年の創 甘味プロジェクト・情報先行公開
「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!!」
地球から彼方、遙か遠く、宇宙を抜け……そこは、次元の狭間。数々の宇宙が奇妙な隙間を空けて放流するその空間には、まるで残留となった惑星が漂っている。
その中の一つの無名の宇宙外惑星。
彼方より届く太陽によく似た自然エネルギーの放射により、地表には光が届き、地球とは似ても似つかぬ植物たちが生え渡っていた。
だが、宇宙の狭間では生物の維持は出来ない。
単なる宇宙からはみ出した自然惑星として、何者にも干渉されず、今まで過ごしてきた……、
のだが。
そんな宇宙外惑星から苦痛の叫びが響いていた。
惑星を覗けば、白き物体が岩山を貫き、地面に叩き落とされ
だが、突発的にそれが動けば、その正体は土煙の仲から姿を現した。
地球で言う白衣を身につけ、黒く長い髪を靡かせている。手には独創的な黄金の槍が矛先を欠けさせながら携え、存在の周りを動き回る小型の歯車にはどれにも亀裂や傷のような物が多く付いていた。
「――ッ!」
直ぐさま、男のような存在は、腰から片三翼を展開させ空中へ一気に飛び出す。
だが、地上と成層圏の合間にて、更に空から降り注ぐ第二の来訪者に衝突し、またもや地面へと戻された。
再度、地面に組み伏せられる白衣の男。
其処には、もう一人の人型をした黒い影が居た。
黒い影は白衣の男に近しく、だが癖の在る長髪を靡かせている。黒き影は、白衣の男の喉元を掴み地面へと組み伏せ、抗っている男に対してゆっくりと首根っこを掴んだまま持ち上げ始めた。
「……、」
数秒その男の顔を眺めていた黒い影は、ブンッと男の躰を投げ飛ばす。
彼の躰は刹那、発射されたロケットのように風を切りビュンッと投げ飛ばされ、山頂の頭頂部を砕いた。
「……がッ!!」
白衣の男は体勢を空中で直し、片三翼を使って空中で勢いを殺す。直ぐさま男は空へと飛び立ち、宇宙外の狭間に飛び出した。
「……、」
そんな彼を追いかける黒き影。
彼等は光などの可視化できる数値では測れない速度で飛び回り、数々の宇宙に入り込んでは
「……はぁ、はぁ」
明らかに苦悶の表情が浮かぶ白衣の男に対し、黒い影はその隙間から覗かれる鋭い目を今も尚白衣の男に向けていた。
「……、」
寡黙のまま、その者は白衣の男に向かって片腕を伸ばす。掌に黒い粒子が集い、圧縮され始めていた。
「……くそッ!」
白衣の男はその行動を目にした途端、素早く黒い影の者に距離を近づけた。
槍が黄金に輝き、取っ手から生命が芽生えるかのようにツタが槍に絡みつく。速度をつけた白衣の男は、その加速度のままツタが絡みつく槍を大きく振るい上げ、投擲するかのように黒い影に向け放った。
「
投げ放ったツル巻きの槍は、直線的に黒い影へと向けられる。だが、その途端に黒い影の収束された闇が放たれた。
轟ッッッ!!
光線のように放たれる闇を、白衣の男の投げ放った槍が両断する。分断された闇の光線は途方も無く彼方へと流れだし、白衣の男の横を掠めていた。
因果のように槍はその光線に耐え続け、次第に黒い光閃をモーゼの奇蹟のように進み続ける。勢いに負けじと黒い光閃を放つ影は放出を強めるが、槍は絶えず影を狙った。
両断する光線も激しさを増し、彼方では平行宇宙達が影響を受け輪唱するように震え上がっていた。
「……ちッ」
黒い影から、小さく舌打ちが聞こえた。
既に掌近くまで迫る槍を、抑えきれなくなっていると解るや否や、光閃を切りバンッと避けることに徹した。
「……ッ?!」
寸でで避けた槍を観て、黒い影は違和感に気が付いた。まるで、吸い込まれるようなその感覚は、元の状態に捻戻そうとする。
槍は横を過ぎ去る……と、そう認識した時は遅かった。影の胸元を捕らえ、槍は貫いていたのだ。
「……ッッッ?!」
理由はわからない。
だが、まるで避けたはずの躰が元の……避ける前の状態まで引き戻されていたのだ。
が。
驚愕した。
驚いたのは、槍を投擲したはずの白衣の男からでた声だった。
「……なッ」
その時には遅かった。
白衣の男の背後に、既に影が忍び寄る。直ぐさま腕を回し払い除けようとするが、その腕を掴まれる。
そして。
ブシャァァァァッッッ!!
