エピローグ 俺から見れば

 新しく「見える人」に出会ったのは久しぶり。

 中学のとき婆ちゃんに出会って以来だから八年ぶりか。

 何気ないタイミングだった。

 いつものように焼くための品を定めていたのだけどその時「あ、これは」と思った人形があった。

 古いフランス人形。

 ぱっと見で「かい」がついてそうだと思っていたが、手に伝わる感覚で「塊」がついてるのは確実だった。

 でも払う必要もなかったのでほっといていたらそれまで本を読んでいた女の子が驚いた顔で声を上げたもんだから思わず声をかけてしまった。

 でも、この仕事をしているとたまにそういう人に出会えるということは周辺の払える人の話ではよくあることらしいから、逆それまでの俺のほうが運がなかったんだろう。

 その後いろいろと根ほり葉ほり聞かれたけど、おそらくは最近見えるようになった珍しいタイプらしい。

 普通は子供の頃に感じたことや見たことがそのまま大人になっても残っていることが多い。

 しかしそれが「他の人と違う」ということで自ら見えることを拒絶する。

 そして「見え」なくなるし「感じること」もできなくなる。

 もともと俺も見えたんだと思うけど見ることは拒否したんだと思う。

 ただ、感触というか感覚は残ったままでそれがこんな因果な商売をするきっかけになってしまったんだけど。

 慣れてしまえばたいしたことではなくて、これが普通になってしまった。


 で、その女の子が本当に見えるのかと試したんだけど

 本当に見えるようだ。

 どのように見えるのかというと簡単に言うと薄い透明のビニールが浮いて移動したり、止まって見えたりするのが多く、それがたまに「人の姿」になったりするらしい。

 いわゆる「幽霊」に見えるということらしい。

 そりゃ怖いわ。

 よく海岸線の防砂林の中にいると誰かに見られている感じがするけどあれも単純に「塊」が流されて引っかかっているようなもんだ。

 それが人の姿に見えるんならそれは俺でもビビると思うよ。

 たまたま炊き上げの最中に婆さんと鉢合わせしたこともあって、詳しい話をする機会もできたしで。

 出来れば見えなくなったほうがあいつにとっては幸せなんだろうけど、そうはなかなかうまくはいかないのだろう。


「塊」は昔からよく言われる幽霊やら妖怪の類のように言われるものだがそもそも悪意のあるものというのはそう多くはない。

 それ以前に意識などある物体とは思えない。

 俺が感じる「塊」は「ぼよん」とした感覚の「濃い空気の集まり」でしかない。ただ、それは何かにまとわりつくことが多く、例えば人形や大木などに絡みつくことが多い。

 なので取り払うのだがただ、手で払うのは容易ではない。

 なんというかそれを取り払うためには同じようなものが必要なんだ。

 要するに油汚れを落とすために油を使うという感じ。

 それが俺の場合手から出やすいのかもしれない。

 見えないとか感じない人でもそれができる場合があるし、ちゃんとした修行を積んでできるようになる人もいる。

 言ってしまうといわゆる除霊とか霊媒とかそういうものかもしれないが、俺にとっては他人が何をしていようが関係ないことだ。

「塊」は人によって気味の悪いものに見える場合がある。そのせいでそれを取り払う力があればそれを商売にする人が出ても何の不思議でもない。

 もちろん、幽霊や妖怪はすべて「塊」ということではないし、そういう風に見えるとかそんな風に感じるという人が多いということで、さらに言うならば見える人が少ない以上それはそれでしょうがないということだ。

 何かしらの印象があればそういう風に見えるのは仕方ないだろう。

 多分小さい頃は「塊」に限らずいろんなものが見えたと思う。

 モスキート音が年を取ると聞こえなくなるようなものかもしれない。

 でもあれだって個人差があって聞こえる人はどんなに年をとっても聞こえる人もいるし若くてもなかなか聞こえない人もいる。

 それはそれで普通のことだし、同じようなことが「塊」に対しても言えるんじゃないかと思ったりする。

 考えてみれば俺も九字の切り方を知るまではなぜこんなことになるのか分からなくて結構大変だったし。

 と言いながら九字の切り方だって我流だし、たまたま後になって「正式にそういうものがあるのか」と知ったことだった。

 なんというか、そういうもんだろう。


 で、本来はこれで俺一人で気ままにやっていくはずだったんだよ。

 なのに、忘れたころにあいつからいきなり電話かかってきて

「助けてくれ!」っていうもんで。

 行ってみれば案の定首突っ込んでいるし。

 知り合いが憑かれているという話なんだが、俺から見ればこんなのはよくあることなんだけど。

 多分あいつにとっては「塊」が何か悪さをしているようで異様に見えたんだろう。

 実際ちょっと厄介な感じはしたけどたいしたもんではなかった。

 九字を切って払うだけで取れたし。

 確かに以前にあったパターンでは払うのが難しいこともあったし、今でも苦戦するときもあるんだけどこういうことはできれば遠慮したいもんだ。

 そのせいか最近余計な仕事が増えているのはあいつのせいなのは間違いない。

 それ以降何かあるごとにあいつからヘルプの電話が増えた。

 見えるのは構わないけど小さな「塊」なんかはある意味小さな埃のようなものなんでそんなのをいちいち払っていたんじゃこちらも面倒が増えて困るんだよ。


 といいながらいつの間にかあいつと付き合っていることになってしまっているんだが。

 これでいいのかなあ。

 なんだかんだ言いながらこれからもこんな感じで普通に続くんだろう。

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普通のことだと思うけど… さとつぐ @tomyampoo

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