第23話 暗闇の塔1

 「ぎゃぁぁぁぁああぁぁ」


 裕也は必死に逃げる。リーアも逃げる裕也にしがみつく。剣先が鋭く一閃した。裕也を追いかけてきたミイラ男は、体を縦から二つに分けられ、その場に倒れる。エリスとラートパは、それでも手を休めることなく、次の相手に向かっていく。


 怖いよー。帰りたいよー。裕也は心の中で泣き叫ぶ。次から次へと湧き出るアンデットモンスターたち。アンデットだけあって、斬っても斬っても中々、倒れてくれない。エリスは鞭で攻撃し続けるが、普通のモンスターなら致命傷になるような攻撃を二度、三度と繰り返して、やっと倒れてくれる。


 「ふぅ、こいつは流石にしんどいね」


 「全くですね。せめてこちらに強力な魔法の使い手がいれば、話も変わってくるのですが」


 エリスとパトラは、リーアを振り返る。だが、リーアに対して文句をつけるような真似はしない。それがリーアにとっては、かえって罪悪感を覚える。


 「ううっ、ごめんね、皆。ボクの魔法にちゃんと威力さえあれば」


 「いえ、いいんですの。リーアさんはリーアさんで、必ず役に立つときが来ますわ」


 パトラ改めラートパがリーアを慰める。そして、リーアの主である裕也は、戦いの間、ひたすら二人の邪魔にならないことだけに専念して、身を守っていた。


 「なあ、みんな、ここらへんでそろそろ帰らないか?」


 裕也がついこぼした本音に、一同揃って、白けた目を向ける。いや、分かってるって。ここまで来て引き返すって選択肢はないよな。うう、気まずい。裕也はますます縮こまり、そろそろと、みんなの後をついていく。


 塔の最初の階段をあがり、二回にたどり着くと、部屋の前には大きな鏡が用意されていた。鏡には何やら文字がかかれているが、裕也には読めない。何かのヒントになるかもしれないため、先に進む前に解読を試みるが、とっかかりが掴めなかった。


 この地方、独特の文字であれば、ラートパ改めパトラ女王なら読めそうなものだが、彼女にも解読できないようだ。このまま無視して先に進むという選択肢もあるが、裕也は何か心に引っかかるものがあり、多少時間を費やしても、もう少しだけ文字の解読を考えることを提案した。


 「でも、マスター、いつまでたっても、分からないものは分からないんじゃないかな」


 「そうね。塔の攻略の手がかりって線もあるけど、こうやって私たちをいたずらに足止めするだけの簡単な罠って可能性もあるわ」


 リーアとエリスが、もっともな意見を述べる。裕也もそれは分かってはいるんだが、どうにも気になってしまう。ラートパを見ても、他のメンバーと様子は変わらない。


 「私にも、この文字は読めない。でも、どこかで見覚えがある文字という気もするのよね」


 裕也はラートパのどこかで見覚えというフレーズに、引っかかった。ラートパだけは見覚えがある。やはり、この地方独特の文字がベースになっているのではないだろうか。それが、単純に見ただけでは、分からない・・


 あ、これって昔、小学生ぐらいのころに歴史の授業で習ったやつかも。


 裕也はふと思いつき、リーアに火の魔法を頼む。訝しがるリーアだが、裕也に従い、掌の間に小さな炎を作り出す。


 「マスター、ここにはもう敵はいないと思うけど?」


 「いや、攻撃するために頼んだんじゃないんだ。明かり代わりにしてほしいと思ってさ。リーア、悪いがその炎を鏡に対して、正面の位置に持ってくことは出来るか?」


 リーアが言われたとおりに炎で鏡を照らすと、鏡の正面の壁に文字が浮かび上がった。これは日本で昔、平安時代よりもさらに前の頃からあったと言われる魔鏡の原理だ。家康の時代に隠れキリシタンたちも、同じ手口を使ったといわれている。


 鏡の中に、一見しただけではそれとわからない文字を仕込んで置き、明かりを照らしたり、もしくは別の定められた手順で鏡を向けると、文字が浮かび上がるようになる仕掛けだ。


