【28】箔
王の間の扉が見え──扉が開いた。
誰かが出てきた。
派手なドレスのうしろ姿に、
──まさか、ね……。
そう、
母かと思い足を止めた体の反応に、
母は恐怖の存在だが、父は苦手な存在だ。
母は個を全否定するが、父には生から否定されている気がする。母と対面しているときと同様、生きている心地などしない。
呼吸が止まりそうになりながら、
トントントン
「どうぞ」
たった三文字の言葉に、
ドアノブに伸ばす手が震える。数えるほどしか会ったことがないのに。それこそ、ふたりきりで会ったことなど、片手で足りる。
叱咤されたことがあるわけではない。むしろ、その逆だ。
「入ります」
己への言葉かのように言い、グッとドアノブのつかみ扉を開ける。すると、足元がすぐに見え、
「お、呼びで……しょうか」
スムーズに声が出ない。
それはそうだろう。
──これまでは俺がいくらずっと見ていたって、少しでも見ようとしなかった癖に!
動揺した
「私が君を呼んだ。そう……間違いない」
呼吸を意識して行わないと、過呼吸になりそうな息苦しさ。
目の前にいるのは──初めて救ってくれるのではと期待した人であり、息子と思ってくれていると思った人であり、見てほしいと願った人であり、羨望の人であり、諦めた人であり、血縁を憎んだ人であり、生き方までつくづく似ていると痛感している人だ。
──
一歩、
安堵と同時に沸き上がったのは、静かな怒り。
──俺と同じような、こんな思いを抱えさせるなんて嫌だ。もし、俺が産まれてくる子を愛することができたなら……俺は、この人とは違うと、思える……か?
再び視線が合う。少し背の低い父から視線を離せず、体が固くなっていると、
「君の人生は、私よりも酷なものになってしまったかもしれないね」
と、予想だにしない言葉がかけられた。
あり得ないことの連続で、
「
「いいえ」
「そうか。君は私と違うから……きっと悲しむんだろうね」
話が見えず、更に
「
ワントーン低い声にドキリとする。
それに、
混乱が混乱を呼ぶが、
「はい」
父が言わんとしていることが聞こえてきそうだと思いながらも、ここで偽れる
次第に
「
『諦めろ』と同義の言葉。それに加え、従う返答をすればたった数秒前の感情を覆すことにもなり、それは、父と同じ道を辿ることと同義であり──
「会いたいです」
涙は今にもこぼれ落ちそうなほど、瞳いっぱいに溜まっている。それでも、こぼすまいと堪えていると、左肩を軽く叩かれた。
「やはり君は私の息子だ、
父は笑っていた。
張り詰めていたものが、プツリと切れた。
初めて向けられた父の笑顔と『息子』という言葉は、とても卑怯だ。
我慢していた涙は、堰を切ったようにボロボロと落ちていった。
『とは言え、独断で私も
眩しいほどの笑顔で告げた
翌日、
外見の派手さが抜けていた。
──昨日、父上の部屋の前で見たうしろ姿は……まぎれもなく母上だったのか。
また、
数日後、
──誰だ……。
脳内で合致した瞬間、
便箋は二枚重なっていて、一枚目には日時と場所が記されていた。重なっていたもう一枚には、何も書かれていない。
──えと……これは、つまり……。
届いた手紙は、
記された日時は、翌日の早朝だった。
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