第4話
月が貝殻の中に隠れたみたいに乳白色の光が階段の切れ目から漏れていた。
止まった雲が大理石の絵画のようにエントランスに飾られていた。
ここは朽ちた少女の遊園地。
既に破棄された、秋の残骸。
紫の陰影が雲の彫像を天井に張り付ける靴音となる。
この遊園地を訪れるのは灰色の皮を被ったコウモリの亡霊と足をなくしたトカゲと炎を纏ったカエルたちである。彼らは打ち捨てられたこの場所にかつての繁栄の夢を見に来るのだという。
言語を介さないコミュニケーションは爪と詰めを叩き合わせることでなされるのは常識だが種族を超えた話し合いの場合はさらに奇妙な動作を行う。それはさながらサーカスの道化師、大道芸人のように見える一連の決められたアクロバティックな見世物なのであり水晶の涙が対価として支払われることもあるという。そういうわけで朽ち果てたはずのこの遊園地も訪れる者次第で賑やかになることもある。その時ばかりはいつも無口な鳥たちも歌う。
私がその遊園地を訪れた時はすでに九月の(あるいは雨の)楽団は去った後だった。寂しさが人の形をとった影がエントランスで迷子になっているのを横目に私は観覧車を目指して歩いた。観覧車はすでに跡形もなくなっていて跡地には無数の剣や杖が墓標のように突き立てられていた。ここはかつて戦場だったのだ。いや、あらゆる遊園地はかつての戦場、古戦場なのであり、その形跡はよく目を凝らしてみれば華やかな園内のそここちに見ることが出来るだろう。
私は空間に固定された記憶が見せる幻影の観覧車を眺めた。知らぬ間に猫が隣に一匹トテトテとやってきて腰を下ろした。よく見ると二つの尾を持つ猫は虹色の目を私に向けて何か言いたそうだったが、私には話すための言葉がなかった。私たちは幻影の観覧車に乗る方法を考えながら薄緑色に染まった空の下でタバコをふかした。
まだこの遊園地が閉鎖される前に配布された小冊子(パンフレット)によれば、ここはとある少女の夢が作り出した場所なのだという。少女が物を覚えるたびに園内にアトラクションが増えていったという。その頃の隆盛を知る者は「どうして人間の少女は成長するのか」と疑問に思っていたという。
未知の場所に行けるようになるとそれに対応した出し物が増えた。
過ちを繰り返すことを自覚するとミラーハウスが出来た。
恐怖を克服するとジェットコースターが。
しかし、観覧者を最後に少女にこの場所は破棄された。
打ち捨てられるとかつてあったという記憶が影になり実体は消えていった。
訪れる者もわずかになり。
いずれこの場所は元も平野になるだろう。
ある人によると人間の少女は恋を知ると遊園地を破棄するのだという。そうして現実の世界と折り合いをつけるのだ。
それを聞くとかつての古戦場になぜ遊園地が建てられるのかその理由が少しわかる気がした。
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