 比較的有名なもので言えば、鏡文字と呼ばれる文字を左右に反転させたものを鏡に記載させておき、光の反射で何処かに映せば文字が読めるという仕組みのものがある。


 塔の壁に映し出された文字はやはり、裕也には読めなかったが、ラートパには解読できるようだった。


 ・己の敵を見失うことなかれ

 ・己の味方を見失うことなかれ

 ・己の道を見失うことなかれ


 概略すると、このような文言が記載されていたらしい。本当はもっと長ったらしく蘊蓄なども含まれているようだが、あまり細かすぎる情報を与えられても、かえって混乱するだろうということで、この場は切り上げることにした。


 念のため、ラートパに細部の文言も手元に書き留めておくようにお願いする。もしかしたら、あまり意味のなさそうな文言の中に、さらに他の手がかりが隠されているかもしれないためだ。


 裕也たちは、鏡の部屋を後にして、先に進んだ。襲い掛かってくるモンスターたちを、エリスとラートパが退けつつ、迷路構造になっている塔の中を慎重にマッピングしながら探索していく。一行はなんとか大きな怪我もなく、塔の五階まで辿り着くことが出来た。


 五階は、四階までとは階層構造がまるで異なっていた。階段を上がった先に大きな扉とひとつの部屋が用意されているだけだ。これまでのような細い迷路構造の道は存在しない。


 エリスが先頭になって、扉を開けて部屋の中に入る。と、エリスだけがまるで部屋に吸い込まれるように中に入ると、他のメンバーが部屋に入る前に扉が勢いよく閉まってしまった。


 何かの罠だろうか。焦る一同だったが、今は扉の向こうのエリスを信じるしかない。エリスは一人、部屋の中を観察する。とは言っても、何もないがらんどうの大広間だ。石柱だけが、規則的に並んで建てられてはいるが、他には何もない。


 とりあえず、六階に通じる階段を探そうと、部屋の奥へと歩を進めるエリスだったが、背後を振り返って驚愕する。確かにそこまで何もなかったはずの空間に、巨大な棍棒を持った一つ目の巨人がエリスを見つめていた。巨人はエリスに向かって、棍棒を振り下ろす。


 間一髪で躱すエリスだが、巨人の連撃は止まらない。図体がでかい癖に動きは信じられないくらいに素早い。エリスは、自分の鍛え抜かれた身体能力をもってしても、このまま躱し続けるのは難しいと判断する。


 敵と味方の強弱関係を素早く正確に把握するのは、エリスぐらい戦闘になれた者であれば、嫌でも自然と身についている。また、それが出来ないようなら、ここまで生き残ってはこれなかったであろう。


 エリスは戦闘に勝利することを諦め、逃げる方法を模索する。だが自分が入ってきた扉は固く閉ざされている。エリスの中に徐々に恐怖が湧き出してきた。戦闘には邪魔な感情と分かっていても抑えきれない。


 エリスの敵味方問わず正確な戦闘力を把握する力が、かえって自分の心を縛り付け、このままでは殺されるという確かな確信を抱かせてしまう。ならばとエリスは反撃を試みた。


 巨人の執拗な連続攻撃の合間をぬって、巨人の目をめがけて鞭を一閃する。鞭は見事にクリーンヒットした。だが、それで巨人が傷を負った様子はない。


 「うそ・・やだ・・」


 エリスは死を確信した。気が付けば、恐怖に駆られて敵の前で無様に泣いている自分がいた。巨人の攻撃がエリスの頭部にヒットする。そのままエリスは壁に打ち付けられ、意識を失った。



**************************************



 「大丈夫か、エリス。しっかりしろ。戻ってこい!」


 裕也は数少ない自分が使えるヒーリングの魔法を、ありったけの魔力をこめてエリスに注ぎ続けていた。エリスが目を覚ます。裕也の顔に喜びの色が溢れてくる。リーアとラートパも同様だ。


 「ここは?私・・」


 エリスはあたりを見回し、自分が塔の五回の入口にいたことに気づいた。裕也たちは揃って、エリスの前にしゃがみ込む。


 「よかった・・本当に良かった・・」


 どうやら、自分は助かったらしい。間違いなく即死レベルの攻撃を受けたと思ったが、当たり処が上手く急所を外れていたのだろうか。いや、頭に直接攻撃を喰らったのだ。それはない。それに、どうして巨人のいた部屋から外に出られたのかも、分からない。


