第1097話「伝承_序」

午前三時の山。

老人と少年が現れた。

少年は老人(一般人が想定する長い時間を生きる人間を指す言葉。歴史の生き証人)よりもずっと弱々しく、考え方も幼稚ではあったが、老人を上回る努力の才を持っていた。勝てないなら勝つための努力を惜しまない、努力することに一切の苦を感じない、最も効率の良い努力の仕方を本能的に理解している。今でこそ老人は師匠と呼ばれているが、あと十年もしないうちに少年が老人を超えてしまうだろうことは想像に易かった。そうなれば、老人は隠居かと近い未来を思い浮かべて微笑む。

だがいきなり長いレールガンを持った女子高生がやってくるまでもなく、とにかく人間としての宿命で少年は女子高生となり、女子高生ライフを堪能している間に老人の教えを失いかけた。

そんな日々の中、元少年こと徒手空拳で遊び回る女子高生のもとに雀がやってきた。雀は一通の手紙をくわえていた。拳法を繰る女子高生が手紙を開くと、文面には老人の死が綴られていた。女子高生は老人が教えてくれた技、そして心を思い出し、その極致たる心山拳を広めるべく新たな部活動を作ることにした。

部活動設立書類を片手に職員室へと飛び込んだ拳法女子高生を待ち受けていたのは、玉座に座った神代高校校長と卓を囲む教員たちであった。部活動を作りたいのならば、と校長は言う。これら教員と順に戦い、私に挑むがいい。教員たち程度に負けるようなら、文字通り校長の足元にも及ばぬ。

宴の時間が始まる。

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