第20話 不器用な子供たち
「あら、これ忘れものかしら?」
ニーナは部屋に落ちていた銀のペンダントを拾い上げる。それほど値打ちがあるようにも見えないが、かなりの年代物のようだ。だけど、こんなところに見覚えのないペンダントが何故落ちているのだろう?
ふと、ニーナの胸に一つの心当たりが思い浮かんだ。以前、三人組の観光客がニーナの部屋を訪れたことがあった。彼らはこの街の暴君ロウ一味を、赤子の手をひねるかのように、あっけなく迎撃してしまった。そこにいた一人。確かハルトとかいう人物が落としていったものだ。
ニーナはペンダントを落とし主のもとに届けようと、ハルト達の居場所を突き止めるために素性を調べた。すると、とんでもないことがわかった。ハルトとメイガンはアストレアの英雄の一味。
そして、裕也は長く続いたアストレア王国とルシファーの部族の戦争をとめた、アストレアの名誉顧問の称号を持つ者。風の噂では六大魔女とまで縁があるらしい。
「あの人たち、そんなすごい人たちだったんだ。私なんかが、家にお邪魔しちゃって、大丈夫かな・・」
最初は宅配で済ませるつもりだったのだが、裕也たちの素性を知り、また、この前のお礼も伝えるため、直接ハルトの家に行くことにした。しかし、いざクリスティ邸の近くまでくると緊張が抑えられなくなる。ニーナは不安な気持ちを抱きながらも、玄関のドアベルを鳴らした。温厚そうな老人がニーナを出迎える。
「はて、どなたですかな?ああこれは、失礼。申し遅れました。私、この館で執事を務めておりますアルシェと申します」
アルシェはニーナに対して、恭しく礼をする。ニーナは普段されたことのないような扱いに戸惑っていると、元気そうな六人の子供たちがニーナの側を駆け足で通り過ぎていった。
「アルシェさん、ただいまー。クリード、エミリーの荷物、重そうだから手分けして持ってやろうぜ」
「ちょっとシャーロット、大丈夫?ほらほら待っててあげるから、慌てなくてもいいわよ」
「ルーシィって、器用だよな。後で俺にもよく飛ぶ紙飛行機のつくり方、教えてくれよ」
アルス、クリード、ベスティ、シャーロットの四人は裕也との約束通り、ルーシィも元に遊びに来ていた。クレアの妹エミリーも輪に混ざっている。六人の子供たちは出会ったその場ですぐに打ち解けた。今は裕也から教えてもらった、野球という遊びをしてきたところだ。
バットは手先の器用なヤンキーメイドのカレンが裕也の話を聞いて作ってくれた。グローブは流石に再現することはできなかったが、使っているボールはクレアが布を丸めて作った柔らかい球。手で直接とっても怪我をする心配はない。ただその分、バットでジャストミートしても飛距離が出ないのが残念ではあるが。
ニーナは子供たちを見て微笑ましく思う。私もいつか、あんな子供が欲しい。ニーナが中に入ると、このまえ自分を助けてくれた男性の一人が出迎えてくれた。
「あ、裕也さん。いや、ごめんなさい。アストレアの名誉顧問様・・」
裕也はしばらくキョトンとしていたが、ニーナの両手をとると嬉しそうにその場で小躍りしだした。
「あれ、ニーナさんじゃないか?どうしたんだよ、こんなとこまで。ま、なんでもいいや。温泉街からここまで来んの、疲れたろ?今、お茶でも入れてもらうから、入って入って。それにしてもアストレアの名誉顧問なんて言い方してくれんのニーナさんだけだぜ。やっぱ接客のプロは誰かさんとは人への気遣いが違うよなぁ」
すると、裕也の肩にのっていた、羽のついた小さな精霊が裕也の髪をひっぱって、暴れだした。
「マスター、誰かさんって誰のことさ?だいたい、なんでマスターがサキュバスの知り合い作ってるのさ」
「そう文句言うなよ、リーア。これまで実力に全く持って分不相応な問題を強制的に与えられて、それでもなんとか頑張ってきた、哀れな男への癒しのひと時のためなんだからさ」
「あっ、マスター。さては、サキュバス温泉街行ってきたでしょ。えっと、クレアさんは今どこにいるかな・・エリスは確か・・」
そのまま飛び立とうとするリーアを、裕也が慌てて引き留める。
