第6話 神龍の怒れる鉄槌
星たちが瞬き、月が天空の天辺にたどり着いたころ。
センカとセイは、殺されて生け贄にされてしまった女人の側に降り立った。
空洞になってしまった目の瞼を降ろして、いくらか女人の形相が穏やかになったよう感じる。
猛禽類の鳥や砂漠の疎ましい獣に食い千切られ、ボロボロになった姿の女人の憐れな様子に、二人は憤りを募らせた。女人の半開きになったその口元に、センカは両手を近付けた。
きっと、沢山の水が飲みたかったろうに……と、ボロボロの亡骸に両手一杯の水を与えた。
それは、哀しみで枯れてしまって突然使えなくなり、心無い人々に役立たずと罵られた、水を生み出す龍の力がセンカに戻った瞬間だった。
センカは天界の野の花を、憐れな亡骸に手向けた。
そして、セイが龍の力で火を灯して、火葬した。
亡骸は灰となり、砂に還った。
人の命のなんとも呆気ないこと……と、センカは呟いた。
ソッと、セイがセンカの頭を撫でて慰めた。
「さぁ、センカ。 神罰を下すときだわ。
良い? まず、こうやるのよ! 」
セイが空に向かって手を伸ばすと、その空を中心に風が吹き荒れた。次第に真っ黒な雲が発生しだし、あっという間に空が黒く染まった。
王宮の上に渦を作り、さらに増幅した黒い雲は城下町を覆って、終いには砂漠を包みこむように広がっていった。
パチパチと空気が放電していた。
セイがぐるりと大きい仕草をしながら空をかき混ぜると、遠くからゴロゴロと言った遠雷が鳴り響いていた。
「先ずは、王宮へ
穢れを祓え、我が雷よ!」
カッ!! ドォォォォンッ!!
刹那、世界が白光に包まれた次の瞬間、紫色に発光した特大の雷が、砂漠の国の王宮に落ちた。
オォォォォォン……と、しばらく大地が雷の衝撃に震えていた。
あまりの恐ろしい衝撃に、眠っていた国の人々は飛び起きて、外に出てきた。
神の怒りの雷に打たれ、青白い焔に燃える宮殿の光景に、国は恐慌状態に陥ってあちこちでざわめき、阿鼻叫喚になった。
「さぁ、センカ、やってごらんなさい?
純粋な怒りを持って、あの憎たらしい愚王が住まう小汚ない住みかを壊しちゃいなさい。」
センは、驚いてポカンとした表情のセンカにニヤリと微笑みかけた。
その壮絶な笑みにハッとして、センカは表情を引き締めた。
「はいっ、セイさま!」
「いい返事ね。
力の使い方は、水を出すときと一緒よ?
いいかしら、よく聞いて?
まずは想像力。そして創造力。
造り上げる力を、力を作用させる場所のうえで固定して、一気に解き放つのよ。」
「はい……っ、やってみます!」
センカが人指し指を天に向けると、先程の遠雷よりも激しく、より王宮の真上でゴロゴロと雷が鳴った。
鳴るか鳴り終わるかのうちに、また世界が白光に包まれた次の瞬間、先程の雷よりも数倍大きな紫の閃光が、大地に突き刺さるように落ちた。
ゴガアァァァァァァァンッ!!っという音と共に大地が揺れて、人々は更に泣き叫んだ。
「あら!上手に出来たわねっ!」
「センさまのご指導の賜物です!」
にっこりと、龍たちは微笑みあった。
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