第6話 接続改装の夏 ユリシア篇 2

「んっ、ああっ! はぁ、き、キズナぁ」


 傷無の舌は誘われるがままにユリシアの胸の谷間を進み、そこから肌色の山を登る。急な斜面からゆるやかな曲線を描く稜線を舐め上げる。


 ユリシアの背筋が震えた。やがて来るであろう強烈な快感に備えて、身構えた。


 しかし傷無の舌は頂上まで登ろうとせず、焦らすように裾野部分を行ったり来たりする。


「ふっ、う、うぅ……あん、キズナ。もう、焦らさないで」


 あえぐようにつぶやくと、ユリシアは胸の先を辛うじて隠していた浴衣を、自らの手で引き下げた。


 傷無の目の前に、ユリシアの白い胸が隠されることなくさらされる。


 ピンク色に彩られた先端は、傷無を待ちきれないとばかりに背伸びをしている。


「お願い……わたくし、もう……」


 切なげな声を出すユリシアが、傷無にはとても愛おしく感じられた。世界最強と謳われたアメリカの元エースが、快感を心待ちにして身をよじっている。


「ユリシア……」


 そして傷無はその先端を口に含み、舌で転がし、吸い上げた。


「!! はぁあああああああああああああああああああん♡」


 ユリシアと傷無の体に埋め込まれたハート・ハイブリッド・ギアのコアが光り輝き、生命のエネルギーが光の粒子となって二人の体から溢れ出す。


 その輝きは神社の社を照らし出し、二人の体の周りを舞った。そして、再びユリシアと傷無の体へと吸収される。


 その瞬間、二人のハイブリッド・カウントは全快した。


「ユリシア、これで接続改装は成功だ」


「もう、終わり……なの?」


 ユリシアが淫猥な表情で傷無に微笑みかけた。


「え? うわっ!?」


 今度はユリシアが傷無の胸に舌を這わせた。そして、白魚のような指先が傷無の下腹部から下へと愛撫を始める。


 ──これは……接続改装の催淫効果か?