「ちょっと待て、リーア君。落ち着け。話し合おう。俺はこの前のアストレアでの和平交渉で、心の機微ってやつを学んだんだ。だから、リーアの心もちゃんと、繋ぎとめて見せる」
「どうやってさ?言っとくけど、ボクにはマスター得意の破れかぶれの交渉術は通用しないよ」
「プリンひとつ」
リーアの動きが止まる。数日前の食卓で裕也の知識と記憶をもとにカレンが見事に再現させた逸品。リーアはこの世にこんな旨いものがあるのかと、しばらくその場を動くことも出来なかった。
「・・ふ、ふん。やるじゃないか。流石はマスター。でも、まだ甘い。その程度じゃ、ボクは・・」
「ミルクセーキもつける」
リーアの顔に狼狽の色が見えてきた。明らかに動揺している。リーアの心のHPは残り少ない。後一撃で砕け散るだろう。
「そういえば、今度カレンにチョコレートパフェを作ってもらおうかと思ってたんだっけ」
裕也のダメ押しの一撃。リーアの心は折れた。裕也の肩に飛び乗り、いかにも今回だけだぞという体裁を残し、しぶしぶといった感じで頷く。
「しょうがない、マスターの顔に免じて今日のところは勘弁してやるさ。但し、条件がある。プリンはひとつではダメ。最低でも三つは用意すること」
「ははっ、仰せのままに」
裕也は頭を下げるふりして内心密かに思う。これほどチョロイ相手も珍しい。いつもこんな敵ばかりなら、世の中、平和で素晴らしいものになるのに。二人のやり取りを唖然と見つめるニーナ。
「えっと、あの、私は・・」
「ああ、ニーナ、ごめんごめん。ささ、こっちで話し合おう。アルシェさん、悪いんだけど、最高級のお茶を用意してくれる?」
裕也はニーナを自分の部屋に連れて行こうとする。すると、ルーシィが裕也の袖を引っ張ってきた。
「ユウヤぁ、ユウヤぁも遊ぼう。そっちのお姉ちゃんも一緒」
「えっと、ルーシィ。今からお兄ちゃんたちは大事なお話が・・」
だが、裕也が答え終わる前にニーナは目を輝かせて、ルーシィの両手をとった。
「可愛い・・お姉ちゃんも一緒に遊んでいいの?」
「もちろんだよ。ほら早く、きてきて」
ルーシィに引っ張られて、ニーナは子供たちの元へと連れていかれた。がっくりとうなだれる裕也。せっかく、極上のサービスが味わえると思ったのに・・
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シスイ王国。ここは国土のほとんどが、砂漠に囲まれているため、作物も育ちにくく、元から国の運営がとても難しい。女王パトラはそんな状況の中で、知恵を働かせ、機転をきかし、精一杯の努力を持って国民を少しでも良い暮らしをさせてやりたいと奮闘していた。
しかし、今、その状況に陰りがさしている。腹心の部下で会ったビネガーが、手のひらを返し、パトラを追い詰めていた。
「此度のアストレアでの戦争に我が国の兵士をどれだけ提供したか、まさか、把握してないわけでは、ありますまいな」
「無論、わかっておる。だが、アストレアはひとつにまとまったのだ。それでよいではないか」
パトラは反論する。だがビネガーはパトラの意見を聞かずに、代わりにビネガーの部下に複数の書類を持ってこさせる。
「兵の貸し出しが三千名。食費や運航費など、もろもろ合わせた出費額の総計が大金貨五千枚分ほど。さらにかかった時間も考え合わせると、アストレアから当然もらえるものと予期していた、元ルシファー殿の治める土地を半分以上いただいても割にはありませんな」
ビネガーの意見に追従するように、側近の何名かがヤジを飛ばしてくる。パトラは激高する。
「それで、ビネガー。貴様はどうしろというのだ?」
「なに、簡単なことですよ。パトラ女王には、責任を取って引退表明をしていただきたいのです」
「なんだと?貴様、誰に対してモノを言っている!誰か、この物を捕らえよ」
パトラは激高して声高に叫ぶ。しかし、目の前の兵士たちはニヤついた表情を浮かべたまま動こうとしない。