片腕が切り落とされる。
白衣の男の肩から、手刀のように手を伸ばした影が強引に切り千切ったのだ。
「……ッッ!!」
直ぐさま白衣の男は距離を取り、失った腕の結合部だった場所を抑える。血は空間に溢れ、何処かに落ちるという事は無かった。
だが、その突然の出来事に、驚きを隠せなかったのだ。
「……成る程、因果概念の再照合か」
初めて、黒い影が口を開いた。
その声は、低い女性か、それとも中性的な声を輪唱させるような、複数の声が混じり合った物だった。まるで、古いオーディオから出る反響した音声その物だ。
「二つの神話を擦り合わせ、槍の神話を含める万物選別の再定義に加え、槍という認識を剣へと移換し私の伝承を照らし合わせたな? それも、更に七八〇万の式を組み込まれている。……だが、所詮は小惑星に蔓延る思想の概念。霊装として混ぜ合わせるにしても、全盛期の貴様なら億程の術式を組み込んでいたはずだ……墜ちたか、貴様」
表情は一切変わらない。
冷血で、無慈悲な機械のようだ。その冷たい言葉は温度という概念が存在しない世界でも、白衣の男には背筋に悪寒を走らせる程には重々しかった。
そして、黒い影は切り取った白衣の男の腕の肩から肘までを再度切り捨てる。残った腕を自分の腕に、まるで照らし合わせるかのように配合し、躰の一部として片腕に取り込んだ。
「……ふむ、成る程。そういう定義が在るのか」
冷淡に吐き捨てられる言葉。
直ぐさま、白衣の男は周りに群がる歯車を展開させ、黒い影に放った。
が。
「では、見せてやろう。新なる王の一端を」
切り取り貼り付けた片腕を、彼に向けた瞬間だった。
「真なる終焉を望むか?」
その時、全てがまるでその中心から押し出された。
不都合な存在を押し退け、ただ力の一端を振ったと言う言葉には相応しく、片腕を振っただけで、全てが決した。
歯車は全てが吹き飛ばされ、挑みかかっていたはずの彼の躰は力の奔流に巻き込まれた。
*
全てが、一掃された。
数々の宇宙がその強大な力によってあらゆる空間と衝突を始め、狭間の定義は荒れ狂い始めた。
その狭間の中で、上半身のみで空間に漂う白衣の男だったそれが一つ。
ガラス細工が割れたように、顔や躰には亀裂が走り、下半身より下はまるで空虚な空洞になっていた。
「抑えられたか」
力を放った中央で、黒い影が呟く。
腕の手首を掴み、まるで義手を調整するように感覚を確かめ直している。
「だが、最早貴様は木偶。これで全ての因縁が終わる訳だが……気分はどうだ?」
惨めな敗北者に向けて、勝者は無情な言葉を放つ。
もう、一言も発せない。
だが、白衣の男は、最期に力を振り絞った。
「……っっらぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
腕の中に広がる歯車達が、彼の渾身の投擲によって放たれた。
「……、」
黒い影は、避ける必要も無かった。
歯車は影の横を通り過ぎ、何処か遠くへと消えていったのだから。
そして、その歯車を放った白衣の男でさえ、無惨に砕け散る。
「……所詮、言葉違わぬ猿か」
冷酷に吐き捨てた。
影はその後、蔓延り干渉しだしている宇宙群に向け、吐き捨てる。
「では、次なる因縁を取り除きに行こうか」
――甘味プロジェクトへ 続く……。
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