都市伝説都市の出来事
黒音りんた
序章 都市に吹く都市伝説の風
天引きの神島の初夜 『都市伝説』
美しい空とは言えない黒く曇った空。
その空を見ているとまるで自分の気持ちまで暗くなっていくような気持ちになる。
つまらない授業を横目に空を見ていたが見るのをやめ、雑に開かれた教科書を見てみる。自分たちが日常的に使わない単語が書かれていて、俺はそれを見たすぐに瞼を下した。
ふと、周りの喧騒けんそうで目が覚める。どうやらいつの間にか授業は終わり放課後になっていたようで、あちらこちらである共通の話が聞こえてくる。
都市伝説。
俺はあまりピンとはきていないが、どうやら最近の流行らしい。
机で背伸びをしているだけで周辺からいろいろ話が聞こえる。
「この言葉をしっていると」
「そこを右に曲がって」
「2階には」
「鏡の中にね!」
何が楽しいかはわからないけど、ここ数か月くらいで急に流行りだした。誰が話し始めたとかもよく分かっていないが流行なんてそんなものだろう。
で、俺自身はあまり興味ないのだが俺の幼馴染は興味があって...
「とーしーちゃんっ!」
後ろからの突然の衝撃に少し驚きながらもいつも聞いている声と背中に感じる小さな感触からこの突然飛びついた正体を予測する。
「っ、何をするんだよ
後ろを向くと見慣れた黒髪の短髪を軽く揺らしこちらを見ている幼馴染がいた。いつも通りひまわりのような笑顔で俺に話しかけてくる。
「だって、なんか難しそうな顔してるんだもん。」
「そんな理由かよ...」
思わずがっくりと肩を落とす。
まぁ、大した理由なんてないのはよく分かっていたがこれは一種の表現である。
「っで!どうしてそんな顔してたの?」
少し強い口調で俺の様子を伺う。難しい表情をしていたというくらいだ、きっと圭は圭なりに心配をしてくれたのだろう。
とは言っても、内容的には大したことはないのだが圭が俺の顔をジーッと見てくる。この様子では理由を言うまで見るのを止めないだろう。
俺は勘弁して言うことにした。
「いや、まぁ、何でここ最近になって都市伝説が流行ってんだろうなって思ってさ。ただそれだけだよ。」
「ふふーん、なるほどなるほど。要するに壽としちゃんはここまで流行ってるのは誰かの陰謀がある!!ってことで陰謀説でも唱えちゃうつもりなんだね!」
「なんでやねん。」
ぺちっと頭を軽くたたく。
大げさにリアクションしているがあまり気にはしない。いつものことだ。
「いたた...あっ、そういえば壽ちゃん!」
「ん?」
わざとらしく顔を寄せてくる圭。人よりもパッチリとした大きな目が俺を見つめる。こういう時は大抵お願いをしてくるときだ。いくら断ってもごり押しで通してくるため半ば諦め気味で返事をする。
「何のお願いだ?」
「ん!流石壽ちゃん分かってる!!」
「いいから早く。お前の大好きな肉まんは奢らねぇぞ。昨日だって無理矢理買わされたんだし。」
「ちがーーう!!年がら年中壽ちゃんのお金で肉まんを食べたい訳じゃないよ!」
ちなみにこいつは真夏でも肉まんを食べる。いつでもどこでも冷凍の肉まんを暖めて食べている。こうしてみるとかなりの変人である。
「そうじゃなくて、図書室行こうよ。」
「図書室?」
珍しい。
圭は正直あまり頭がよくない。成績的に言うと中の下くらいで、運動が好きなハツラツ系女子である。本を読むことも少なく俺が勧めた本をしっかり読みきったことはない。そんな彼女がいきたがると言うことは…
「都市伝説の本を探したいの!インターネットだと友達と被っちゃうかもしれないし、本でしか分からないものがあるかもしれないじゃん。」
「あぁ…」
やはりと言ったところ。
俗に言う『陽キャ』と呼ばれる彼女は周りと話をしっかり合わせるため流行の物をしっかり勉強する。しかも彼女は結構凝り性なので徹底的に勉強しようとするのだ。
…確かそろそろ図書室に返す本があったはず。丁度いい、一緒に返してしまおう。
「あぁ、いいぞ。ついでに返したい本もあるし。」
「よっしゃー!それじゃ、さっそく行」
そう言うと圭は俺の腕を引っ張って教室を出るのであった。
~~~~~
予想より引っ張る力が強い圭の手を払い…払い…払いきり本を片手に向かう図書室へと向かう。
実は最近図書室で本を借りるのがマイブームである。というのも都市伝説の話が流行となってる我が校ではいつでもどこでも都市伝説の話を聞かざる終えない状態である。あまり興味の無い俺からすれば何となく肩身の狭い思いをしている状態である。そのような状態が休み時間だけではなく昼休みにまで及ぶので実質避難場として通っているのだ。
そこで何も借りずにいるのも悪いなと思い借りていたらいつの間にか本の虜というわけだ。
「えーっと、壽ちゃん。図書室ってどこだっけ?」
「はぁ?自分の通っている学校の部屋まだ覚えてないのか?」
「しょうがないじゃん!全く行かないし!」
胸を張って威張る圭。
気持ちは分からなくもないが通って2年目になるのに覚えてないのは如何いかがなものか。ちなみにだが、2階にある自分達のクラスから階段を上がって一番奥の部屋。そこに図書室がある。そんな圭を軽くはたきながら歩いていると、無事図書室に着くことができた。
図書室に入ると文学女性とはまさにこんな感じなんだろうなと言う感じの女性が本の整理をしていた。
「こんにちは。司書さん。」
「あ、
図書室に入ったときの挨拶は何時もこんな感じだ。ちなみに天利というのは俺の名字だ。
彼女は
