14 激闘(1)
「……っ!?」
グリズラは驚きに口を開けた。しかしすぐに怒りに顔を歪め、部下に向かって叫ぶ。
「テメェら! オタオタするんじゃねえ! 相手はただの犬っころだ! 俺たちが負けるはずがねぇ!」
サルラ軍の震えが止まった。
「すぐに援軍が来る! そうなりゃ、数だってこっちが上だ!」
熊の魔獣たちに殺気が戻ってくる。その様子を見つめ、グラシャは不敵な笑みを浮かべた。
「ヘっ、さすがは親玉だな……」
グラシャは門の上から飛び降りると、石畳の地面に着地した。
グリズラが一際大きな声で吠えた。
「手始めに、あの野郎を喰い殺せえええええええええええええええええええ!」
唸り声を上げ、サルラ軍が一斉にグラシャに襲いかかる。
自分に向かってくる敵を見つめ、グラシャが不敵に微笑んだ。
「こっちも行くぜ! 野郎共! 出入りだぁああああああ!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! という遠吠えが響いた。今まで墓標のように静まり返っていた家々から、グランドール軍の兵士が飛び出してくる。
「なにぃ!?」
グラシャに向かったサルラの兵が足を止めて振り返る。
「後ろだ! 門の一匹はただの囮だ!」
ブルムが全体に指示を出す。
「一対一なら俺たちが優位だ! 奴らに集団戦をさせるな!」
グラシャに向かおうとしていたサルラ軍が回れ右をして、押し寄せる二百の狼に牙を剥く。
「おいおい、オレを無視すんじゃねーよ」
その声に一人のサルラ兵が振り返った。
「あ?」
誰もいない──そう一瞬思った。しかし視線を下げると、胸元近くにグラシャの顔があった。
「てめ……いつの間に!」
サルラ兵は、鋭い爪の生えた豪腕を振り上げた。
「一対一なら優位だと? 寝言いってんじゃ……ねぇえええええっ!!」
グラシャの腕が突然消えた──ように見えた。異様な打撃音と共に、サルラ兵の体が宙に浮いた。何かが爆発したような突風が広場を駆け抜けた。
グラシャのノーモーションからのパンチが、爆弾のような破壊力を生み出していた。
飛ばされたサルラ兵は背中を向けていた他の兵をなぎ倒し、まるでボウリングの球がピンを弾き飛ばすように転がっていった。
その一撃を見て、サルラの兵は驚きを隠せなかった。単純な体力とパワーなら、自分たちの方が上だ。そう信じていた。しかし、あの男は何だ?
「まるで……グランドみてぇなパワーじゃねえか……」
「そういや、さっき息子とか言ってなかったか?」
サルラ兵の中に動揺が走った。
グラシャは戦いの喜びに血が沸き立つような思いがした。牙を剥きだした笑顔で、サルラ軍に向かって叫ぶ。
「いくぜぇえぇえええええええええええ!」
敵軍に突っ込んでゆくグラシャを見て、グランドール軍の興奮も頂点に達する。
「みんなーっ! 若に続くにゃぁあああああああっ!」
唸り声を上げて、サルラ軍に向かって疾走する。その速度はサルラ軍をはるかに凌ぐ。流れる毛並みが、まるで川のようにサルラ軍を飲み込んだ。
そしてあっという間に乱戦となった。
パワーに勝るサルラと、スピードに勝るグランドール。その中でも、一人群を抜いて早く、しなやかな動きをする者がいた。
「うにゃにゃにゃーっ!」
掛け声は可愛らしいが、獣化した腕の先にはナイフのような爪が生えている。素早い動きでサルラ兵の大振りな攻撃をかいくぐり、その体を確実に切り刻んでゆく。
「くっ! て、てめぇ! 狼の魔獣じゃねぇな!?」
ルーニャは目を細めて笑った。
「ルーニャは猫科にゃ。心の広いグランド様は、種族にこだわらないにゃ」
再び飛びかかった。サルラ兵の肩に着地すると、鋭い爪を首に当てた。
「うおぉっ!」
ルーニャを捕まえようと肩に手を伸ばし、勢い余って体勢を崩す。
大きく飛び上がったルーニャが叫ぶ。
「今だにゃ!」
「!?」
サルラ兵を取り囲んだ三人のグランドール兵が、一斉に拳を叩き込んだ。
「ぐはっ!」
サルラ兵は血を吐き、その場に頽れる。そして光の粒となって消えた。
グランドール兵は複数人が連携して、一人ずつ確実にサルラ兵を倒してゆく。だが、サルラ兵の攻撃力は、当たれば一撃でグランドール兵のHPを大量に奪い取る。お互いに厳しい戦いだった。双方の数は徐々に減り、お互いに疲れが見え始めた。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
その中で一人、グラシャだけが気を吐いていた。群がるサルラ兵を、一人でなぎ倒してゆく。
いや、もう一人──
「ぬああああああああああああああああああっ!」
グリズラも数人がかりで襲いかかるグランドール兵を、片っ端からなぎ倒していた。
唐突に二人の視線がぶつかった。
グラシャが凶悪な微笑みを浮かべる。
「けっ、頂上対決と行こうじゃねぇか」
「望むところよ! グランドの小せがれが!」
グラシャは両腕を獣化させ、グランドと激突した。派手な激突音を響かせ、二人はがっぷりと四つに組んだ。
「ぐふふふ、この俺と力比べをしようなんざ、身の程知らずもいいところよ」
「へっ……このグラシャ様を舐めるんじゃねえぞ」
二人は渾身の力を込めた。
腕の筋肉が膨れあがり、全身に血管が浮かび上がる。
「なか、なか……やるな、小せがれ」
「てめぇも、ジジイにしちゃ……大したもんだぜ」
「だが……ここまでだな」
グリズラはグラシャの背後を見て、にやりと笑った。
「なに?」
グラシャが肩越しに振り向くと、二人のサルラ兵が嗜虐的な微笑みを浮かべて近付いてくるのが見えた。
「この……ヤロウ」
「ふひひひ、死ね。グランドの小せがれ。貴様の一族など、死に絶えやがれ!」
背後の兵が、グラシャの背中に爪を突き立てようとした、その瞬間──、
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