【11】忠誠の(2)
光など届かない、暗い闇の中にいた。当然だ。母の死、自らの昏睡、目覚めてからの数々の悲劇。身分を伏せたまま生きることを強いられ、挙句の果てに継ぐはずだった城は他人が君臨し、その娘の護衛となった。
君臨している王には、母の死に関与していると噂まであるのだから、憎しみは尽きず、希望など見えるはずもない。
そんな深い闇から
「今日は外出の予定はございません。たまには中庭でも歩かれたらいかがですか?」
温和な大臣の声が聞こえたのは、護衛に就任してから二ヶ月後のこと。
「わぁ!
弾む幼い声に、妙に冷めた感情を覚えた。はい、と返事をしたかも定かではない。
幼い
「ねぇ、
「え?」
「お花、嫌い?」
キラキラとした瞳。──そういえば、
決して、誰に対しても人懐っこいわけではないのに。
「あ、いいえ」
「教えて」
──どうしてこの人は、わざわざ笑顔で構うのだろう。
ふと湧いた疑問は、胸をざわつかせる。
「この花です」
「あ~、きれい」
離れたところに咲く、ちいさな白い花が集まるものを指さす。すると、
賢く利口で、清楚なちいさい背中。その背中を見つめ、黒い感情が渦巻く。
周囲の者は、誰もが
ただ、否定したい感情があるだけだ。王の娘、それだけの理由で。
──この娘が、王がいなければ。
何年もふたをしてきた、あふれ出そうな黒い感情。
その渦に呑まれたのか、気づくと
「いいよ」
「何かがあってそう思ったんでしょ?
背中を向けたままの無防備な姿。まるで、すべてを知っていて、殺されることを願っているような。
なぜ剣を抜いたのかと、息が詰まる。
──誰を殺そうと……。
誰に、剣を向けたのか。己の意識を取り戻すように自問自答を繰り返す。
カラン
手からは力が抜け、剣を落とした。思考がまとまらない。ただ、真っ暗な空間に閉じ込められたようで。
「
泣きそうな、幼い声がする。
「
目の前には、心配そうに涙をためた少女の姿があるだけだ。でも──剣を向けられたのは、その泣きそうなほど心配する人であって。
──この方は、まさしく『
「以前から申し上げていた通り、お好きに処分なさってください。ですが……ですが、もしお許しくださるのであれば! 今度こそ、俺を
膝をつき、頭を地につくほど下げた。
──愚かだった。この人に、親の罪はない。剣を、殺意を向けた以上、報いは受けるべきだ。
そのとき、一筋の光がまっすぐに
「
剣を、殺意を確かに向けた。──その相手に、言える言葉とは到底思えなかった。
──憎しみは憎しみしか生まない。
そう示してくれた
翌日からだ。
「
独自の愛称で呼び、
そして、ふたりの距離は急速に縮まっていく。
いつしか互いに向けられた心は、いつ触れ合ってもおかしくないほどに。
姫と護衛の恋愛は厳禁。それを承知の上で。互いにその想いを秘めて。
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