第7話 水の行方
王宮は以前の跡形もなく崩れ落ち、ボロボロの格好の王や大臣が、方々の体で這いずって、青白く燃え上がる王宮より脱出していた。
空が白くなり、夜が開ける頃。
王宮を包んでいた青白い焔が、やっと自然鎮火した。
唖然とした表情で王宮を見つめる王や大臣や国民の前に、龍の姿をとったセイとセンカが舞い降りた。
神々しく美しい二体の神龍の登場に、場は騒然となった。
皆が皆、息をのみ、夜中の雷が神龍による天罰だったのだと思い至ると、皆がみなごくりと固唾を飲み込んで辺りが、しん……と静まり返った。
二体の龍は、王宮であった瓦礫のもっとも高いところに静かに降り立つと、セイとセンカは人の姿に変化した。
するとセンカの姿に、かつて暴力をふるった覚えのある大人たちの顔色が色を失って、サッと白く染まった。
やはり、センカの姿を見て驚愕な形相から悲壮な表情に変わってパクパクと、呼吸の仕方を忘れて苦しそうに口の開閉を繰り返す、真っ青な顔の王と大臣たち。
それを見てセイは、ざまあみろ!因果応報、此処に際まれり!と心の中でおおいにこの国の人々を嘲笑った。
「なぜ神罰が降ったか、理解はしているのだろうか?」
静かなセンカの声に、場はしん……と静まり返った。
しばらくしても、誰も声を発することが出来なかった。
ふつふつと、センカの中にまた怒りが沸き上がった。
「砂漠の国の民の口は偽りか?
それは、なんのための口か?
センカの問いに答えよ!
要らぬなら、我が神炎にて焼き捨てるが如何か?」
セイが怒りをたぎらせて、吠えた。
弱者に厳しく辛く当たるくせに、強者には媚びて出方を伺う性根の腐りように、セイは胸がムカムカとざわついた。
セイの怒りに当てられて、幾人かがヒィッ!と悲鳴をあげて泣きながら額を地面に擦り付けて土下座した。
そうして、やはり誰も声をあげなかった。
ただ、小声で命だけは助けてくれだとか自分は悪くないだとか、自己保身の声ばかりが聞こえてきた。
その情けない姿に、センカもセイも呆れてしまった。
「ねぇ、王様に大臣さま。
あなたたちは、わたしに言ったよね?
お前は役立たずだから、この国から出ていけと。役立たずにくれてやる水はない、さっさと干からびて砂に還れって。
酷いよね、あんなに潤してあげたのに。
ねぇ、わたしに何か、言うことがあるでしょ?
それとあの時、沐浴や贅沢の為に、私から搾り取った大量の水はあれからどうしたの?
まさか、わたしみたいに砂漠へ捨ててしまったの?
ヒトが使った廃水で在ろうとも、植物を育てれば沢山のヒトが生きながらえたのに。
なんで、パン屋のお姉さんが生け贄に選ばれたの?
あんな風に残酷に、無抵抗だった乙女を、砂漠の国の唯一の良心を持った乙女を殺した人殺したちが、国の中枢だというのなら。
そして、この人たちに異を唱えないこの国の人々は、末端の人まで人殺しだと言うことだと思うの……。
この考えは間違っているのかしら?
ねぇ、この考えは、間違っているのかしら?」
うわぁぁぁぁっと、あらゆる所で絶望を宿した悲鳴と喚き声があがった。
『違うっ、自分は関係ないっ!』
『悪いのはそこの王や大臣だ!』
『無礼者っ、貴族が贅沢をして何が悪い!?』
『国の為にやったんだ!』
『命だけは助けてくれ!!』
『いまさら神ぶって、なぜ帰ってきたのだ!』
『水が出せるのなら、恵んでくれ!』
『恵むのが神の役割だろう!?
なぜ今まで放棄していたんだ!?』
ありとあらゆる身勝手な罵詈雑言に、セイは無表情になり、センカは哀しげに顔を歪めた。
「センカ、この国はもうだめだわ。
ここまで悪が凝ってしまっては、これはそこらにいる魑魅魍魎と同じよ。この罪深さからは、償う力もない。」
「セイさま……、わたし……。」
「なぁに、センカ?」
「わたし、この国に水を与えるわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます