第6話

 星の保険金は毒殺が多く、意外に思われるかもしれないが青く輝く恒星にとってチョコレートは猛毒なのである。

 北極の地軸が反時計回りになり、星は悲鳴をあげ苦悶に満ちたフレアを吹き出す。それが星間に薄いブリキオモチャの楽団を顕す。

 昨日がどんどん遠くなるように、宇宙が過去さえ隠すように、飴色の琥珀が連環する迷路を再契約する。それは、女神のように秘密を囁く蛇たちの地下宮殿だ。

 迷路を構成するのはステンレス製の詩人の詩でその最奥では今日も復讐のために書かれたチョコレートレピシが怠惰と好奇心に突き動かされて再現される。

 とある星の王様によれば、このチョコレートレピシは七色の契約により決められたペンギンたちの領地に保管される。

 足の短い彼らならば鍋をひっくり返さないだろうというのがその理由らしい。

 裏切りの鳥であるカラスたちが今日も、星を殺すためにチョコレートを狙っているがペンギンの軍隊の堅牢な警備はどんな神出鬼没複雑怪奇奇妙奇天烈な怪盗の新入すら阻んできた信頼のおけるものだった。

 七色に光る黒い外套を着たカラスたちもこの警備は突破できず指をくわえてチョコレートが保管されるのを見るばかりである。

 ある時、まだ若い星が苦痛の悲鳴を上げながら死んだ時、その星の衛星たちが死因を調査した。フレアの回数、ブリキ楽団の演目などから死因はチョコレートによる毒殺であることが判明した。こうして保険金は下りなかったが、星の死は人間が思っているよりも頻繁に起こっていて保険金が下りることも少なくない。それを防ぐために星間をゆく龍の裁判官たちは日夜頭と尾をくっつけながら悩んでいる。

 宇宙ではチョコレートは劇薬扱いで取り扱いには特別な免状が必要である。そして普段は七つの封印がなされた迷宮に保管されているのだが。たまに人間の英雄がこれを突破してチョコレートを表に出してしまうことがある。カラスたちはこの機会を逃さずチョコレートを手に入れ星を殺して回っているのである。

 カラスたちの言い分によれば星は長く生きすぎると大きなブラックホールになってしまうのでその前に何とかしなければいずれ世界は闇に閉ざされるというのだ。

 一部の星読みの科学者たちはカラスの意見に賛同しているが、大多数の学者たちは宇宙の膨張によりその効果は相殺されると考えていてこの二つの立場では今日でも決闘が絶えない。

 あるとき老いた星が死に際にチョコレートが食べたいと願い出たことがあった。王様はこれに反対し天寿を全うするように言ったのだが、これを聞いたペンギンの一部が哀れに思い巨大なチョコレートケーキを作り老星に渡した。しかし、それは罠だった。星はしぼむのではなく大爆発しその笑い声で近隣の星々もつられて大笑いし地球からは天井の星が鈴を鳴らしたかのように震えるのが見たほどだった。

 以来、ペンギンと星たちは交信することを禁じられた。

 この策謀を誰が練ったのか、何の目的でそんなことをしたのかはチョコレートを巡る数多ある逸話の中に埋もれて誰も知らないのである。

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