【7】痛いほど(1)
夜中に
気怠そうにシャワーを浴び、普段と変わらずにゆっくりとストレッチで体を動かす。筋トレをしながら時間を確認し、シャワーを浴びて、きちんと身支度を整える。そろそろ乗り換えだ。
朝食を食べながら、大臣に祝いに行ってはどうかと提案されたときのことを思い出す。祝いというのは大臣の推測だが──そう、
大臣は憶測のまま『めでたいこと』と言ったが、
挙式に参列してくれていたとき、いつになく表情が固く見えた。笑ったときも無理をしているようだった。元気がないというか、生気がないというか、とにかく
大臣は今回の目的を『祝い』と決めつけたが、こうして機会を作ってくれたと
──ゆっくり話すには、いい機会だ。
どう想像してみても、わからないというのが正直なところ。
船を降りると、城下町に
「ありがとう。わざわざ出迎えてくれたんだ」
「折角会えるなら、気の休まるところで会いたかったから」
元気のない
「
「俺も」
「何それ、自分のことでしょう?」
と、
ふたりで笑いつつ、
「ねえ、どこかで手合わせ願えない?」
「え? ああ、うれしいな」
自然な笑顔が
「清々しいね」
「お願いします」
ためらいなく真剣を抜いた
「お願いします」
一瞬にして、
ジリジリと
もし、そうだとしたら。
「どうしたの?」
「だって」
それなのに、目の前の
「手当……してもらおう」
剣士同士なら、勝敗がついてからしかあり得ない台詞に耳を疑う。あり得ないことだ。このくらいの出血で勝負を投げ出すなど。
それに、もし実践だとしたら尚更だ。出血がどんなに多くとも、血に怯めば隙をつかれて確実に襲われる。──それは、自らの命を差し出す行為と変わらない。
だから
「今日は俺も手加減なしで、互いに憂さ晴らしになればと思ったのに。放棄させてしまったね……すまない。俺は切るのも切られるのも慣れているから、その、何とも思えないけど……」
人を切った感覚は手にこびりつき、いつまでも残る。
ふと、
「俺の、覚悟がないせいだ」
ポツリと
「痛感した。何が足らなかったのか。人を切る覚悟だ。俺は、初めて手合わせしてもらったときに真剣を人に向けるだけでもためらっていた。切る度胸なんて到底なかった。今日だって……覚悟して剣を抜いたはずなのに、怪我をさせるなんて思ってもいなかった。俺は……何に対しても覚悟が足らないんだ」
「向き合ってみる。自分の弱さと。……ありがとう」
率直な言葉に、
「
意外な言葉だと言うように、
変わったと心配していた
「俺は人を羨んでばかりだ」
「え?
「そんなことはない」
「俺は虚勢を張って強いふりをする。自分の弱さも認められないで。昔から……もがいているだけだ」
だから、強いのは
「少し、休もうか」
「あ、でも……」
「大丈夫だよ、このくらい手当しなくて」
──困ったな。
「このくらいの傷、止血をしなくても致死量に達しもしない。……心配しすぎ」
大袈裟に背伸びをしながら
「
これまでも正直に、
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