「くくっ、皆も同意見のようですな。しかし、パトラ様のようなお美しい方が、このまま歴史の陰に隠れてしまうのも勿体ない。私も鬼ではありません。どうです?私の妾になってくださるというのであれば、今の地位のままというわけには参りませんが、私の腹心としてこれからも、シスイ王国の統治に携わっていただくことも考えますが」
パトラは沸き上がってくる怒りに押しつぶされそうになり、自分の感情を抑えるかのように唇を噛む。唇の端から一滴の血が流れた。ビネガーを激しく睨みつけるパトラ。ビネガーは余裕の笑みでパトラを見つめ返すと、側近の兵士に命じる。
「先代をお送りしろ」
パトラは兵たちに連行され、城内から追い出される。ビネガーはパトラに猫なで声で囁きかける。
「心変わりされたら、いつでもおいでください。お待ちしておりますよ。先代女王パトラ様」
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「ったく、結局こんな時間まで遊んじまった。何をやってんだか、俺は」
裕也が記憶をもとに、アストレア王国の宰相ルシファーに頼んで、アストレアの町工場で作ってもらったトランプが、子供たちの興味を大いにそそっていた。裕也は馴染みの有名なゲームを子供たちに教える。ポーカーに大富豪、七並べ。
結果は全てベスティが他を遥かに抜いて圧勝していたが、子供たちに飽きる様子はない。途中で、ニーナは子供たちのために、菓子や果物を買いに出かけた。
ちなみに現在クリスティ邸の常駐メンバーはほとんどが出払っていた。エリスは今、アストレアのアクアの元に帰っている。アクア一人では仕事量があまりにも多すぎるため、臨時のお手伝いさんを買って出ただけだ。
クレアも今日は仕事で、裕也の特訓を休ませてもらっていた。カレンも自主的な休暇取得をして休みをとっている。そして当のハルトだが、言うまでもなくアストレアでの多忙な任務をかかえ、身動きが取れない。この前のサキュバス温泉以降は一度も家には帰ってきていなかった。
ドアベルがなる。ニーナがそろそろ帰ってきたらしい。
「ニーナさん、お帰り。わざわざ、買い出しまでしてもらっちゃってごめんな」
「ううん、それはいいの。ただ・・いや、なんでもない」
なんだろう?ニーナの顔に僅かに陰りがある。さっきまで、ニーナも一緒にトランプ遊びに興じていたが、子供たちとの遊び相手に疲れてしまったのだろうか?
「どうしたんだ、ニーナさん?疲れちゃった?」
「う・・うん。そうみたい。ごめんなさい、長い時間お邪魔しちゃって。ペンダント、ハルトさんが帰ってきたら渡しておいてくれますか?私、そろそろ帰らなきゃ・・」
何かニーナの様子がおかしい。また、具合が悪くなったのだろうか。裕也が心配して、ニーナを呼び止める。
「もうこんな時間だし、今日は泊っていきなよ。子供たちもお泊り会やるみたいだしさ。ニーナさんがいたら、みんな喜ぶぜ」
「そうだよ、ニーナお姉ちゃん。もっと遊ぼう」
「大丈夫、ニーナお姉ちゃん?なんか顔色悪いよ」
子供たちは意外に大人の表情の変化に敏感だ。ニーナの様子が何処かおかしいことに皆、気づいて心配そうにニーナを見つめる。
「本当にごめんなさい。もう帰らなきゃ」
「どうしたんだよ、なんか変だぜ、ニーナさん」
裕也はニーナを呼び止めようとし、ニーナの腕をとる。と、ニーナは一瞬だけ激しく腕を振り、声高に叫んだ。
「離して。みんなどうせ私のことなんか!」
ニーナの様子に唖然とする子供たち。裕也も驚いてニーナを見る。ニーナは慌ててその場を取り繕う。
「ご・・ごめんなさい。そうなの、私また具合悪くなっちゃって、それで・・」
「そうだったのか、ごめんな、ニーナさん、無理に引き留めて」
裕也はニーナの肩に手を置く。もう何度目になるか分からない、電気ショックを受けたような衝撃が裕也に襲い掛かる。
商店街で楽しそうに買い物をするニーナ。
「みんな、すごくいい子たち。ああ、私もあんな子供欲しいなぁ」
ニーナが歩いていると、街の視線の中にあまりよくない気配が混じっているのに気づく。
「やぁね、サキュバスよ。あの小悪魔族の・・」
「いやらしい。淫乱で、邪悪で。なんであんなのが街にいるのかしら?」
