天引きの神島の初夜『悪夢と入り口』
『…………ケテ……』
遠くから声が聞こえる。
若くて綺麗な女性の声。
『タ……ケェテ……』
何かを求めて伸びてくる手。
俺はその手を掴むように手を伸ばす。
『タ………ス…ケェ……テ』
徐々に手と手がふれ合う距離になる。
もうすぐと言うところですごく嫌な予感がする。体の底から冷えるような嫌な感じ。
咄嗟に腕を引っ込めようとするが、凄い勢いで腕を捕まれた。
『タタタタタタスススケケケケケテェェェェェェェェェェアハハハハハハ!!!!!』
ニタニタと笑うそれは先程の声とは違い汚ならしく笑う。口からは涎が垂れ、目はギラギラと光る。かなり強い力で腕を引っ張られる。
『うぅぐぁ!離せ!離せ!』
普段からすれば絶対にださないような声を出す。掴んでいる手を叩き、必死に手を振る。するとするりと腕が抜けた。自然と体浮きあれを置き去りにする。
どんどん小さくなっていくあれ。腕には強く握られたせいかギチギチと痛むような気がした。
周りが白くなっていく。きっとこの悪夢は終わりなんだろう。そして目の前が真っ白になった時、
『寂しい』
そう聞こえた気がした。
~~~~
「あだ!?」
目が覚めた時最初に訪れた感触は激痛だった。どうやら妹が起こすためにそこにいたようで、悪夢から目覚めた俺は勢いよく起き上がりあとは予想ができるだろう。
俺たち兄妹は朝から痛みで悶えることとなった。
「まったく、急に起き上がらないでよ!」
ぶつくさ言う妹の頭にはタンコブが、もちろん俺にもタンコブが。
だいぶ痛みが治まった所で妹にずっと文句を言われてる状況だ。なんで起き上がったら頭にぶつかる位置で起こそうとしていたのか、時計を見たら普段より時間が早かったのでこんな時間に何をしていたのか、色々な疑問があるがあまり気にしないでおこう。
ふと時計を見るといい感じの時間だったのでそんな妹を無視し、着替えをする。
………ん?
後ろから視線を感じる。
「……何よ。」
それはこっちの台詞です。
別に見られてもいいが、ジーっと見られるのも落ち着かない。俺は妹の首根っこを掴み(妹はじたばたしていたが)部屋の外にペイッとだす。
「何するの!!」
朝から騒がしい妹だ。
寝ぼけ眼を擦りながら服を脱ぐ。しかし、それを見た瞬間眠気が吹っ飛んでいった。
そこには、強く掴まれたような痣があった。
「ひっ!!」
思わず小さく悲鳴をあげてしまう。
その痣は夢の中で捕まれていた部分と同じ場所にできている。明らかに今見た夢と関係があるだろう。
俺は恐怖心を抑えながら、準備を行った。
~~~~
昨日とは打って変わって青空が覗いていた。気温も朝だからか丁度いい。俗に言う気持ちのいい朝であるが、気持ち的にはそうは言えなかった。
もちろん原因はあの"夢"と"痣"である。泥々とした気持ち悪い夢だったが、どうしても最後に聞こえた言葉が脳に残っている。
『寂しい』
確かにそう言われた。
夢にいたあの気持ち悪い奴とはまた違う声でしっかりと言われてしまったのだ。
ただの夢の話なはずなのにどうしても頭の中にずっと残っている。
自分の中で助けたいのかどうしたいのかはまるで分からないがどこか引っ掛かっている状態がずーっと残っていて少し気持ち悪い。
また、痣も夢と関係はあるのだろうが、「掴まれている夢見たら同じ所に捕まれたような痣出来てました。」なんて単純にあり得ない話なので、どういう風に出来たなんて想像もつかない。
色々な考えを頭の中で巡らせてうんうん唸っていると後ろから強い衝撃が来た。
「うぐっ!?」
「何朝から唸ってんの?」
圭だ。
いつの間にか合流地点についていたようで、何時ものように明るい笑顔を覗かせている。その笑顔を見るとモヤモヤした気持ちが少し晴れやかになったような気がして、我ながら単純だなぁと思いながら返事する。
「いや、何でもない。眠くてボーッとしてたみたいだ。」
「えー?でも唸ってたよ?」
「気のせい気のせい。早く行こう。遅刻するぞ。」
