【6】訪問者
「そういえば、いつから一緒に食べるようになったんだっけ?」
「俺が就任して半年後からです」
「どうかしましたか?」
「昨日、
──色々。
それは、何を意味するのか。
幸いなことに、
よほどのことがない限り
「『さみしい』って……泣いちゃったのよね。ひとりで食べたくない~って。私、
「十二、三歳のころの話です。姫とはいえ、ひとりでの食事が辛いと思うのは、当然かと」
やさしいねと
「あのときは、どうしてさみしいのかわからなかったんだけど……あれから何年か経ってから、私にお兄様がいるって知って。なんとなく、お兄様がいなくなったときに似ていたのかなって思ったの。……記憶にはないんだけど、どこかで覚えているのね。多分、食事の前に
人形のように整ったかわいらしい唇で物悲しい過去を語っていても、その可憐さは悲しさで綻ぶ影も見せない。かえって、華奢な体が彼女の可憐さを引き立たせる。
「そうだったのですか」
決して大きい服をまとっているわけではないのに、女性らしい体のラインはまったく出ていない。多くの姫が選ぶような『肩を露出するドレス』を彼女はまず身につけない。――そう、ドレスを彼女は自ら選ぶ。それは、彼女のこだわりだ。唯一の癒しの時間と言ってもいい。
身につけたくないと思っていても、用意してくれたのだからと。周囲に気を遣いすぎていて──どちらが『姫』で、どちらが『使用人』なのかわからないほど。それを、
あのころの幼い
「兄上に……会いたいと思いますか?」
「うん。私が個人的にお会いしたいっていう思いも、もちろんあるんだけど……私自身よりも、お姉様に会わせてあげたいかなぁ。見てみたいんだぁ、お姉様のウエディングドレス姿」
幼い
それは、過去の話で。
今の
「ねぇ、きれいだと思わない?」
「そうですね。はい、きっと
「あんまりお姉様を褒めると、妬いちゃう」
「はい?」
「もう、
「なんです?」
立ちあがる
「なんでもないっ」
食事の場から出て行く
ふと、
『きれい』と聞こえてきそうな光景に、
「今日はいい天気ですね」
おだやかな口調だが、言葉に意味はない。ただ、聞こえてきそうな声を消せれば、それでよかった。
一メートルほど離れた場所から聞こえた声に、
「うん」
うれしそうに
逸らした視界には中庭の景色が映ったにも関わらず、それは妨げられた。その手前のガラスに意識を取られる。
ガラスに映っているのは、軽装備を身につけたリラの長い髪と同色の瞳を持った青年。
──誰だ?
「
「はい」
語尾が弾む
正門に辿り着くと、
目を惹くのは、背の高い方だ。高い位置で一本にまとまった漆黒の髪が、装飾の鮮やかな色と互いに引き立てあっている。剣術によってほどよく締まった体つきにマントの外側の赤がよく似合う。──彼は、弟の
しかし、残念なことに、本人は向けられている視線も声も、他の誰かに向けられていると思っている。ゆえに、罪深い。
もう一方の者は、
背は五センチほどの差だが、美人と称される
「
振り返った
「ようこそお越し下さいました」
「ご案内します」
と、
五人は誰が言うでもなく、二組にわかれて歩いていた。前を歩くのが
城内に入ってまもなく、
「
「申し訳ありません。すこし席を外します」
「え~、
「いいえ、詳細までは。のちほど、またご一緒させていただきます」
「わかった。またね」
と、了承の返事を出す。
足音と談笑が遠ざかると、
「ごめん。その……大変だね」
と、
「大変ではないよ。苦手でしょ、ああいう雰囲気」
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