 「びっくりしたわよ。一つ目の巨人が中から、扉を開けてエリスをこちらに放り投げるんだもん」


 パートラがエリスの身に起こったことを解説してくれた。自分が頭に致命傷の一撃を喰らって生きていることは、原因が分からなかったが、それでもいい。とにかく自分が助かったことの安堵感だけで、今はいっぱいいっぱいだ。


 「仕方がないわ。私たちだけではあの巨人は倒せない。一旦引き返しましょう」


 一同は頷き、四階への階段を降りようとする。すると、再び扉が勢いよく開き、ぬっとあらわれた巨人の手が、裕也の襟元をつかんだ。


 「ちょ、ちょっと、誰か助けて・・や、やめろって・・」


 慌てふためく裕也だが、皆が裕也を助け出す間もなく、巨人は裕也を部屋の中に連れ込み、再び恐ろしいほどのスピードで扉が閉まってしまった。


 「嘘・・マスター、やだよ。マスター!!」


 リーアが喚き散らす。エリスとパートラは何とか扉を開けるか、壊すかできないかと、思いつく限りの攻撃を扉にくわえていく。だが、扉は傷一つつかずに、まるでリーアたちをあざ笑うかのように静けさを保っていた。扉の前でへたりこむエリス。パートラもただ、呆然と扉を眺めることしかできない。


 「マスター、マスター、マスターーー!!」


 リーアの叫ぶ声が部屋の中に木魂した。



**************************************



 「ってぇぇぇぇ」


 部屋の中に強制的に連れ込まれた裕也は、巨人に勢いよく放り投げられた。部屋にあった石柱に思いっきり背中を打ち付け、そのまま地面に倒れる。幸いまだ体は動かせるが、それだけでもかなりのダメージだ。


 巨人が裕也をめがけて、鋭い棍棒の一撃を振り下ろす。必死の思いで、ぎりぎり逃げる裕也。巨人は手を休めることなく、さらなる攻撃を加えてくる。


 待て待て待て待て。俺にお前が倒せるわけないだろうが。恐竜が蟻をいたぶって、何が楽しいんだ。武士道、騎士道精神というものがないのか、お前は。


 勝手な妄想にふける裕也だが、当然、余裕など微塵もない。大体、最初の一撃を躱せたこと自体が、裕也の力量からすれば奇跡なのだ。エリスでさえ躱しきれなかった攻撃を、戦闘ど素人の裕也が、一体どうしろというのだ。


 「ああ、畜生。こいつ相手じゃ、どんな説得も通じないだろうし。そもそも、こいつ言葉が通じるのかよ」


 裕也をめがけて振り放たれる巨人の連撃。なんとか四撃目まで躱した裕也だったが、それが限界だった。巨人の攻撃が裕也の頭部にクリーンヒットする。壁に弾き飛ばされる裕也。痛い痛い痛い痛い・・あれ?


 吹き飛ばされる中、裕也はふと疑問に思う。エリスの時もそうだったが、なんでまだ生きてるんだ。あの棍棒の攻撃は間違いなく即死クラス。戦い慣れしているエリスであれば、あるいは、無意識下での咄嗟の反射神経だとかで、うまくヒットの衝撃を和らげたかもしれない。だが、裕也は別だ。そんな芸当が出来ないことは自分が一番よく知っている。


 なにか、あの巨人はおかしい・・それが裕也が最初に感じた疑問だった。そもそも裕也にあんな鋭い一撃が躱せるはずがないのだ。ゴブリン三匹相手にするのがやっとの裕也に、なんで巨人の最初の何発かの攻撃が躱せたのだろうか。


 まだ完全に意識は失っていない。裕也は壁に叩きつけられながらも、目の開く限り巨人を観察する。巨人が裕也に近づいてきて、再び裕也の襟元を掴む。エリスの時と同じように扉から外に放り出してくれるのだろうか。それなら、命は助かるが・・だが、まだだ。


 裕也は激痛の走る体を無理やりひねり、巨人の手から逃れて、地面にそのまま激突する。激しく顔面から直下したため、もはや痛みなどとおりこした衝撃が裕也を襲う。しかし、そのかいあって、激痛が逆に裕也が気を失うのを防いでくれていた。