少し文句を言っている圭を尻目に学校に向かう。そうだ、あくまでもあれは夢の話。
"厄介な悪夢だった"
"寝てるときに腕を思いっきり掴んじゃっただけ"
それだけの話だ。
自分の中でそう割り切ることが何とかでき、前へ進むことが出来た俺は少しテンションが上がってきた。急に鼻唄とか歌ってしまったので圭からは冷たい目で見られてしまったが。
「急に鼻唄とか歌い出してどうしたの?気持ち悪い。」
言葉にもされてしまった。
少しガッカリしていると、すぐ隣を兄妹?が通りすぎた。普段だったらまるで気にならない光景だが今の俺にはどうしても無視できない言葉が聞こえてしまった。
「気持ち悪いの憑いてるぞ。」
俺はすぐに後ろを向いたが、その時のは誰もいなかった。まるで元々誰も居なかったかのように忽然と姿を消していた。
しかし、明らかに俺に向けて言われた言葉は俺を激しく動揺させた。先程まで考えて夢だと割り切っていたことがもしかしたらただの夢では無い可能性が出てきてしまったからだ。
言葉は明らかに俺に向けられて言われていて、気のせいだとは割りきれない。 そう思うと身体中から汗がどっと出てくる。
急に後ろを向いた俺を心配そうに圭は覗き込んでくる。
「大丈夫?今日なんか変だよ?凄く汗かいてるし、休む?」
もしかしたら、ありえないけど圭の事を言われたのかもしれない。ありえないが。
圭は身内贔屓を除いても、可愛いい部類だ。元気で明るい性格と小動物的な可愛さで男女ともに人気がある。一定周期で男子に告白されては振っているみたいだ。そんな圭を気持ち悪いと言うのはあり得ないだろう。
圭の肩を掴み、強く言う。
「お前は気持ち悪くない!!!!」
「何の話してるの壽ちゃん!?」
何かがおかしくなった学生とそれに困惑する女子高生のある種の悲鳴が通学路にこだました。
~~~~
その後、圭に連れられて午前中全てを保健室で過ごした俺は、夢の事が少し気になったので図書室に向かっていた。保健室の先生から「本当に大丈夫?平気?」と再三確認をとられたが、そもそも少し精神が高ぶっていただけであって、全然元気だった。要するにサボりである。
しかし、圭が来なくて良かった。朝の一件もあり相当心配していたようだし一日中横にいられたら何も出来なかったところだ。
ガララッと図書室の扉を開けると、司書さんがいつもの笑顔で出迎えてくれる。
「いらっしゃー…あら?天利くんじゃない?」
「お邪魔します。」
「噂になってたわよ?『女子高生の方をつかんで発狂してた男子高校生がいる』って。」
クスクスと笑いながら俺に言う。
そんなことが噂になっていたのか…と言うか
「何で俺だって分かったんですか?」
「特徴が天利くんと一緒だったから…ね?」
特徴まで出回っているのか。朝の要素を見られたと思うと顔が赤くなるのを感じた。正直かなり恥ずかしい。家に帰ってベッドの布団にくるまってバタバタしたい気分にかられるがそれを心の奥に仕舞い、落ち着こうと深呼吸をする。
それを見て、さらにニコニコしている司書さんがこほんっと咳払いをする。
「それで、今日はどういった用事?」
「え?あぁ、そうでした。実は"夢"についての本ってどこにありますか?」
「"夢"?珍しいわね?」
「まぁ、たまには…」
普段から占いなんて信じないと言っている俺が夢に関する本を借りようとするのを不思議に思う司書さん。俺もこんな事がなければ借りることはなかったと思う。
まぁ、そういう日もあるかと司書さんは納得したらしく置いてある場所に案内してくれた。
「ここね。」
自分が想像していたより遥かに量があり、心の中で驚く。やはり世の中の女性と言うのは占いなどは好きなのだろうか。圭も朝の星座占いで一喜一憂していたのを思いだし、静かに苦笑いをする。
少し呆気にとられている俺の様子を見て司書さんが適当に本を見繕ってくれている。新しいジャンルに興味を持ってくれたのが嬉しいのか少し鼻唄を歌いながら選んでいる。その様子はとても可愛らしいものでみる人が見れば、そのまま見とれてしまう人もいるだろう。普段から多く図書室にいて慣れている俺も少し見とれてしまった。
