兄の恋

「じゃあ、くれぐれも火にはきをつけてね」桜子さんは大きな荷物を抱えている。

「うん、大丈夫、それよりお土産もった?」

「い、いや。送ることにしたわ」

「じゃあ、気を付けて」と僕は桜子さんを見送った。


あれから3か月ほど時が経った。桜子さんのお腹は日に日に大きくなっていき僕の楽しみは赤ちゃんに話しかける事になっていった。

しかし、桜子さんもお腹が大きくなるたびに大変なことが多くあるらしい。

「私、ちょっと実家に帰ろうと思うの。お腹も大きくなってきてるんでお母さんに手伝ってもらおうと思って。」と桜子さんが切り出したのは一週間前だ。

「うん、たまには実家に帰ってゆっくりしたらいいよ。そうだ、お義父さんとお義母さんにお土産買ってこようかな?」

「ありがと」「なにがいいかな?」

「まかせるわ」と桜子さんは微笑んだ。


次の日曜僕は桜子さんは横になっていた。

「大丈夫、大したことないわ。」

「そう?ご飯は作っておいたよ。」

「ありがと、あとで食べるわ」

「ちょっとお土産買ってくるね」

僕は車のキーを出した。

「つらかったら電話ちょうだい」といって家を出た。


車に乗って僕は新大阪の駅に向かった。そこのお土産やさんが目当てだ。


「う~~ん」と僕はお土産のまえで途方に暮れる。


「あ、すみません、」と店員さんを呼ぶと

「ここからここまでください」といって僕は手を広げた。

「あ、ありがとうございます」と店員さんは言った。

そのお土産の山を車に積むと僕は自宅の近くのコンビニに向かった。

桜子さんの好きなアイスクリームでも買っていこうとおもったからだ。

 

車から自宅にお土産を運ぶ姿に桜子さんは驚いた。

「ど、どうしたのそれ?

「お土産だよ」

「あ、、ありがとう」

「それとこれ」

「あ、あったんだ」といって桜子さんの目が輝いた。

桜子さんはアイスを持って自宅に戻っていく、僕はちょうど最後のお土産の山を自宅にいれた。


ほんとうなら僕はこれを機に東京に戻ろうかと思ったがさすがに今の会社を辞めるわけにもいかず、涙ながらに桜子さんを見送った。




東京駅に着くと兄の洋平が待っていた。

「おう、桜子。」と洋平が手を振る。

「おにぃ。ひさしぶり」

「おふくろがさ迎えに行けってうるさいんだよ。なんかあったら困るからって、、とりあえず荷物これだけか?」

「うん」

洋平は荷物を車に運んだ。

「何年振りだっけか?」

「そうね、5年は経つんじゃない?」

「長かったな。親父なんて、今日は会合だってのにそわそわしておふくろに怒られてたぜ」

「相変わらずね」桜子は笑う。

二人を乗せた車は浅草の「三河屋」に向かっている。


 三河屋に着くと母の洋子が迎えてくれた。

「桜子、ひさしぶり~~。」

「お母さんひさしぶり」と二人は抱き合う。

「そういえばなんなのあの荷物。。。」

といって母は山のような荷物に目をやる。

「翔太さんがお父さんとお母さんにお土産だって」

「あんなに」と母の目が大きくなった。

洋平は桜子の荷物を部屋に運ぶ。



その夜洋平は「若か菜」で日本酒をちびりちびりやっていた。

父の辰治は横で寝ている。今日は家に帰りずらいらしい。


「それにしても親父さんに似てきたね。」と健司はいった。

「やめてくださいよ。」

「親と子が似るのは当たり前の話さ」

「当たり前か。。。」


「若か菜」には配膳係として二人の女性が働いている。

一人は50を越えた「高木敏江」さん、「成しま」の時から働いているここらの「おふくろ」だ。

もう一人は27歳になる「水木すず」だ。

すずには3歳になる子供がおりシングルマザーとして働いている。

昼間は近所のスーパーでパートをして二人して暮らしている。



「まったくもー」桜子は重たいお腹を動かして「若か菜」に向かっていた。

父が飲みすぎたと健司から電話が入ったからだ。


「若か菜」の前に着いた時兄の姿が見えた。


「あにぃ」と声をかけようとしたが一緒に女の人がいるのが分かって辞めた。

二人とも真剣な顔をしていた。

「洋平さんの気持ちはありがたいんだけど、、、、やっぱりだめ」

「すずちゃん、ごめん、おれがダメなばっかりに」と聞こえた。


「あっ」と女性の方が桜子の姿に気が付いて店に入っていった。


「さ、桜子??」洋平はびっくりしていた。


辰治はいまだ「若か菜」で眠っている。やがて母が迎えに来るだろう。


洋平と桜子は二人して歩いている。

「ね、あにぃ。あの人。。。。」

「な、なんだよ」

「あにぃあの人のこと好きなんだ」

「わりーかよ」

「悪くないよ。結構お似合いだった」

「そっか、ありがと」といって洋平は足を止めた。


「親父にあの人の事つたえられねぇんんだよ。まったくなさけねぇな」

「そんなことないよ。翔太さんだって」

「ああ。でも親父に伝えられただろ」

「う、うん」



三河屋に向かう道には川が流れていてそのわきの道を通っている。


「そういや、ここらへんだっけな。翔太君が投げ飛ばされたの」

「や、やめて」

翔太が三河屋に挨拶に行ったとき桜子の父辰治は怒りのあまり翔太を一本背負いしてこの川に投げ込んだ。その姿を見た母洋子は父を川に放り投げた。

そこから二人で殴り合って最終的には二人して倒れてなんだか「ともに殴り合って分かち合える友」みたいな感じで翔太の中では終わっているがその後が大変だった。警察や消防救急車がオンパレードに来てその対応に母は追われた。

桜子にとっての黒歴史だ。


「まだ、だれにもいうなよ」

洋平はそういって歩き始めた。


「あにぃはそれでいいの?研究者の道を投げ捨てて畳屋になったようにまた諦めるの?それでいいの?」


「わかったよ。明日親父とおふくろに紹介する」



そして次の日。

洋平はすずとその子祥太郎を三河屋に連れてきた。


辰治は怒り心頭のご様子だが母は寛容だ。


「お、おねがいします、すずさんと所帯を持たせてください」

と洋平とすずは頭を下げる。

「あたしからもお願い」といって桜子も頭を下げた。


「ケッ」と辰治は怒っていたが、洋子は祥太郎の相手をしていた。


「なんとかいいなさいよ、おとうさん」と洋子が迫る。

「べらんめぇ~」と辰治は言った。

すかさず洋子の拳が辰治の腹に入る。


緊張した空気の中祥太郎が、「べらんめぇ~~」といった。


「は、はっはっはっは」と笑ったのは辰治だ。

それにつれられて皆が笑顔になる。


笑っている祥太郎を辰治が両手で抱き上げて高い高いをすると祥太郎は笑う。

「よーし、いい子だ、お前は三河屋の跡取り息子だ」といって笑った。


「お、親父」と洋平とすずは涙を流す。


「これから兄を宜しくお願いします。おねぇさん」といって桜子は頭を下げた。


「孫が二人もできて三河屋はこれでなんにも問題ねぇ」


久しぶりに三河屋にえがおが包まれた。







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