 巨人も裕也の行動が意外だったのだろう。首をかしげるそぶりをみせたが、棍棒でさらにもう一撃を加えてくる。と、裕也は気が付いた。振り下ろされる棍棒の下に影がない。見れば巨人にも影は存在していない。


 どういうことだ。自分には確かに影がある。光の調整などではない。巨人の攻撃を頭部に喰らったのに生きているエリスと自分。影がない巨人。まさか・・


 裕也は目を瞑り、自ら巨人に近づく。仲間が見ていれば自殺行為かと正気を疑っていたであろう。裕也の頭上に棍棒の一撃が振り下ろされる。裕也は避けなかった。そのまま棍棒に殴られるのを黙って見ている。裕也の頭に棍棒が触れた瞬間、棍棒は霧のように消えた。


 「やっぱりな。お前・・本当に実在しているのか?」


 裕也は巨人に歩き出す。巨人が今度は拳で裕也に襲い掛かる。これも裕也は逃げも避けもしない。巨人の元へそのまま歩み続ける。


 鏡の暗号の第一文。己の敵を見失うことなかれ。敵は巨人だと思い込んでいた。だがそうじゃない。巨人は勝手に裕也やエリスたちが頭の中で造り出した幻想だ。裕也は恐れずに巨人の胸元に手を当てる。そのまま巨人は足元から霧となり、姿を消した。


 裕也は次に部屋の入口の扉に手をかざす。その場の空間が歪みだした。どうやら巨人だけではない。この部屋そのものが巨大な幻だったらしい。部屋はそのまま消失し、五階のフロアには四階への降り口と、六階への登り階段だけが残されていた。


 リーアたちがそろって裕也のもとに駆け寄ってくる。


 「マスター、無事なの?あの巨人は?」


 「攻略したよ」


 裕也の一言に、その場の皆が驚愕の表情を浮かべる。塔に来るまでの砂漠のモンスターに手も足も出なかった裕也が、エリスが完膚なきまでに叩きのめされた巨人を突破してしまった。


 「嘘でしょ。だって裕也さん・・戦いなんて・・」


 それまで裕也の戦闘力の無さに失望と軽蔑すら浮かべていたラートパは驚きを隠せない。すると、エリスが突然、大声で笑い出した。


 「はは・・ははは・・そうだ、そうだよ。裕也には、これがあるんだ。だから、私は裕也についていくのさ」


 「まったく、マスターってば、いつも冷や冷やさせてくれるよね」


 エリスとリーアは、それが日常的な出来事であるように、裕也の肩を叩いたり、じゃれあったりして、喜びをわかちあう。ラートパ、いやパトラ女王にはまるで理解の範疇を超えた存在だ。


 「さっ、ここにはもう用はないだろ。とっとと行こうぜ。早く天空人とやらにシルヴィアさんの居場所の手掛かり聞いて、氷の檻から助け出して、ルーシィを母ちゃんに会わせてやらないとな。ついでにルシファーとも姉弟のご対面させてやりたいし」


 裕也は六階への階段を進む。リーアはいつもの定位置、裕也の肩にのる。エリスもすぐ後をついていく。パトラは、裕也を含めた、このメンバーに、初めて自分のこれまでの常識だけでは測れない何かを感じ始めていた。


 塔は上の階層に進むにつれて、お決まりのように出現するモンスターが強くなっていく。アンデットモンスターだけではなく、獅子の顔に翼の生えた獣や、蛇、鷲、トカゲの三つの首を持った二階建ての家くらい身長のあるモンスターも襲ってくるようになった。


 戦いはもっぱらエリスとラートパだけに任せている。裕也には戦いの邪魔にならない端の方で大人しくしているしかなかった。リーアは魔法をモンスターの目くらましや囮代わりにして、エリスたちを陰からサポートしている。だが、その効果も微々たるものだ。


 「裕也さん、あなた本当にあの巨人を攻略したのよね?なんなのよ、その頼れる時と全然あてにならない時のギャップの差は」


 「いや、お恥ずかしい限りで」


 「ほら、裕也、ぼうっとしない!」


 ラートパに頭をかきながら答える裕也だったが、その首を獅子の首が狙う。と、その首に鞭が巻き付き、あっけなく獅子は迎撃された。エリスの一撃はいつも頼りになる。


 「さすがは、エリスたん。やっぱりこれは、愛の為せる技かな」


 「次はおまえの首に鞭巻き付けようか?」


 洒落にならないエリスの返しに、首をすくめる裕也。リーアとラートパは同時にため息をつく。その後も次々と強力なモンスターが襲ってきたものの、なんとか一行は十五階まで登り詰めた。


