再認と期待
【9】吉報
時はまだ、
けれど、実際は──ひとつの波がふたつ、みっつと続けば荒波になるように、変化は連鎖的にしていくのかもしれないと思わざるを得なくなっている。
珍しくなかなか落ち着けずにいる。いや、めでたいことだからと、できれば一緒に変化を楽しみたいと願う。
そうして、
コンコンコン
「は~い、誰?」
声とともにドアが開く。夕暮れのような、青紫とも灰色ともいえる色の長い髪が揺れ、顔を覗かせた。
「誰? って聞くんなら、ちゃんと返答を待って開けなよ……って、いつも言っているでしょ?」
「い~じゃない。こんなにきちんとノックするのは、
口調はいささか厳しいが、怒ってはいない。彼女らしいと言えば、彼女らしい。
「それで、なあに?」
「ああ、これ」
仕事の資料を
「わざわざ……」
こんないつでもいい物を──と言おうとして、
資料を見つめていた
「吉報……待ってるんだけど」
一方の
それから、数分。ようやく
「聞いた……んでしょう? 本当は」
「何を?」
再び
「うん。聞いた」
と、クスクスと笑いながら答える。
「おめでとう! うれしくて」
ただ、悪意はなかったようで。
「あ……りがとう」
よほど恥ずかしいのか、顔の赤みはとれない。大人しくなでられている様は、まるで猫だ。
「あの、ね……
「で、落ち着いたらまた今年も、
「ありがとう。でも、僕は遠慮しておく」
「えっ?」
「これから結婚するふたりでしょ? 誕生日のお祝いくらいは……ふたりでしてよ」
「あ~あ、
「そうなの?」
「え~、相手は誰?」
「
「うそ! え、え? 本当に?」
「本当。いつの間にって……僕も驚いた」
ただし、料理に対する愛情は深い。飽きさせないメニューと、栄養バランスと経費を考え、季節に合う料理を提供してくれる。調理器具や調理場の清掃にも抜かりはない。
これは前君主、
『研究者も料理人も、清掃の人も、同じところで働く者たちは分け隔てなく皆、平等。誰が欠けても普段通りの仕事を誰ひとりとしてできない。皆が皆に感謝をする』という考えは、
まさに研究者にとっては天国の場。代行を希望すれば、研究者は『研究以外の一切をしなくても生活可能』な環境になっている。
電球交換などの雑務も
『君主の妹は研究者ではなく、声がかけやすくて親しみやすい女の子』と周囲に解釈されていると言えば妥当なところか。
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