【10】年上の義弟
真っ暗な空間のはずなのに、誰かの足がスッと
父はやさしく囁く。
「さぁ、立ち上がるんだ
おだやかなであたたかい声。そして、何よりにこやかに微笑む姿に、
一方で
目の前にいるのは、紛れもなく父だ。
やさしい光が、
闇が光に消されていく。
「お願いだ。
父の安らかな笑顔。もう見られないと思っていた表情に、
「はい」
自然とこぼれた笑みは、言葉を理解して作ったわけではなく。幼いころのように、ただ、父がいてくれる安心感と喜びでこぼれたものだった。
憧れ続けた父。そんな『父の代わり』を、
何はともあれ、
けれど、君主を目の前にして座る大男は、まるで拾われた子犬かのように何もわからず、ただ緊張を増していくばかりで。この男の気持ちを微塵も想像しない兄妹のごとく、テーブルの上では、あたたかいアップルティーがのほほんと湯気を上げている。
ゆらゆらと、どのくらい湯気が空気に溶けていったころだろうか。静かな空間は、突如、崩される。
「お義兄さんと結婚させてくださいっ!」
意を決したのか、勢いよく大男は頭を下げた。
ティーカップたちは小話するかのように、ちいさな音を立てる。
勢いに圧倒されたのか、
「え~……っと」
「あはは……ねぇ、
けれど、ここには話の舵を握ろうとする冷静な人物がきちんといて。
「
仲いいふたりのやりとりに、
半分パニック状態の
こんな
「いいよ。
無邪気に
「うぅぉおおお!」
窓に向かって叫ぶ姿は、雄叫びを上げる狼そのもの。
遠目に
「何だか、
「そう?」
「私が寝ていた間のこと、ずっごく心配してくれていたみたいでね。みんな、気づいていたのかもしれないんだけど、目の色……どうしたの? って、
すっごく心配していたと
そういえば以前、
「なんて言おうかなって思ってたら、告白されたり、プロポーズされたりですっごい驚いたんだけど……」
ごく一部の状況しか
「
ふふふと照れたように言うその仕草を見て、妹は幸せになると
「おめでとう」
「ありがとう!」
手元を離れていくのは、さびしい。だが、妹の決断は逞しくも思える。
ふたりをそっと見守っていこうと、
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