【9】真逆の存在
静寂が部屋を包んでいた。両手も両足も力が入らず、ベッドの上でぼんやり薄暗い天井を見ている。室内はシンとしているにも関わらず、
胸が騒がしくなったのは、
「こちらが
そう言って、鍵を渡そうとしたとき、その手を
「離れがたく、もっとお話したい、一緒にいたいというのが本音です。ですが、今日のところは部屋へのお誘いを控えておきます」
「次回、このような機会がありましたら、そのときは遠慮せずにお誘い申し上げます。そのときには、よいお返事をくださいね」
微笑む
「大丈夫?
呆れるような
だからこそ、
連絡をしたからといって、
しかし、いつの間にか──気づけば火がついたように体中が熱くなっていた。
「ほら、兄上。宣言通り、おとなしく部屋に入って」
「はい」
「おやすみなさい」
それからだ。
「
今まで
失礼な人だからと気を遣わずに何度も話しているうちに、なんとなく友人になった。
しかし、
「私、
悩める
「少しは慣れましたか」
思わず
「迷ってしまって……」
話しかけてきたのは、幼い少年だった。前髪は長く、うしろの髪はゆるく束ねられている。白を基調とした長袖の洋装で、腰には長剣が見えた。
ただでさえ広い城。且つ、複雑な造りに
「俺が案内いたします。ご安心下さい」
少年は微笑んだ。それで
実際に歩き始めて、
ほどなくして正面の入り口に着き、
「私は……
うつむいていたが、顔を上げ少年を見る。すると、少年はまっすぐと
「俺は、
まだ幼いにも関わらず、しっかりとした声と態度に
「私……城が落ちて……」
誰にも言えなかった悲しみ。決して言いたいことではないが、膨らんでいく悲しみは突いて出た。しかし、声は詰まり消えてしまった。その直後だ。
「それは、お辛いですね」
急激に涙はあふれ始める。
「ごめんなさい」
涙を流し続ける
「しっかりと泣けばいいんです」
その言葉は、
「ここであれば……部屋に戻る道はわかりますか?」
「ありがとう」
『それでは』と言うように、
「私と同じくここに来たばかりなのに……
一瞬、
「出すぎた真似をしました。俺のことは……忘れて下さい」
震えるほどに強く握られていた左手。
それからすぐ、
次に
「頑張る
再会したときの、第一声だ。手を差し伸べて、
「これから、よろしくね」
そう言うのが精一杯だった。
姉妹のように一緒にいたふたりの間に、
妹のような存在を取られる感覚と、好きな人が別の女性と時間をともに過ごす嫉妬。
初めて会ったあのとき、忘れてと言われたが忘れられず、いつの間にか探して、目で追っていた。いつから好きだったのかと言われたら、初めて会ったときからとしか答えられない。
「どこが好きかなんて……全部が好きだったんだよ。ずっと。……私、バカだな。甘やかしてくれる
押されることも、恋愛も失恋も。慣れていない
しっかりと泣けばいい──それは、
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