 「ああ、しんどい。この塔何階建てなんだよ・・」


 裕也が一番に息を乱して、へたり込む。エリスとラートパは白け切った眼で裕也を見る。


 「裕也さん、あなた、これまで何匹モンスター倒しましたっけ?」


 「裕也、おまえ、巨人以外で何か活躍の場、あったか?」


 うう・・二人の美女の冷たい視線が胸に突き刺さる。やっぱり、こんなの、ご褒美なんかじゃないよ。ただ気まずいだけじゃないか。見ればリーアまで、二人と同じ目をしている。


 ちょっと待て、リーア。お前も碌に戦いに参加してないのは同じだろうが。だがリーアはそんな主の心境など完全に無視して、思いっきり裕也の頭の上でくつろいでいた。


 十五階は五階と同じように、迷路状のつくりではなく、大きな扉がひとつ存在するだけだった。次の暗号文が関係しているとみて、間違いなさそうだ。確か次は、”己の味方を見失うことなかれ”だ。


 今度もまたエリスが先頭で扉を開けた。巨人と時はそれで失敗してしまったが、普通に戦闘力という面で考えれば、エリスかラートパが先頭に立つのが正しい。


 「!」


 裕也は部屋に入って、我が目を疑った。目の前に広がるのはサキュバス温泉。ここは砂漠の中に位置する塔のはず。見覚えのあるサキュバス、サリーが裕也のもとにやってきた。ニーナもサリーの隣にいる。


 「いらっしゃい、お客さん。疲れただろう?早速、湯にはいるかい?」


 「あら、裕也さん。ようやく来てくれたのね。待ってたのよ」


 僕もこの時を待ってました。と言い出しそうだが、さすがにおかしすぎる。いや、これはどう考えても、巨人の時と同様、幻なんだろう。しかし、頭ではそうだと分かっていても、体はどんどん元気になっていく。うう、幻でもいいかも・・


 裕也は誘惑に耐え切れず、サリーとニーナについていく。サリーとニーナは順番に裕也の服を脱がしていき、自分の服も脱ぐと、裕也を椅子に座らせ、前と後ろの両方から、体を洗い始める。


 ああ・・もう、俺の冒険はこれで終わりでいいや。幻でもいい。ずっと、この世界にいたい。


 体を洗い終え、サリー、ニーナを両隣に抱えて風呂に入る裕也。風呂がわずかに波だった。風呂の色がどんどん赤く染まっていく。途端に焦る裕也。両隣を見ると、サリーとニーナは表面の皮が、液状に溶けだしていった。後には二人の体を構成していた骨だけが残る。


 「うわわぁぁぁぁぁわわぁぁぁ」


 急いで逃げ出す裕也。そのすぐ後を、二人の骸骨が追いかける。


 「待って、裕也さん。どこに行くの?」


 「お楽しみはこれからだろ、裕也」


 冗談じゃない。いくら俺でも相手を選ぶ権利はある。何が悲しくて、骸骨と行為をしなきゃならないのか。一生もののトラウマだぞ。裕也は破れかぶれに、赤く染まった温泉の湯を、追いかけてくる二人の骸骨に浴びせた。骸骨はそのまま湯の中に溶けて消えていった。


 「ここは・・?」


 気が付いたら、裕也は塔の床の上で寝ていた。周りを見ると、リーアもエリスも、パトラ女王まで床の上で寝ている。パトラ女王はもちろんだが、エリスも寝顔はこんなに可愛かったのかと、見惚れてしまう。


 こんなところ、暴漢が見たら、一発でアウトだ。裕也は皆を起こそうとするが、皆それぞれ何かの悪夢にうなされているようで、いくら体を揺さぶっても、一向に起きる気配はない。


 「くそ、どうしたら・・」


 裕也は、一人、サキュバス温泉に勝るとも劣らない、眠る美女たちの誘惑に理性を持ってかれないように、注意しながら、打開策を考え始めた。


 

 

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