグは美味いんだ。


「やっばこれやっば。ご飯チョー欲しくなる。うめぇ。ガチでうめぇ。肉汁止まんねぇ」


おい、キャラがブレてるぞ。


「いやー、うめぇーわぁこれ。今の職場の糞上司の事話そうと思ったけど、もうどうでもいいわ。ソーセージもうめぇし。あ、ご飯取ってこよ。ついでにビール頼むわビール。肉と米とビール最高だわぁ~」


よく分からないが、いい笑顔をしているので大丈夫なのだろう。

私もこの肉汁が飛び出すハンバーグを…って、


「おい、私の分まで食べるな!」

「私がお金を出すんだから私が食べてもいいじゃない!」

「美味しくなるように焼いたのは私だぞ!!」

「そんなの誰だって焼けますー。あ、お姉さん、生追加で」

「くっ、あ、こら!Booまで食べるな!それはもっと焼け!!皮がパリッとするまで待て!!」

「いーんだって十分美味しいんだから。それに焼き加減は個人の好みでしょ~?」

「それでもまずは手本通りにするべきだ!ああもう、だからもっと焼けと言っている!!」

「お客さんすいません。他のお客様に迷惑ですので」

「「あ、すみません…」」


怒られてしまった。

くそっ、次から来る時にきまずいではないか。こいつをここに連れてくるのは失敗だったか……


「……ありがとね、気分転換になったわ」


………はぁ。

そう言われては仕方ない。

こちらこそ、お前が元気になってよかったよ。

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