 接続改装には副作用がある。それは女性の性欲が高まり、酒に酔ったような状態になるということである。そして、その副作用を上手く使うことで──、


「……よし、ユリシア。このまま次の改装へ進むぞ」


 傷無も対抗するように、ユリシアの太ももを撫で上げ、浴衣の裾を割って行く。


「ひゃぁんっ、あ、あああんっ」


 つるりとした手ざわりの太ももを上って行くと、ユリシアの体の中で一際熱を持った部分が待ち構えている。


「だ、だめ、キズナ。今度は、わたくしが気持ちよくして……あんっ、あげたいのぉ」


 いやいやをするように、金色の髪を振り乱す。しかしユリシアのそこは、ユリシアの意思とは別に、傷無の指先を喜んで受け入れているようだった。


「駄目だ。お互いの快感と愛情を共有する必要があるんだ。だから、二人一緒でないと意味がない」


「ひぅっ! やぁああああああん♡!」


 傷無は手の平でユリシアの最も敏感な部分に刺激を与えながら、耳元で囁いた。


「さっき、どこに魅力を感じるのか訊いてきたよな?」


「はぁっ! え、ええ。んっ、ああぁあっ」


 耳に唇が触れるほどの距離で、そっと囁く。


「ユリシアの魅力は……美しさ」


「はぁんっ♡」


 傷無の言葉が、ユリシアの耳から頭へ、痺れるような快感となって走り抜ける。


「強さ、カッコ良さ、頭が良く優秀、でも仲間思いでとても優しい」


 囁く声が、ユリシアの体の内側から全身を愛撫する。直接ささやきを受け止めるユリシアの耳たぶは、火傷をしたように真っ赤になっていた。


「キ、キズナ……も、もう十分よ」


 頬を赤く染めたユリシアが、うるんだ瞳で言った。しかし傷無は構わず続ける。


「誰もが憧れる素敵な存在のくせに、とびきり妖艶な女の子だ」


 その瞬間、ユリシアの頭の中が沸騰したように熱くなった。そのタイミングを逃さず、傷無の手がユリシアの敏感な部分を強く押し込み、一際強烈な快感を送り込んだ。


「──っ!!」


 ユリシアの頭と体を、凄まじい快感が貫く。


 瞬間的に歯を食いしばり、涙ぐんだ。


 その瞳にハート型の光が浮かぶ。


 そして、よだれの垂れた口から愉悦の叫びがほとばしった。


「♡っあああぁぁぁぁああああああああああああああああああっ♡♡♡♡!」


 ユリシアの体から、強烈な光が放たれる。その光は柱となり、夜空へ駆け上って行く。


「絶頂改装、成功だ!」


 そのとき、まるでタイミングを見計らったかのように、警報が響き渡った。


「なに!? これは……」


 傷無の疑問に答えるように、フローティングウインドウが立ち上がった。そこに姉である怜悧の姿が映し出される。


『傷無、非常事態だ! メガフロート日本の東十五キロの地点に、異世界の戦艦が出現した』


「何だって!?」


 ケイが言っていた衝突面エントランスが発生した可能性が的中したということだ。傷無の頬に冷や汗が流れる。


『既に戦艦は衝突面エントランスからこちらへ向かっている。傷無、ユリシアは出撃出来るか?』



 傷無が答えるよりも先に、背後で声がした。


「ノープロブレム。わたくしに任せておいて」


 浴衣をはだけた姿で、ユリシアが立ち上がった。そして帯を緩めると、潔く浴衣を脱ぎ捨てる。


「クロス!」


 己のコアの名前を叫ぶと、ユリシアのセクシーな体を光が包み込む。そしてその光が弾け、光が消えた部分に青い装甲が着装されてゆく。


 全ての光が消えたとき、ユリシアの体にはハート・ハイブリッド・ギア『クロス』が着装された。


 しかし今はパイロットスーツを着ていない。


 全裸の上にクロスだけを着装した姿は、信じられないほど煽情的だった。装甲の隙間から無防備な素肌が覗き、揺れる胸も大きなお尻も丸出しだ。


 とてもいやらしく、しかし美しい。ユリシアの肉体の魅力を、何倍にも増しているようにすら感じられた。緊急時にもかかわらず、傷無はその姿に見とれそうになった。


「……っ、ユリシア! パイロットスーツなしで大丈夫なのか?」


 心配する傷無をユリシアは鼻先で笑った。


「大丈夫。わたくしのスピードなら、誰の目にも止まらないわ。傷無以外の人には見せないから、安心して☆」


 ぱちっとウインクをすると、片手を横に伸ばす。


 傷無は「そういう意味じゃないんだが」と心の中で思ったが、質問し直す前にユリシアの指先に魔法陣が広がった。


 ユリシアは魔法陣の中から顔を出したトリガーをつかみ、魔法陣から引き出してゆく。


 それは十字架のような形をした、巨大な杭打ち機。


 全ての装甲を貫き、存在を串刺しにし、内側から存在そのものを崩壊させる。

 

 対象の善悪なく、等しく惨殺せしめる無慈悲な十字架。


 この杭に貫かれ、存在を維持できる物質は存在しない。



 しかしその射程、わずかに一メートル。



 ──背徳武装、破滅十字クロスヘツド


 絶頂改装をすることによって使用可能となる究極の兵器。それが背徳武装。


「遠距離攻撃主体のわたくしの切り札が超至近距離兵器というのも、皮肉なものね」


 薄く微笑むと、ユリシアは破滅十字クロスヘツドの切っ先を夜空に向けた。その先には微かに光る赤い光がある。異世界の戦艦の放つ、禍々しい輝きだった。


「キズナはそこで見ていてね」


 ユリシアの背中に装着された攻機動粒子機関ディファレンシヤル・フレイムが、ロケットのように激しい光を放つ。


 次の瞬間には、ユリシアの体は神社のある山を離れ、夜の海上を駆け抜けていた。巨大な出力を誇る攻機動粒子機関ディファレンシヤル・フレイムが、破滅十字クロスヘツドを抱えたユリシアを一瞬にして音速にまで加速させる。