その様子を見て、「どうしたの?」と顔を覗きこんでくる。
「い、いえ。何でもないです。」
何だか気恥ずかしくなり司書さんとは別の方向を向く。"?"を頭の上に浮かべているみたいだが解くに気にした様子もなく机の上に選んだ本を並べる。
「夢占いの本と夢に関する事の学術本と夢物語……大体こんな感じね。」
「…すごい量ですね。」
「夢って色んなテーマがあるからね。借りたい本が見つかったら持ってきてね。」
そういうとウィンクをしながら去っていく。数ある本からとりあえず、関連性のあるものを探す。まずは夢占いの本を手に取る。パラパラと流し読みをするが、特に目ぼしいものはない。夢の中に見たことの無い奴が出てくることはあるのか、助けを求められることはあるのかなどを見たが、それっぽい物はなかった。その後他にも夢中で読み進めていたが、特に目ぼしいものはなかった。
~~~~
昼休み中に目ぼしいものを見つける事が出来なかった俺は、学術本だけを借りて図書室を出た。その時の司書さんのテンションの高さはとても記憶に残った。
今日もつまらない授業を受け、適当に時間を潰す。脳裏にはあの気持ち悪い奴の姿が焼き付いて離れず、それと同時に助けを呼ぶあの声が脳の中にいつまでも再生されているような気がした。正直地獄である。
「壽ちゃん…大丈夫?」
耐えていると圭の声が聞こえてくる。どうやらいつの間にか授業が終わっているようで、周りは放課後の雰囲気である。圭は今朝の事もありやはり今でも心配しているようだ。
俺は、圭を安心させるように頭を撫でる。
「大丈夫大丈夫。朝は悪かったな、騒いじゃって。」
「いいよ別にそれぐらい。可愛いって言われて嬉しかったしね。」
にこやかに言うその姿に救われた気持ちになる。俺の周りにはいい人ばかりだなぁと静かに感動する。
しかし、何かしら謝罪をしないと気がすまない。そこで色々考えると、最近圭と二人で遊んでないことに気がついた。昔はよく二人で遊びに出掛けていたが、いつの間にか行かなくなっていた。これを機に誘ってみよう。
「詫びと言っちゃ何だが、これからゲーセンにでも行かないか?最近遊んでないし、遊ぶ金くらい出させてくれよ。」
そういうと、圭は少し時間が止まったかのように動きを止める。その後少し赤くなった顔で何かゴニョゴニョ言っているが特には聞こえない。もしかして体調が悪くなったのではないのか?
「お、おい。大丈夫か?無理だったら別の機会でも…」
「大丈夫!うん!行こう行こう!」
無理はしないで欲しいのだが本人がそういうのだから大丈夫だろう。
俺達は学校を出たのち、近くのゲームセンターに寄った。
かなり久しぶりで、内装も結構変わっており最新機器などが所狭しと並んでいた。昔やっていた太鼓を叩くゲームが謎のカメラ機能がついていたり、昔やっていたカードゲームにセーブ機能がついてして一人で驚いていると、圭がとあるUFOキャッチャーの前で止まった。
そこには、包帯に巻かれたペンギンが刀を持っている人形で名前は確か『ペンカラ』と言ったか。
物欲しそうに見つめている圭に聞く。
「欲しいのか?それ。」
「………うん。最近女子高生の間で人気なんだ。何と言うか可愛さの中に渋さがある感じがいいんだよねー!」
なるほど。俺には分からんがどうやら良いみたいだ。女性と男性は感覚が違うみたいだがこういう所に出ているのかもしれない。俺はおもむろにお金をUFOキャッチャーに入れる。
「壽ちゃん?」
「取れるかどうか分からないけど、ちょっと試させてくれ。」
アームとぬいぐるみの距離を合わせる。狙うは胴周り。上手く掴めるよう試行錯誤する。アームはしっかりと胴を掴む。
つるんっ! ボスッ
……見事にアームから外れた。
その光景に少しイラッとする。無言で千円札を100円玉に代え、チャリンチャリン入れていく。
ボスッ!ボスッ!ボスッ!………