「サキュバスなんて、体を売り物にするしかできない種族だろ。ちょっと、ご奉仕してもらってくるか・・」
ひそひそとニーナを陰から噂する街の住人達。ニーナはそれまで嬉しそうだった顔を曇らせ、下を向く。
「やっぱり、私なんかが皆と一緒に楽しい時間過ごしちゃだめだよね・・あーあ、せっかく今日は私の・・」
そうだったのか、今日はニーナさんの・・
そこで空間が歪みだし、裕也は目を覚ました。それまで楽しかった心境が一変する。まったく・・なんでこう、言わなくていいことを、わざわざ口にする阿呆ってのは、何処にでもいるもんなんだ。それに今日はニーナさんにとって大事な日。
裕也は心に決めた。このままニーナを帰すわけにはいかない。
「ニーナさん、頼む。今日は俺を客として、一晩付き合ってくれ」
「ちょっと、マスター?何言ってるのさ。いくらなんでも、ダメだよ、それは・・」
リーアがすかさず反論する。だが、途中で言葉を止めた。今までに何度か見た裕也の目。こんな目をするとき、リーアの主は必ず誰かを幸せにする小さな奇跡を起こしてきた。
「もう・・しょうがないなぁ、マスターは。なんかボクにも手伝えることある?」
「ああ、あるある。ルーシィやみんなも手伝ってくれ。それから、ニーナさんは悪いけど、しばらくの間、俺の部屋で待機しててくれないか?」
ニーナは本当はすぐにでも帰りたい心境だったが、仕事ということなら仕方がない。裕也には借りもある。プロとして、精一杯のサービスはしてやろう。男を虜にするのはサキュバスにとっての本懐なのだから。
ニーナは言われた通り、裕也の部屋で待った。それにしても遅い。もうあれから、一時間以上はたっている。ニーナからすれば、仕事が楽になるだけだが、色々複雑な思いもあり、こんなことなら、すぐにでも帰りたいというのが本音だった。部屋のドアが開く。裕也がドアから顔をのぞかせる。
「悪い悪い。随分待たせちゃったな」
「いえ、別にいいわ。さっそく、横になって。それとも、その前に何か飲む?」
ニーナは裕也に妖艶な笑みを浮かべて誘い出す。だが、裕也は静かに首を横に振る。
「ニーナさん、そのまえにちょっと来てくれるかな?」
裕也に言われてついていくニーナ。なんだろう?あたりがやけに暗い。光を灯していないらしい。サキュバスである自分には夜目が効くから問題ないが、人間には不自由ではないだろうか。
裕也はニーナをある部屋の前に案内する。
「さっ、入って。ニーナさん」
ニーナは言われた通り、部屋のドアを開けて中に入る。すると、数個の蝋燭の火がニーナのもとにゆっくりと近づいてきた。子供たちが自分のところに蝋燭がたてられた何かをトレイにのせて、六人がかりで運んでくるのが見える。
「ハッピーバースデー トゥーユー ハッピーバースデー トゥーユー ハッピーバースデー ディア ニーナさん ハッピーバースデー トゥーユー」
部屋に一斉に明かりがともる。いきなり暗闇から明るい部屋に切り替わったことで、サキュバスのニーナも思わず目を瞑る。ゆっくりと目を開けると、子供たちがニーナを取り囲んでいた。トレイの上には、形の崩れた物体がのっており、そこに蝋燭がたてられている。
「ニーナさん、お誕生日おめでとう。私たち、裕也お兄ちゃんに教えてもらって、お誕生日ケーキ焼いたんだよ」
「でも、形が崩れちゃったんだ。ごめんね、どうも水加減を間違えちゃったみたい」
「やっぱり、これじゃ嫌だよね。でも、あんまり待たせすぎても、悪いし」
「ニーナお姉ちゃん、やっぱり、怒ってるよね・・あーあ、失敗しちゃった・・」
子供たちは申し訳なさそうにニーナを見る。ニーナはようやく状況を理解した。裕也とリーア、それに子供たちは、ニーナが街での会話を思い出して心を痛めていた間、ずっとこの準備をしてくれていたのだ。子供たちは口々にニーナにお祝いと謝罪の言葉を投げかけていく。
「バカ・・怒るわけないじゃない・・」
ニーナは限界だった。子供たちをまとめて抱きしめる。その思いがあまりに大きく、つい抱きしめる力が強すぎてしまった。
「ニーナお姉ちゃん、痛いって。どうしたの、ニーナお姉ちゃん、なんで泣いてるの?」
