【7】儚い美形(2)
「きゃあ、
美しく長い漆黒の髪は、雪国育ちの白い肌には一層美しく映る。高い位置で一本にまとまった髪が、ゆるやかになびく。
「間近で見ると、桁違いの美男子ね」
歓喜の悲鳴が次々に上がったかと思うと、
「本当、かっこよくて美しいなんて、罪なお方。ため息しか出ないわ」
と、今度は囁かれ始める。
儚さを宿した瞳。それでいて、子どものように笑ったり、怒ったりとクルクル表情を変える。男らしい低音の声と、見た目のきれいな顔立ちを持つ者とは思えないそうした一面が人々を惹きつけ、魅了するのだろう。それでいて、百九十センチ近い長身。
「いつも羨望の眼差しが向けられるんだ。やっぱり
本人はこれだ。うなづいて黄色い声に共感する
「それ、本気で言っている? 俺がいつも歩いているところでこんな状態になるんだったら、毎日が異常としか言えない」
「あれ? じゃ、誰か他にも来客かな」
一緒に歩く
「さて、始めようか」
稽古場では、金属音が響いて──はいない。もっぱら鈍い音だけが聞こえる。ふたりの手合せは真剣ではなく、木刀だ。
もっとも、
力は雲泥の差だ。
それはそうだろう。幼いころから実践を重ねてきた
『この辺にしておこうか』──そう言おうとして、何度も言葉を呑む。息を上げながらも、
貴族の男で十九歳といえば、多くが結婚している。美男子と有名な父似の
ただ、貴族には建前がつきまとう。後継者の
苦しい片想いをして、告げたいと言っていた。しかし、歯切れは悪く、どこか迷っているようでもあった。
『告白ではなく、
身分差だとしても、
結果は聞いていない。ただ、想いは変わらないようだ。
稀に、結婚の話に触れられるときがある。そんなとき、
来たときは弾けんばかりの笑顔を振りまいて、帰る真際に大人びた表情を見せる。
純粋なままでいるのは、難しいことだ。
「いやぁ、やっぱり強い」
時間にして十分。
「ありがとう、いい気分転換になった」
「それならよかった。船での長旅で疲れが残っているから、きつかったでしょう。それにしても、
謙遜せず、
ひと休憩してから稽古場をあとにし、階段の裏を通って円柱をすり抜けていく。今度は
クリーム色の円柱が、広々とした空間を我が物として、いくつもそびえ立つ。
「何回来ても、まったく覚えられない城だよね。複雑っていうか、開放的っていうか」
「多分、壁がほとんどないせいだよ。円柱が多くて、不規則に並んでいたり、重なっていて通路の妨げをしている。それが開放感を生むけど、円柱がどれも似ているから惑わされて現在地を把握させにくくさせているのは確かだ。長い廊下と入り組んだ階段が拍車をかけるし、ゆるやかな坂で階数を変える仕組みや隠し通路もあるしね」
かくいうこの廊下も、ゆるやかな上り坂だ。しかし、
「これじゃ、侵入者は容易には入れないし、入ったら袋の中の鼠だね」
「一応、城自体も姫を守っているということさ。使用人も普段通るような限られた通路や部屋以外は立ち入ろうともしないしね」
「そっか……そうだよね。俺、
「
道はいつの間にか中二階へと辿り着く。その先に、赤紫の品のよい絨毯が客人を歓迎していた。左に曲がると、いくつかの客間がある。その一番手前の扉を
「はい」
「遅くなり、申し訳ありません」
「あ~、噂をすれば」
「噂?」
「実はね、今まで
「何で俺の話なんですか」
言いたいことは色々とあったが、
「あ……そうね。どうしてだったかしら」
「楽しかったですよ。おふたりとも、とても楽しそうにお話して下さいましたから。それに私の知らない一面ばかりでしたので、関心深かったです」
「恐縮です」
「いいなぁ、俺も聞きたかった」
恥ずかしさに耐える
「では、皆が揃ったのでそろそろ伝説の話をしましょうか」
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