あまりの気迫に周りが何となく引くのを感じるが気にしている余裕はない。気が付くと先程両替した分はなくなっていた。
「くそっ!!!」
「壽ちゃん!?無理だったら大丈夫だから!」
それを言われたら尚更後に引けなくなった。「無理ではない、今までやってこなかったから出来ないだけだ」という気持ちが体の中に駆け巡る。時間と金さえあればその内とれる。激しく燃えていると後ろから声が聞こえた。
「あ、あのー…」
「はい?」
「足を狙っていただけたらすぐに取れると思いますはい…」
店員さんだった。
あまりにも熱意とプレイの下手さにやばさを感じたらしく、アドバイスをしに来たらしい。
そのアドバイスを聞くと急に恥ずかしくなっきた。周りからすればかなりヤバイやつと見られ、それに気づかないほど熱中していたのだ。顔に血が集まっていくの感じる。自分でもビックリするほど情けない声で感謝の気持ちを言う。
どうやらそれが圭のツボに入ったらしく、バカ笑いをしていた。
数分後。
店員さんのアドバイス通り足を狙って見ると本当にすぐに取れた。そこそこにデカイぬいぐるみを圭に渡すといとおしいそうにぬいぐるみを抱いた。
「ありがとう!壽ちゃん!」
あまりにも嬉しそうな圭の様子に、恥ずかしくなって思わずそっぽを向く。たいした返事も出来ずぶっきらぼうな返事をしてしまったが、圭は特に気にしていないようだ。
恥ずかしさにそっぽを向いていると、袖を引っ張られた。何事かと圭の方向を向くととある機材に指をさしていた。
プリクラ機である。
「…撮りたいのか?」
「……うん。」
リア充御用達の写真撮影機。個人的には写真は苦手なので勘弁して欲しいのだが、今回は圭にお詫びとして来ている部分もある。断るのはあり得ないだろう。
「…よし!んじゃ行くか!」
そういうと圭はパァァァッという効果音が出るような笑顔をする。どうやら断られると思っていたようだ。可愛いやつめ。
慣れないプリクラ機に何となく緊張する。慣れた様子で圭が操作しているので、たぶん友達と来ているのだろう。圭がこっちを見るとクスリと笑う。
「壽ちゃん緊張してるの?」
「ん、まぁ、こう言うの慣れてないからな。」
「ほら、そろそろ写真撮られるよ!」
5...4...とカウントが始まる。
どうポーズをとればいいかワタワタしながら結局ピースをする。
3...2...
そのタイミングで圭が抱きついてきた。女性としてしっかりと育った圭の体を感じ少しドキッとした。
パシャッ!!
結局写真に写ったのは、顔を真っ赤にした圭と驚いた顔をした俺の姿だった。
~~~~
その後、散々遊び倒した俺たちはゲーセンを出た、結構な金が減ったが圭も楽しんでくれたようだし良しとしよう。
お互いにゲーセンであったことを話ながら歩いていると目の前に影があることに気づいた。
普段だったら何も気にしないが、その影は俺たちが行く道を塞ぐように並んでいた。
前を見ると俺は衝撃を受けた。歩みが止まる。圭は急に止まった俺を不思議そうに見ている。
そこにいたのは、今朝すれ違った例の兄妹?だった。
二人の視線は俺を真っ直ぐとらえている。あきらかに、しっかりと。
「やっと見つけた。危ない所だった。」
「君、本当に醜いもの体に憑けてるね。」
「あの…壽ちゃんの知り合いですか?」
動けも喋れもできない俺に変わって圭が質問する。もちろんだが俺はこの人たちの事は知らない。
「いや、すまない。今朝偶然見かけたんだけど、あまりにも酷いものが憑いているもんで探させてもらった。」
「はぁ…それで、あなた達は?」
長身の男はこほんと一回咳払いをするとこう言った。
「俺の名前は
体を震えさせて動けない俺を指差し、信じられないことを言う。
「君はこのままでは都市伝説によって殺されてしまうよ。」
俺は胡散臭いて知らない人に死の宣告をされてしまった。
都市伝説都市の出来事 黒音りんた @Qoo_k
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