「そりゃ、ケーキこんなんになっちゃったからだろ」
「やっぱり嫌な思いさせちゃったかな」
ニーナは首を思いっきり横に振って、子供たちの意見を全否定する。
「違うの・・そうじゃない・・嬉しいの・・」
そこにクリスティが戻ってきた。アルシェも側に控えている。
「あなたが、ニーナさんね。初めまして。この館の主クリスティです。裕也さんのお友達なら歓迎するわ。ゆっくりしていってください。でも、悪いんだけど、ちょっとだけお時間いただけるかしら?」
ニーナは、クリスティを見て頷く。
「あ、はい。それではどこに行けばいいですか?」
「ああ、いいのいいの。そこで待っててちょうだいな」
クリスティとアルシェは一旦姿を消す。次に部屋に現れたとき、三名の来客を伴っていた。ニーナには見覚えのある三名。街でニーナの陰口をたたいていた者たちだ。クリスティは三名のもとに歩み寄る。
「さてと、商談の続きだったわよね。でも、そのまえに紹介させて。あそこにいるのは裕也さん。一躍有名になったアストレアの名誉顧問、かのアストレアでの戦争終結に最も貢献したひとりよ」
三名がいっせいにざわめきつく。クリスティはそのざわめきを無視して話を続ける。
「それから、その隣にいるのがニーナさん。私の大事な客であり、裕也さんの顔なじみなの。私は自分の商売に当たって、彼女の意見をとても尊重しているわ」
三人はニーナの顔を思い出し、青ざめる。クリスティは少しばかり意地の悪い笑みを浮かべて、三名に語り掛ける。
「さて、今後の商談だけど、どうしましょうか。ニーナさん、悪いんだけど、後でご意見くださいな」
三人が取り乱して、クリスティを引き留めようとする。
「あ・・あの、私はちょっと・・」
「ちょっと、ちょっと何かしら?」
「す・・すいません」
クリスティは首を振り、ニーナの方を見つめる。
「謝るのは私にではないでしょう。ニーナさんにきちんと謝罪しなさいな。出来ないというのであれば、今後、我がクリスティ家との縁は金輪際ないものと思いなさい!」
「すいませんでしたぁ!!」
三名は揃って、ニーナに謝罪する。突然のことに戸惑うニーナ。クリスティが裕也を見て、かた目をつむって、ウィンクする。裕也は親指をたてて、クリスティに返す。ニーナは驚いて、裕也を見る。
「あの、裕也さん。これは全部、裕也さんがお膳立てしたんですか?」
「いいから、いいから。気にしないの。細かいこと気にするのはニーナさんの悪い癖だよ」
リーアが裕也の肩の上で、唇を尖らせる。どこか少し不機嫌そうだ。
「本当にマスターってば、ニーナさんのまえで恰好つけすぎ」
ニーナには色々不思議なこともあった。裕也がニーナの誕生日をなんで知っていたのかとか、街でニーナの陰口をたたいた三名のことを、裕也はどこで知りえたのかなどだ。
だが、裕也がどんな方法を使ったにせよ、それは全て自分のことを想ってのことだ。人を虜にするのがサキュバスの本懐。だが、自分は今、裕也や子供たちに逆に虜にされてしまったようだ。しかし、それはそれで悪い気はしない。
「裕也さん。私もう我慢できません。今夜は私、心からのサービスを提供させていただきます。お代もいりませんから」
裕也は焦る。いや、嬉しいよ。嬉しいけどさ。子供たちの前で、そういうこと言うなって。
「あはは・・ニーナさん。さすがにこの場ではちょっと。今度また温泉行くからさ。そのときに、ね」
ニーナは少し不満そうな表情を浮かべるが、周りにいる子供たちを見て納得する。あまりに想いが高ぶりすぎ、周囲の状況が見えなくなってしまっていた。
「それでは、必ずですよ。私いつまでも待ってますから」
子供たちは裕也とニーナに問いかける。
「ねぇねぇ、サービスって何するの?」
「大人になったら、教えてやる。だから、楽しみに待ってろ」
「ええ、今教えてよ~」
流石にそういうわけにはいかない。裕也は子供たち相手に、必死に弁明方法を考えながら、その夜を過ごした。
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