第2話
♦♦♦
「春樹~、早くいこぉぜ!」
誠一は春樹といつもの中庭に行こうとしていた。しかし、
「わ、悪い。今日はちょっと無理」
「え?! マジスカ? なんかあんの?」
「ちょ、ちょっとな」
「そうか。分かった」
誠一は疑いつつも、一人で中庭に向かう。春樹は昨夜の道具を使うため、普通は入れない屋上へ向かう。
この屋上は普段、鍵で閉められているが、春樹はこの解除方法を知っていた。それ故に悩み事など抱えたときは、屋上に来て寝転がり、一人憂鬱な時間を過ごすのであった。
「よし、ちゃんと空いたな」
屋上へと入る手前、誰か後ろにいないかを確認する。
「こ、これを握ってと」
そう言って、昨日の説明書通りに事を進めていく
――スゥと大きく息を吸って、
「未来祭ぃぃぃ! 付き合ってくださあああああああい!!!!」
春樹は叫んだ、心の奥にあった気持ちを思い切り出した。叫んだあと、すっきりしたかのように、背伸びをして指輪を見るが......
――そこには指輪はなかった。
「な、なんでだ!? ちゃんと成功したよな、誰かに聞かれた?! いやしかし、聞こえるはずないよな。じゃあ見られた!? でも、この屋上にはだれも......」
といって春樹はあたりを見回す、すると、ドアの付近に未来祭がたっていた。春樹の顔はどんどんと青ざめてゆく。一方、祭の顔はみるみるうちに赤くなってゆく。
しばらくの沈黙の後、春樹は声を絞り出す。
「あ、あの。これは違くて......」
「は、はいっぃ!?」
祭は驚いたように悲鳴に似た声を上げる。
「ほんとに......違うんです」
今にも消え入りそうな声で春樹は告げる。
再びの沈黙......
すると今度は祭が意を決したかのように、大きく深呼吸して一言。
「ごめん......なさい」
屋上で、告白した形になってしまった春樹は、断られてしまった。
「はい......」
春樹は今にも死にそうな顔をして、重々しい足取りで屋上から去ろうとする。しかし、祭はそれを引き留めて、
「で、でも......友達なら......まだ御幸君のこと知らないから」
春樹は内心驚いた。名前を覚えられていたからだ、それに少しだけ救われた気持ちになる。
「そ、そうですよね......いきなりで、ごめん」
「ううん、大丈夫」
「じゃあ、また今度」
今度こそ、出ようとしたが、また引き留められる。
「御幸君」
「な、何?」
祭は春樹の目をじっと見つめて、一言。
「私と、御幸君の距離ってどのくらいなのかな」
春樹は急な、意味のわからない質問に少し驚いたが、ゆっくりと、冗談交じりで答える。
「1メートル......くらいかな?」
すると、祭はニッコリと笑って
「ありがとう」
春樹もまた、彼女に心を奪われるのであった......
♦♦♦
「よっしゃ! 春樹、ほんと弱いよな!」
「ほ、ほっとけ! お前がスネーク使てくるからだろッ、あんなのチートだチート」
「フンッ、負け惜しみが見苦しいぜぇい」
春樹は、誠一の家でいつものようにゲームをしていた。
部活はさぼり、こうやって家で2人で遊ぶのが放課後だった。
「ところでさ、春樹」
「ん? なんだ?」
「未来祭、いんじゃん?」
「ブハッッ」
飲んでいたコーラを盛大に噴き出し、あからさまな動揺を見せる。
「い、いんな。転校生のな、お前めっちゃ仲いいもんな」
皮肉を込めたように言う。
「少しだけな」
「それで、未来さんがどうかしたのか?」
「あれさ、ぜってー俺に気があるわ」
「ブハッ」
本日二度目の華麗な吹き出しを見せるが、誠一は気にする様子もなく続ける。
「だってよ、今日なんか、5回ぐらい目が合ったんだぜ?!」
「そ、そうか。それは良かったな」
春樹は告白してしまったとは言えなかった。
裏切りの指輪~15cmの距離~ 青葉夏木/ひきこうもり(仮) @aobanatuki
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