裏切りの指輪~15cmの距離~
青葉夏木/ひきこうもり(仮)
第1話
俺の名前は
俺には一つ、大きな悩みがあった。それは、誰しもが悩んだことがある事。
俺にとっては人生最大の悩みになるかもしれない。
――それは”恋”。
♦♦♦
「こら! 起きろ!」
そう言って国語の先生が出席簿で春樹を叩いている。春樹は国語の授業となるといつも寝ている。
「うぼっ!」
春樹はそれを受け、寝ぼけ眼をこすりながら起きる。すると、起き方が面白く、クラスでどっと笑いが起きる。
「昼寝とはいいご身分だなぁ! 御幸っ!」
「す、すいません......」
「次は、ないぞ」
「は、はい!」
先生はあきれ顔で授業を再開する。 春樹は、今まで寝ていた分の黒板をノートに書き写していく。すると、後ろから小さな声で
「お前国語の時、いっつも寝てんな」
喉をクククと鳴らしながら誠一は言う。誠一は小学校からの親友で、喧嘩こそするが、毎日のように遊んでいた。
「だってさ? 国語つまんねぇんだもん。てか起こせよっ!!」
春樹は思わず大声を出してしまう。すると、
「俺が起こしてやっただろ? 何か文句があるのか?」
そう言って先生は、春樹の頭をわし掴みをして無理やり前を向かせる。春樹はというと汗が吹き出し、だんだんと顔が青ざめてゆく。
「そ、そそ、そうです......ねぇ」
「お、廊下に立ちたそうな顔をしているな?」
「い、いえ! これは”先生の授業を静かに、まじめの受けたいな”の顔です!!」
「そうか......なら、先にそうしろ!!」
春樹はそう怒鳴られ、ハァ、と小さくため息を一つ。
教室の所々でクスクスと笑い声が聞こえてくる。こんなパッとしない春樹だったが、ある日を境に急変する。
♦♦♦
俺は恋をした。完全に一目惚れだった。
あれは、二週間前の始業式の日。俺は、ついに後輩できると浮かれながら、学校に向かっていた。
そしてクラス分けの末、友達とも同じクラスになることができ、幸先の良いスタートだったと思っていた。
しかし、それは転校生が来るまでだった。
♦♦♦
――始業式日のHRにて
「こ、こんにちはっ
転校生の自己紹介によって、教室はお祭りのようになった。もちろんそうなるだろう、きれいな長い黒髪、透き通るような白い肌、制服がとても似合うスタイルの良い体つき。これを見た男たちは、もう止められない。
ゴリラのように叫ぶ者。廊下に走り出て叫ぶ者。友達同士で抱き合う者。スマホの連射機能を発動させる者。裸になる者。
それぞれが興奮して我を失ったように行動をとった。しかし、その騒ぎは担任の一声により、静寂へと誘われる。
「うるさい」
騒ぎを聞きつけて来た、他クラスの男子たちも、何事もなかったように戻る。
春樹の担任は”平成のゴルゴ”と言われている。なぜそう呼ばれているかは、いずれ分かることだ。
春樹はというと、ポカンと口を開けて、ただただ、転校生の未来祭を見つめていた。
「お、おい」
誠一が春樹を現実に戻そうとしている。しかし、春樹は未だに戻ってこようとしない。
「じゃあ、後ろの開いている席に座れ」
「は、はい!」
担任は転校生を座らせる。隣はというと......
「よろしくな! 俺は
もちろん、春樹の隣ではない。昔から春樹はとんと運が悪い、というか無い。
運動会で走れば転ぶ、おつかいにいけば財布は落とす。本当に可哀想になってくるぐらいなのだ。
「よ、よろしく......おね......す」
「お、おう」
誠一は声が小さすぎて、おびえているような対応の祭に少し困っていた。
春樹はというと、未だに魂が抜けているようだ。
――HR後
予想通り、転校生の周りには大量の人(他クラスもちゃっかり混じってる)が集まってくる。これも定番のイベントだ。しかし、祭は顔を真っ赤にして俯き、一言もしゃべっていなかった。しかし、全く質問は止まらずに、どんどん攻められ続ける。
それを見かねた誠一は、祭の手を引いて
「ちょっと来て」
そう言って急いで教室から連れ出す。その際に周りにいた人からは「抜け駆けかよ!」とか「調子のんなよ」とか、いろいろ文句が聞こえていたが、誠一は気にしない。とにかく、連れ出して上げたい気持ちでいっぱいだったのだ。そして、散々走って、息を荒げた二人は理科室にいた。
「だ、大丈夫?」
そう言って、誠一はうつむいている祭の顔を覗き込む。すると、ますます顔を赤くして
「あり......がとう」
と小さな声で一言。この時、完全に誠一の心は......祭に奪われた。どきどきして、声が震えそうになったが、気を付けて声を出す。
「いや、いいんだよ。それよりもひどいよな? あいつら」
祭は少し間をあけて、ブンブンと首を横にふる。
「わ、私が、話せないのが......悪いの」
ものすごく雰囲気が重くなる。誠一は、ばつが悪くなったように
「じゃ、そろそろ授業始まるし戻るか」
「う、うん......」
二人は重い足取りで理科室を出て、教室に戻っていく。戻る間、二人がしゃべることはなかった。
♦♦♦
授業の合間の休み時間はすごかった。学年の男子たちは美少女を一目拝もうと春樹の教室に殺到していた。