「天利くん、今日はどうしましたか?新しい本でもお探しですか?」
「いえ、とりあえず本を返すのと…」
「しっしょさーん!お久し振りでーす!」
後ろからピョコンと顔を出す圭。
それを見た司書さんは驚きの表情を表した。
「あっ!久しぶりね椿さん!大体一年ぶりかしら~!」
……そりゃ、驚きの表情1つもするわ。
大体でありながら生徒の来る日にちを大体覚えている司書さんに感銘を覚えながら、ため息をついた。
「今日はですねー。都市伝説の本を探しに来たんですよー!」
「そうなの?最近人気ねー。天利くんも?」
「いや、俺はそんなに…」
慣れた手つきで返却した本の処理をしながら話す司書さんが俺の返答に少し残念そうにする。俺に様々な本を読んで貰いたいのかたまにこういった薦めがある。しかし、流石に超純愛ものの少女漫画特有のご都合主義にまみれた本は読む気にはなれないですよ司書さん。
「……よしっ。椿さんは都市伝説の本だったわね?確か新規で入っていたと思うから、案内するね?」
「はーい!よろしくお願いしまーす!」
処理が終わったのか圭をつれて案内をする司書さんにノリノリでついていく圭。何処にテンション上がる要素があったのか聞きたいところだ。
暇をもて余した俺は適当に本を読んでみることにした。何の気なしに手に取った本のタイトルを見る。
『戦争に巻き込まれた女』
…ふむ。中々へヴィーなのを選んでしまったようだ。しかし、こういう機会でもないとこの方面の本は全く読まない。せっかくなので本を持って椅子に座る。
大まかな内容を言うと、1954年アジア某国で戦争に巻き込まれた17歳少女の話だった。彼女は地雷によって片足を無くし、周りに助けを求めても助けられずそのまま亡くなったそうだ。
その内容を当時見捨ててしまった女性が贖罪の意味を込めて筆者に語ると言うものだ。過去の歴史からみて、このような事と言うのは様々な場面から見てあったに違いない。そういう風に考えると何とも言えない複雑な気持ちになってくる。
読み進めると、その亡くなった彼女の写真が掲載されている。何の気なしに眺めていると彼女の顔が何となく変わっていくような気がした。恨みのこもったような眼。
俺は凄く怖くなって急いで本を閉じた。あまりの怖さに鳥肌と冷や汗を感じる。どうやら感情移入しすぎてしまったようだ。
「おまたせー!…ってあれ?どうしたの?そんなに息荒くして?」
「天利さん大丈夫?もし発作か何かだったらしたら保健室にいく?」
大丈夫と答える。
二人とも心配するような目で見ていたが、本人が言うなら…と、納得したみたいだ。
息を落ち着かせ、椅子から立ち本を元の場所に戻す。圭の方を見ると都市伝説の本を片手に心配そうに見ていた。俺は圭に心配させないように笑顔を作り言う。
「本借りれたのか?」
「へ?あ、うん。私の知らなかったものばっかりのってる本借りたよ!やっぱり量より質だよねー!」
「一番いいのは質の良いものを沢山得ること。椿さんもこの調子で本を読みなよ?」
うん。やはり圭に話を振ったのは正解だったみたいだ。先程までの重苦しい雰囲気ががらりと代わり、何時ものふんわりとした雰囲気に変わる。司書さんの話にうへー!?と女の子らしくない悲鳴を聞き、俺と司書さんは笑ったのであった。
~~~~~
「ねぇ?本当に大丈夫なの?」
あの後司書さんに別れを告げ、普通に帰っている途中突然圭が言い出した。やはり、幼馴染みなだけあって雰囲気に騙されなかったようだ。
「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと貧血気味になっただけだよ。」
「壽ちゃん貧血だっけ?」
実際はそんなことはないのだが、下手に心配かけたくない。最近なったんだよと一言言う少し納得のいかなそうな顔をしていたがそれ以上の追求はなかった。
~~~~
家に帰ると妹がリビングでぐでーっと横になっている。夏もまだ始まっていないのに夏バテの時みたいに体を伸ばしていた。家に帰ってきたばかりなのだろう。制服のままである。俺の気配に気づいたのか、妹はちらっとこちらを見る。
「んー?おかー」
「ただいま。制服がぐちゃくちゃになるぞ?」
「んー、ちょっと待ってー。今日体育で長距離走らされて疲れちゃったんだー」
間延びした声から疲れを感じる。どうやら本当みたいだ。相変わらずスタミナのない妹だ。喉が渇いたので冷蔵庫からお茶をとるともぞもぞと妹は立ち上がった片手を伸ばしている様子を見る限り「私にも、お茶、くれ」という事なんだろう。
「お茶!」
結局言うんかい。
ため息を少しつき、コップにお茶を注いで渡す。わーいと喜ぶ姿は我が妹ながら可愛らしいものだ。
そんな妹を背に手洗いをするために洗面所へ向かった。
ふと、鏡を見ると何かがいた気がする。
どうやら今日のあの異様な体験がまだ尾を引いているみたいだ。
「はぁ、まったく…」
自分自身にため息をつく。
少しでもあんな体験をしたからって何もかもが繋がっているとは限らない。何でもかんでも関連付けをするのが人間の悪いところだ。
パパッとご飯を食べ、風呂に入ると眠気が俺を襲ってきた。
家族に寝ることを伝えると二階にある自分の部屋にむかい、ベッドの上に倒れる。
自分が思っている以上に疲れがたまっていたみたいだ。目を閉じると夢の中に入っていくような感じがする。
明日も同じように過ごせることを密かに願い意識を手放した。
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