第六節

 未だ頭がぐらぐらする。

 とても良く洗練されたアッパーパンチは、コクトの脳を揺さぶるには十分だった。

「あわわわわわ……」

 呆然と立ち尽くしたサーバル。

 少し離れた位置まで飛んだコクトの体。

 謎の少女は、ゆっくりと意識が再生していく中で確かに思ったことが一つだけあった。

(あれ、やっちゃった?)



「もうもうもう!! 何やってるの!?」

「いやーごめんごめん、ビックリしちゃってつい、ね」

「ついで私の脳が死にかけたんだけどな……」

「イヤー、マジでごめんって……」

 少女はあははと苦笑いを浮かべながら倒れ込んだコクトに謝っていた。その言葉は何処か軽く、言うとすればちょっとおちゃらけた女子高生のような言い方だった。


「そういえば、アナタは誰なの?」

「私? 私はカラカルよ」

「へー! 私はサーバルって言うんだ。よろしくね!!」

「ハイハイ、よろしく。で、そっちは?」

「そっちはコクトって言うんだ!」

「おーい二人ともー。人をそっちとか言うんじゃありませーん」

 少女二人の呑気な会話に、自分の扱いの素っ気なさに訴えをかけたコクト。当の本人は地面にうつ伏せになりながら話していた。


「とりあえず……、数分時間ください」

「ホンッとに良いところ入ったのね……」



「あったたたた……」

「もう大丈夫?」

「少しクラクラする……」

 ゆっくりと立ち上がるコクトだが、意識が飛びそうになった反動か未だ視界がブレる。

「えーっと、カラカルだっけ? 宜しくな」

「私こっちー」

「コクトー、後ろ向いちゃってるよー」

 もはや見えていないのでは、というレベルだった。内心自分の病弱さに呆れながらも、戻ってゆく視界を頼りにカラカルの方へと向き直る。


「うん……。中々に効いた」

「私も彼所まで清々しく入るとは思わなかったわ」

「カラカルは戦いが得意なの!?」

「私が聞きたいわよ!」

 クワッと反論したカラカルにサーバルはあははっと笑い返していた。ほのぼのしてるところ悪いけどこっちは危うく死にそうだったんですがと、すごく言いたげなコクトの表情は、諦め時を察したのか大きくため息を吐き出した。

「さーて、これからどうするかな……」

「そういえば、私何でこんな格好になってるの?」

「あれ? そういえば私も!」

「今なんだ……今じゃなきゃダメなんだ……」

 約二名のフルスイング空振りの連続がいよいよ三振したのではないだろうか……。そして、それを最も知りたがっているのは目の前で苦労皺を眉間に寄せ頭を抱えているコクト張本人である。

「それは一番知りたいことだが……、まあとりあえずこの島を調べても良いか?」

「探検だね!? 行こう行こーう!!」

「へー、楽しそうね♪」

 約二名がお気楽な声を上げて付いてくることになった。

 半ば目標も目的地も不明確なまま始まった短い旅は、圧倒的な不安を一人の少年に任せて進む。

 そんな不安を、彼は心から振り払うように願った。


(どうか御守二名のせいで面倒なことが起きませんように……)

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