第597話「異なる私、此処にいる私」

午後三時の豪雪地帯。

寿命を全うしたカモシカが現れた。

カモシカは新幹線(一般人が想定する高速移動が可能な乗り物を指す言葉。カモシカと激突しても運行に影響はない)よりもずっと弱く、ボロボロの身体で戻ってきてはトレーニングを繰り返したことで群れの長になる程度までは強く成長した。長となったカモシカは、群れを外敵から守りながら妹とともに平和を謳歌した。流浪の旅に出ることはなく、ジャングルで戦うことも、月で壮絶な争いの末に消滅することもない。それは平穏で優しい、カモシカが傷つかない世界だった。

そこにいきなり長いレールガンを持った女子高生がやってきて、異なる彼が辿った運命を伝達した。

かつて強さを求めたカモシカは、至高の己を知らされてもなお、これで良かったのだと微笑んで息を引き取った。

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