第四節
探索を始めることになったコクトとサーバル。王道展開で言えばここから途方も無い冒険活劇が始まるのだろうが、幸先不安でしか無い。
銀蓮黒斗は先が見えぬ道を行く為にと、自身が乗ってきたヘリの元へ戻ってきていた。
「何これ! 何これ!!」
半ば興奮気味のサーバルを引き連れて……。
「これはまぁ、ヘリコプター……って言っても解らないか。まあ簡単に言えば、空を飛ぶ機械さ」
「え!? 飛べるの! これで!!」
「飛べる飛べる。とりあえず、こっちに乗るところ有るから、こっちに乗ってくれ」
「わーい!」
案内された場所(言わずもがな助手席だが)に、サーバルは乗り込む。
「……、」
「どうしたの?」
「いや、そのな……そこに丸くなるんじゃ無くて、こう、私みたいに座って欲しいんだけど……」
獣特有の座り方で副操縦席に丸くなっていたサーバルを見かねて、コクトは自分の座り方を見せる。ちゃんと座れたサーバルを見ると、次はシートベルトを彼女に付けさせる。
自分は介護職に就いたのか? と言う疑問は無意味だと解ると、操縦席で離陸の準備に取りかかる。
「何これ!? どうやって動くの!!」
「少しジッとしててくれ……絶対に嫌な予感しかしないから」
最悪の展開を今既にシミュレートし始めてしまった。もう、この先何があっても良いようにと言う心がけだったが、一番はそれをさせないことにつきる。
エンジン音が機内に大きく響く。
プロペラは回転を始め、次第に風を切る音を立てるほどにまで回転数を上げた。
「わーうるさーーーい!!」
「わるかったなーー!!」
耳当てを渡したいのは山々だったが、耳が二つも付いていては渡すに渡せない。ヒト化の際の耳は会話の為、獣としての耳は本来動物が使う耳で、高音を聞き取る為の物と仮定すれば、ヒト側の耳を塞いでも意味が無い。
「……、」
のだが、ふと思い出したかのように耳当てを取り出すと、サーバルの耳に付けた。
頭頂部の耳を倒し塞ぐように。
「きこえなーい!!」
最早お構いなしだ。今は離陸だけに専念していた。
空中を飛行すること。
獣にとっては、地に足が付かないと言う懸念が、恐怖を生む。空を飛ぶ鳥達は、己が翼で自由に行き先を変えられるが、捕食される側や、何かしらの人為的な力によって自分の体を浮かばせられれば、それはもう何も出来ないという恐怖に等しい。
……のだが。
「うわああああああああああ飛んでるーーーーーーー!!!!」
その心配も無いらしい。
「どうだ、空の旅は?」
「すっごーい!! 空から見る地面ってこんな何だねー」
「まあな。これで、遠くの場所の誰かにも会いに行けるってことさ」
空中を飛ぶ機械の塊は、平原の地を難なく進む。地上から多少離れたところを低空飛行しているだけなのだが、そこから見渡しても、やはりこの地は何処かおかしく見えた。
その理由は、平原を抜け森林の地の上空を飛んでようやく確信となる。
(やはり、土地によって気候や湿度がガラリと変わっている。まさに世界……いや、地球のあらゆる地を凝縮したような場所だ。空から見れば単に日本列島とほぼ近い形をしていても、これ程までに辺鄙な場所は初めてだ)
「うぉぉぉぉお!! 飛んでるぞぉぉぉぉ!!!!」
「だから暴れないでって!!」
コクトの思案する時間でさえ、隣の未だ未知数な生物に乱される。
「……っと、この辺なら降りられそうだな」
森林を抜け、緑生い茂る草原の上を飛んでいたヘリは、ゆっくりと降下し始める。
「ここら辺でちょっと歩いてみるか」
「さーんせー!」
ゆっくりと着陸したヘリは、プロペラの回転を徐々に弱めていく、彼らが機内から降りると、自然と心地よい風が彼らを迎え入れた。
「んー……っはぁ~。空気が気持ちいいねぇ~」
「草原か……。ここらに他の生物がいるのかどうか……」
「うーん、わかんない!」
「ですよね」
緑一色の草原を、サーバルとコクトの二人が歩いていた。未だ他の生物には巡り会えない中で、サーバルはふと思い出したかのように話を切り出してきた。
「ねぇねぇ、コクトはあのへりで来たの?」
「ああ、そうだ」
「どっから来たの?」
「こっから……離れた場所って言えば良いかな。海を越えてきたんだ」
「海?」
「なんだ、知らないのか……って、当然か」
サーバルキャットの生息地を考えれば、サーバルが海を見たことも無いのは頷ける。元々内陸に居た獣からしてみれば、あの広大な水の世界は未知数なのだろう。そうで無くとも、きっと生まれたばかりなのだ。
「ねぇねぇ海って! 海って何!?」
「海って言うのは、潮水で出来た大きな水たまりみたいな物さ。いや、湖がとんでもなくデッカくなったとでも言えば良いのかな」
「へー、行ってみたーい!!」
「まあ、この先私も当分此所に居るだろうし、近いうちに海に行くか」
「やったー!!」
海を知らぬ彼女に海を見せる。
他愛も無い約束なのだが、彼女には壮大な発見を期待させていたのだろうか、ピョンピョンと草原を跳ねて先を進んでいく。
「おーい、危ないぞー」
「大丈夫大丈夫! 私ジャンプ得意だし♪」
「へいへい……」
「キャッ!?」
「グェッ!?」
言ったそばから、彼女は何かを踏んだかのように、ズテンッと足を滑らせ背中を下にぶつける。その足下からは、また何か別の声も響いていた。
「ほーら、言ったそばから」
「キュー……」
「……って」
コクトがそこに近づいていくと、倒れたサーバルの下敷きになっているもう一人の少女が、空気の抜けていく風船のような声を出しながら倒れていた。
「痛ったたた……」
「サーバル。下、下」
「ふぇ……?」
サーバルもやっと視認したのか、自分が誰の上に居るのかを確認する。
「ひゃっ!? ご、ごめん!!」
ギュムッ!
直ぐに退けようと、ビュンッと飛び退こうとするが、その足場に居た彼女を再度踏み台にして飛び退き、下敷きになっていた彼女の最後の空気までも吐き出させた。
「……、」
「きゃぁぁぁぁごめんごめんごめーーーん!!」
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