【10】伝承(2)
充血した瞳は、憎しみをためている。
「俺が十八歳になる直前で、婚約の延期を大臣から告げられたあのとき、俺が感じたのは絶望だけだ。十八歳になったら地位だけでも……母上の息子だと公言できる日を取り戻せるかもしれないと、心の片隅でずっと思って、それを支えに俺は……何でも耐えてきた。ずっと、ずっとだ! クロッカスの色彩を失ったことも、一剣士に成り下がることも、
「帰城を切に願ったのは、一年間くらいか。……大臣の言う通りだ。帰城さえしてくれたなら、俺と双子だと証明され、俺の身分は戻ると待ち望む気持ちはあった。ただ、行方不明になってから十年以上も経ち、生きていないと思う方が自然で、気も楽になった。当時の現状を受け入れ、
言葉は途切れ、ふと静寂が流れた。
三年前、
深呼吸で受け止める。口に出してはいけない想いを、言わなくてはならない。
「どうして心が奥底から求めてしまう人と、同じ日に、別の誰かと結婚しないといけない?」
それは、なんでも譲るように差し出してきた
「もともと俺にとって結婚は、
「
曇った表情に大臣は問う。すると、
「それに……ましてや、妹だ。血が繋がらないとはいえ、承知している」
「
「わかっている。ただ、俺の記憶には、確かに……」
「
何もかもが狂ったのは、あのときで。──
「それは俺も同じだ。
「このまま
「あいつは帰城しない、俺は結婚しないと決めている。……
「このまま、貴男で
「では、俺にどうしろというんだ!」
感情を露わにする
「俺は元の地位へは戻れない。それでいいと飲み込んだ。……それがすべてだ」
光は、絵画を照らすのみ。他にはこぼれるだけで、闇が周囲を支配していた。
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