第3話 マグダレナ

 砂埃舞う荒野を、カウボーイハットの少女を背に乗せた大柄な獣が、時速80マイルを超える速度で疾走している。ミライとクルーガーだった。ミライは無造作に後ろを振り向くと、右手で大柄な実弾銃マテリアルガンを引き抜いてめくら撃ちした。骨董品の機械馬ホースロイドにまたがった追手が二名、バランスを崩して落馬する。


「もういちど力場防御壁フォースフィールドを展開! 左右に振って!」


 右に左に位置を変えながら量産型の光子銃レーザーガンの照準をかわし、気づかれない程度にスピードを緩め追手との距離を近づけていく。実弾銃マテリアルガンと違って、一点に集中さえされなければ汎用型の力場防御壁フォースフィールドでも十分しのげる。

 ミライはポーチから振動手榴弾オシログレネードを取り出すと、口でピンを引き抜いて転がした。何人かがそれに気づき、慌てて回避行動をとるが間に合わない。微細振動によって誤作動を起こした機械馬ホースロイドが数体、前足の関節を逆側に折り曲げながら土煙を上げて転がっていく。

 残るは一体。


「クルーガー。横につけて」


 クルーガーは急減速して機械馬ホースロイドの斜め後方を取ると、そこから一気に加速して横につけた。力場防御壁フォースフィールドの内側では光子銃レーザーガンは無効化される。ミライは太もものストラップに挿したコンバットナイフを抜くと、慌てふためく騎手へと飛び掛かり、その背後を取った。乗り手のコントロールを離れた機械馬ホースロイドは徐々に減速し、ギャロップから常歩へとかわる。

 ミライは男の首元にナイフを突きつけたまま、ルックスに似合わぬドスの利いた声で尋問を開始した。


「さあ、アンタたち何者?」





 話は少しさかのぼる。ミライとクルーガーはマグダレナ鉱山の地主であるアントニオという男の家を訪ねていた。


「だからよ。あいつが行方不明になっちまったんだ」

「あいつって誰?」

「クララってんだ。死んだ女房の連れ子だったんだけどよ。追い出すのも可哀そうだからうちに置いてやってたんだ。おおかた例の反物質結晶アンチクリスタルがらみで攫われたんじゃねえかって」

「その割には、あんたずいぶん落ち着いてるじゃない」

「そ、そんなことはねぇ。ちょうど今、警察に捜索願いを出したんだ。それぐらいしか……他に何ができるっていうんだよ」

「できるわ。何しろ、アタシは探偵だもの!」

「は?」

「探偵。だから、アタシに頼みなさい。この事件の解決を」

「い、いいよ別に……だいたい、てめぇだって信用できねぇよ」

「御仁。報酬は先日掘り出されたという反物質結晶アンチクリスタルで結構です。私共は鉱山事業はやっておりませんし、採掘権にも興味はありません。ただ、お嬢様は美しい宝石がお好きで、もしかすると先日の反物質結晶アンチクリスタルが良い装飾品になるのでは、と」

「……好きにしろ。ただ、俺は何にもわからねぇからな。ああ、鉱山のほうに行くなら地図はそこにある」


 こんなやり取りの後、とりあえず鉱山の方に向かっていたところ、まるで図ったように待ち伏せアンブッシュを食らったのである。





「何にも知らねえ。何も言えねえ」


 馬鹿の一つ覚えのように、知らないと言えないを繰り返す男は、機械馬ホースロイドから引きずり降ろされるとミライとクルーガーに身ぐるみはがされた。ミライは男の持ち物から財布を抜き取ると身元を示すものがないかどうかを調べる。


「はん。これは面白いわね」


 ミライが取り出したIDカードを見て、クルーガーもゴロゴロと喉を鳴らす。


「アルハンドラ・ファイナンス。金貸しのようですな」

「この星系の事業者登録データを洗ってみて。アタシの想像通りならそんな会社は存在しない」

「……さすがお嬢様。慧眼です。アルハンドラ・ファイナンスなる金融業登録事業者は存在しませんでした。おそらく闇金でしょう」

「ということは……」


 ミライはしばらく考え込み、そして肩を落として言った。


「なんだか……名探偵が扱うにはずいぶんと雑な事件よね。それに、お宝もありそうにないわ」

「お嬢様。念のため保険会社の契約状況をお調べしましょうか」

「そうしてくれる? それが終わったら、アントニオの家に戻るわよ。こんな乱暴な奴らだもの。素直にあきらめるとは思えないし」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る