第2話

 プラスチック製の固くて軽いのが売りのタイプライターはキーを押す度に冬の国に住むと言う青い目のオオカミの尾の毛並みを触るような不思議な満足感を与える。

 雨がイタズラするときの退屈さで、色のない国が文字に起き上がる。

 灰色の砂漠には人の欲望が星のように輝くが、この地の果てに隠された本当の宝は砂に紛れた黄金だというのがもっぱらの噂だ。

 もう何人、もう何年、猪の皮を纏った小説家たちが、この月さえ見えない凍えるほど寒い砂漠で彼らの信じる黄金を探している。

 ある時、緑色の刺青をした男がまばゆい光を放つ短剣でサソリと相討ちになった。それを見ていた者は口をそろえて「黄金が生まれるのを見た」と言った。

 刺青には古い言葉で「信じろ」とあったという。

 男の遺体はウサギたちの隠れ家になった。

 小説を書くものに共通する悪癖の一つに空を飛ぶ文章を石鹸水に浸すというものがある。そうやって都合の悪い作品が翼を得て飛び立つ前に洗い流してしまうのだ。

 作家とは常に一つの作品しか作らないのだと、この砂漠では言われる。その作品を顕すために作家は灰色の砂の海で黄金を探すのだ。その地図は決して消えないように勇気の象徴である緑の染料で利き腕に刺青される。しかし、昨今の作家たちは自分たちにはキリン的象徴が階段を上るのが当然の理であると慢心して歌う。つまりは入れ墨を彫るほどの作家は猪の皮を被る必要がない。淘汰されたわけだ。

 今どきの作家は動物の皮を被り、自分たちの言葉を偽りながら、それでも黄金が見つかると妄信している。

 くだんのタイプライターに顛末に戻ろう。

 私の鰐の肌のように無骨なブラインドタッチが砂漠の中を探す目となり、足となり、手となる時、私は緑の刺青をした旅人となっている。

 この砂漠には果てがないのは快楽に似て波のように実感される。

 ウサギたちは賢く巧妙に生きている。彼らは動物の皮を被る偽りの作家たちを惑わせ住処を作る。彼らは本物の作家の死体が腐らないことを知っているので、偽りの作家たちを誘導して刺青を彫らせるのだ。

 月の出る夜は打鍵が愛想よく微笑む。階段を勢いよく駆け上る昂揚感が短剣を輝かせる。

 そうだ、私はあのサソリを討ち取らなければならない。

 空をかける牡羊の虹色の羊毛が砂漠にこの世界にないサソリを呼ぶ。

 そうだ、あの虹の端にサソリがいるのだ。

 あのサソリを倒さなければならない。

 本物の作家ならば、あのサソリを倒さなければならないのだ。

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