【4】姫
「その伝説はね、
腑に落ちない表情が
「
それはそうだろう。姉妹のように育った
「わかった。ありがとう」
軽く手を上げ、
「もう行っちゃうの?」
「長居して悪かったね」
素っ気なく
「長居だなんて……思ってないわ」
と、
宮城研究施設を後にした
L字の渡り廊下を曲がらずに、まっすぐ進む。この先にあるのは、緊急時用の塔だ。正門に近い宮城研究施設に対し、緊急時用の塔は
塔の入り口をくぐると、壁に添って螺旋階段が見上げる限り続いている。それを視界に映しても
均等に設置された蝋燭は炎を灯し、揺らめくそれは塔の内部、氷のような水色の煉瓦を照らし続ける。影となっても炎は揺らめき、黒くもやもやした
つまり、大臣もふたりの訪問を了承しているということだ。
大臣は
──実に身勝手な話だ。
最悪な想定をしていた。
大臣が
うつむいていた
淡々と一定の速度で登り続けても、
差し込む陽ざし。輝く光に包まれる、ひとりの人物がいた。目が慣れてくると、光は徐々に視界を妨げなくなる。
最上部にいたのは、肩ほどの長さのクロッカスの髪を持ち、華奢な体を白いドレスで包む少女。
「
ドレスと言っても、他の姫が着るような肩の見えるドレスではない。肩や胸元の露出はなく、足は膝さえ見えない。
幼い印象がありながらも、上品で且つ、華やかな印象を残す姫──それが
「
体の正面には、大きなキャンパスがある。
この塔は緊急用途のため、人の出入りがない。人がいない分集中できると、
「もうそろそろ完成しそうなの」
クロッカスの瞳を大きく開け、ジッと見上げる。
キャンパスには未完成と聞いても、とても一般人には理解できないようなものが描かれている。全体に白く、一部はぼやけていて、とても抽象的なものだ。
誇らしそうにキャンパスを見上げる
「今回もまた……素晴らしい絵画ができそうですね」
まさかの絶賛だった。
「どこまでも儚げで、残虐で、切ない部分もある。……この表現は
どうやら、この美的感覚を
「また
満面の笑みの
微笑み合って意思疎通のできるそれは、まるで──笑い声なくあたたまった空間は、春のようにおだやかな雰囲気を醸す。
「そういえば、今度。
「吉報は耳にしております。ちょうど先ほど
発言と同調した
「何がおかしいのですか?」
不満そうな
「だって。私は心配なことなんて、何もないもの。
「それは当然のことです」
「ほら。心配なんて、ないじゃない」
ゆらりと揺れるクロッカスの頼りない長さの髪。その色彩と長さに負けず、しっかりとした笑顔がそこにはある。
「そうですね」
逆に、
「それに、
「俺もそうであればいいと願っております」
「
「お褒めいただき、恐縮です」
「ねぇ、
ふたりはどちらから言うでもなく、扉へと歩き始める。
「
「うん! 楽しみにしてるね」
朝食も夕食もともにする。昼食はケースバイケースだ。やはり、姫と護衛にしては距離が近すぎる。
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