しかしそれは、時間がたつにつれ、だんだんと少なくなっていき、昼休みの頃には誰一人喋りかけることはなかった。それは、彼女。祭が、一言もしゃべることがなかったからだ。それによって、根も葉もないうわさが飛び交うことになる。
「――おい、春樹。飯行こうぜ」
誠一は、祭に話しかけることはできなかった。怖かったのだ。
春樹はというと、一時放心状態ではあったが、もう完全に復活済みだ。
「おう......」
二人は、いつもの中庭に行って、昼飯を食べていく。
「お前は、あの転校生。祭のことどう思う?」
そう誠一が春樹に尋ねる。すると、誠一を睨み。
「いきなり下の名前とは、いつ仲良くなったんだよッ......!! あの後何があったんだ? おい、内容によってはお前の髪が全部なくなることになるぞ」
「いや、なんにもねぇよ」
誠一は、そっぽを向いて答える。
「本当か? でも......可愛かった、本当に」
「だよな。でもなぁ、しゃべらねぇんだよ」
「そうなのか? 俺のイメージでは最高にみんなからの人気者になってる感じなんだけど」
「まさか、でも、そうだったらいいな」
「よく分かんないな」
それぞれ悩みがあるかのように、空を見つめて、黙々と昼飯を食べて行った。すると、誠一はふと、一言。
「俺たち、ずっと親友だよな」
その言葉にはとても強い思いが込められているようだった。
「どうしたんだよ、急に。当たり前だろ?」
すると、誠一はニコリと笑って「だよなっ」と続ける。
♦♦♦
午後の授業は、転校生が来る前とほとんどと言っていいほど変わっていなかった。しかし、春樹だけは違う、上の空だった。
――夜。
春樹はベットの上で、のたうち回っていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そして叫んでいた。
「な、なんだ、この気持ちはッ......!! どうしても、見ていたい! あの子を見ていたい! この気持ちはなんだろう......そうだ、ゴーグル先生に聞くか」
そう言って、春樹はスマホのゴーグルを起動する。そして『特定の女の子に会いたい 気持ち』と検索していたが、その検索結果に驚いていた。
「なんで、一件も出てこないんだ? 壊れたのかな......」
そうしてスマホを振ったり、叩いたりしてみるが......もちろん検索結果は変わらない。
しかし、ある事に気づく
「この、『もしかして:恋』ってなんだ? もしかしてってなんだよ、こんなにゴーグル先生は優秀なのか? てか、恋なのか? この感情が恋なのか?」
春樹は恐る恐るそのボタンを押す。すると、画面が急に変わり、大量の数字が羅列される。
「えぇぇっ?! ウィルスなのか!? ゴーグル先生は俺を裏切ったのか!?」
すると、数字は増え続け......それが終わった瞬間、装飾された一つの文が表示される。
『あなたの悩み、解決いたします。 詳細はこちら➡』
(な、なんだこれ? 新手のウィルスか?! 悩みって......)
ふと転校生の顔がよぎる。
「しょ、詳細......」
春樹は思わず、クリックしてしまった。その瞬間、後悔することになる。
『お買い上げありがとうございました。一時間以内にお届けいたします。』
「やられたああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
今日一日の最高の叫びだった。
――30分後
ピーンポーン......
「来てしまったッ......!! 絶対に出てはいけない、出てはいけない」
春樹は布団の中に潜って、宅配便がどこかに行くのをひたすら待つ
ピピンピンピンポピンポーン
「し、しつけぇぇぇ!!」
春樹の家は連打できるインターホンなので、時々こういうことがある。
すると......
「は~い」
(おふくろ、お前ぇぇぇぇっ!!!!!!!)
――おふくろが荷物を受け取り、俺の部屋に置いていく。春樹は段ボール箱を思いっきりにらむが、開けたいという衝動にかられ。開けてしまう。
「なにが、入っているんだ......」
そこには、一枚の紙と、小さな箱が入っていた。
「う、なんなんだ......」
春樹は紙を手に取り、開く......そこにはこう記されていた。
『お買い上げありがとうございました。 この商品は使用に成功した場合のみお支払いいただく仕組みとなっております。
使用方法 その1 商品を握っていただき恋人になりたい方を思い浮かべます。
その2 大きな声でその方の名前の後に”付き合ってください”と叫びます。
その3 その方の前に行きお辞儀をします。
注意 誰かに見られたり、聞かれてはいけません。 その方の半径2km圏内にいなければいけません。
失敗した場合は指輪が自動的に破壊されます。 以上の点を踏まえた上で、ご使用ください。』
「は?? なんだ、この明らかな詐欺商品。さすがに騙されるやつは居ないだろ...... 指輪か、指輪ね」
春樹はそう言いつつも、内心では使う気満々だった。しかし、まさかこの商品が、運命を大きく分けるとは思ってもいなかった。
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