 千メートル級の異世界の戦艦は急接近する物体を警戒し、シールドを十数枚も連ねて出現させる。通常の兵器であれば、一枚すら破ることの出来ない、鉄壁の防御だ。


「はぁああああああああああああああああっ!」


 そのシールドが、まるでガラスのように砕け散ってゆく。


 破滅十字クロスヘツドを阻めるものは何もない。


 クロスの速度には戦艦の砲撃も追いつかない。

 異世界の戦艦はなす術なく、ユリシアの接近を許した。


 そして、破滅十字クロスヘツドの先端が装甲に触れた。


「ドライブ!!」


 ユリシアがトリガーを引くと、激しい熱と蒸気、そして溢れる粒子を吐き出しながら、破滅十字クロスヘツドは巨大な杭を撃ち出した。


 鋭い先端が戦艦の装甲に突き刺さる。通常兵器では傷一つ付けることの出来ない異世界の装甲が、紙のように破られた。


 衝撃が戦艦を貫き、船首から船尾まで巨大なトンネルが貫通する。金属の杭は、同時に凄まじい量の粒子を戦艦の内部に送り込む。


 そして内部に侵入した粒子は戦艦の内側で暴れ回り、内部機関をことごとく粉砕してゆく。

 出口を求める粒子は、やがて装甲を内側から破り、外へと飛び出してゆく。


 戦艦は形状を維持することも出来なくなり、やがて空と海を照らし出す激しい閃光へと姿を変えた。


 激しい炎と衝撃波が広がった。


 空気を揺るがし、激しい衝撃波が波を起こす。そして轟く爆音が海を渡る。その衝撃は海岸沿いの山にも届き、傷無の体を激しく揺さぶった。


「相変わらず凄いな……」


 海上に花開いた巨大な爆発を見つめ、傷無は呆れたようにつぶやいた。


『傷無! 戦艦を墜としたのか!?』


 アタラクシアにいる怜悧がウインドウから訊いてきた。


「ああ。ユリシアが背徳武装で撃破したよ」


『そうか……よく都合良く絶頂改装していたな』


 傷無は内心ぎくりとしたが、怜悧はそれ以上追求はしなかった。


『詳しいことは後で聞こう。急いで回収班を出す』


「ああ……いや、回収班は必要ないよ」


 こちらに向かって飛んでくるユリシアを見つめて、そう言った。ユリシアは先程と同じ、全裸にハート・ハイブリッド・ギアを着装した姿である。


 ──あんな姿を、みんなに見せるわけにいかないしな。


「えーっと、姉ちゃん? せっかくこれからシルヴィアが楽しみにしている花火大会なんだ。見終わってからアタラクシアに戻るよ」


 通信を切ると、傷無はユリシアの浴衣を拾い上げて埃を払った。空を見上げると、ちょうどユリシアが降下してくるところだった。


「キズナーっ! どう? わたくしのショータイムは見てくれた?」


 異世界からやって来る軍隊を撃退するのが、天地穹女神の任務。そして、いつの日か日本を、世界を取り戻す。


「ああ、最高だったよ」


 浴衣を手渡しながらそう答えると、ユリシアは嬉しそうに微笑んだ。愛音、姫川、ユリシア、みんな頼もしい仲間だ。


 この仲間たちがいれば、異世界の敵を打ち払い、日本を奪還することも夢ではない、そう思うことが出来た。


「たいちょーっ! こんなところにいらしたデスか~」


 階段を駆け上がってくる、小さな影が見えた。嬉しそうな笑顔で、力一杯手を振っている。


 あの笑顔を守る為にも、俺たちは異世界の敵に勝たなければならない。優しい笑顔をシルヴィアに向け、傷無は心の中で決意を新たにするのだった。

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魔装学園H×H 特別編「接続改装の夏」 久慈マサムネ @kuji_masamune

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