接続改装の夏 ユリシア篇

第5話 接続改装の夏 ユリシア篇 1

 メガフロート日本の神奈川フロート、湘南エリアを使った天地穹女神の休暇旅行も夜を迎えていた。今日は海沿いの宿で一泊して明日の午前中にアタラクシアに戻る予定だ。


 休暇中に傷無に課せられた任務、それは天地穹女神アマテラスである愛音、姫川、ユリシアと接続改装を行い、三人のハイブリッド・カウントを回復させることだ。


 既に愛音、姫川との接続改装は完了している。


「残るはユリシアか……」


 傷無は石で出来た鳥居の下で、履き慣れない下駄の鼻緒を気にしながら、参道に続く夜店の明かりを眺めていた。

 暗い神社の杜に続く参道は、この日だけの明かりに包まれている。その明かりの下を、神奈川フロートに住む人々が笑顔で行き交っていた。


 アタラクシアのように学生と研究者ばかりの人混みではなく、老若男女が入り交じった人の流れだ。普段着の人も多いが、浴衣を着た姿もよく目に付く。傷無も宿で無料貸し出しを行っている紺色の浴衣を着ていた。


 浴衣なんて、子供のころ姉の怜悧に連れられて盆踊りに行って以来だなと、過去を懐かしんでいるとき、傷無を呼ぶ声が聞こえた。


「たいちょーっ!」


 参道とは反対側の道路を、シルヴィアが小走で駆けてくる。その後ろからやって来るのは識名京。さしずめ保護者役といったところだろう。ケイはラフなTシャツに短パン。その上にいつもの白衣を羽織っていた。


「お待たせしたデス♪」


 シルヴィアは白地に黄色と橙色の菊をデザインした、可愛らしい浴衣を着ていた。シルヴィアの可愛さと明るさを表現したようで、良く似合っている。


「ああシルヴィア、良く似合っているじゃないか。可愛いぞ」


 素直に感想を述べる傷無に、シルヴィアは頬を赤くして恥ずかしそうに身をよじった。


「エヘヘへ、そんな、照れるデスぅ~」


「あらキズナ。わたくしには一言もないの?」


 少し遅れて、ユリシアが軽やかな下駄の音を鳴らしてやって来た。着ている浴衣は、薄い水色に朱色の花柄。微かな光沢のある豪華な浴衣だった。


「え? いや。もちろん似合ってるし、凄く綺麗だよ」


「ふふふありがとう♡ 誘ってくれて嬉しいわ。愛音とハユルもいないし、ナイスタイミングね♪」


 自然な仕草で傷無の側に寄り沿うと、かすかに胸の先を傷無の腕に触れさせる。


「お、おい。ユリシア……」


 うろたえる傷無に、ユリシアは満面の笑みで答える。


「心配しないで、わざとだから♡」


 傷無は綺麗な浴衣に包まれた、ユリシアのゴージャスな体を見つめた。


 セクシーで抑揚の激しい体は、浴衣には収まりきらない。大きく張り出した胸は、その大きさを立派に主張している。浴衣を大きく押し上げて、襟のあわせが開いて今にも谷間が見えてしまいそうだ。


 帯で締め付けたウエストから下に向かって、大きくお尻が張り出している。胸と同様こちらもお尻がぱつんぱつんで、その丸いお尻と谷間の形がくっきりと浮き上がっている。


 見ているだけで、その柔らかい感触が手の平に伝わってくるようだ。ふと傷無は、そのお尻に下着の線がないことに気が付いた。


「もしかしてユリシア、下着……」


「え? 付けてないわよ。和服では下着は着ないんでしょ?」


 そう言って、ユリシアは得意げに胸を張った。よく見るとその胸の先が、少し飛び出しているように見える。


「いや、それはちょっと誤解というか──」


「さ、シルヴィア行きましょうか。ビーチバレーで優勝したシルヴィアへのご褒美なんだから。お祭りを見て回ったら、花火大会の場所取りに行きましょ」


「すみませんデス。シルヴィアのわがままで……」


 シルヴィアが希望したのは、みんなでお祭りに行って、花火大会を見たい、というものだった。傷無は早速ユリシアとケイ、それに怜悧に声をかけて、ちょうど浜辺近くの神社で行われている夏祭りと、海岸の花火大会を見学することにしたのだ。


「なに言ってるのよ。ご褒美なんだから、思いっきり楽しみなさい。あ、でも後でちょっとキズナを貸してね? ちょっと用事があるの」


 シルヴィアは笑顔になると、元気に返事をした。


「ハイ! りょーかいデス!」


「ところで識名さん。姉ちゃんは一緒じゃなかったんですか?」


 ケイは懐からキーボードを取り出すと、両手の親指でぽちぽちとキーを叩いた。すると傷無の目の前にフローティングウインドウが現れた。


『怜悧は急用でアタラクシアに戻った。近くに衝突面エントランスが発生した可能性がある。その対応のため』


衝突面エントランス? 大丈夫なんですか?」


『それを調べている段階。緊急性はないと思われるが、私も後で戻る』


 緊急ではないとはいえ、気になる情報だった。難しい顔をする傷無に、ケイは今は休暇を楽しみつつ、残りの任務を遂行するように伝えた。


「分かりました……それじゃ、まずこの辺の屋台から見ていこうか」


 傷無の提案に従って、四人は神社の境内に並ぶ屋台の列を見て回った。水飴や綿菓子、お面屋に金魚すくいなど、初めて見る夜店の数々にシルヴィアもユリシアも目を輝かせた。


 そして一通り見て回った後で、ユリシアが言った。


「それじゃ、ちょっとキズナと抜けるわね。花火大会が始まるまでには、戻ってくるわ」


 笑顔で手を振るシルヴィアと無表情で手を振るケイを残し、ユリシアは傷無の腕を取ると引っ張るようにして境内の裏の方へと進んで行った。


「どこへ連れて行くんだ? ユリシア」


 ユリシアは傷無を振り返ると、肩越しにウインクを送って寄こした。


「ふふふ。イ・イ・ト・コ・ロ、よ♡」


 いたずらっぽい微笑みに秘められた妖艶さに、傷無の背筋がぞくりと震える。


 軽く咳払いをすると、傷無はユリシアに手を引かれるままに、暗い階段を上がって行く。どうやら神社の裏山に登る道のようだ。


「さ、到着よ」


 階段を上りきると、そこは狭いながらも綺麗に手入れのされた神社だった。


 振り向いて階段の上から景色を眺めると、思ったよりも標高が高く、視界が開けて遠くの街までが見渡せる。


「うわ……いい眺めだな」


 眼下に輝いているのは神社のお祭りの賑わいと、海沿いの街の明かりだ。その光は海岸線に沿って続き、神奈川フロートの外縁部を闇の中に描き出していた。


 それは闇の中に輝く光のアート。反対側の夜の海は暗く闇に包まれている。


 だがその闇の中に不夜城の如く、アタラクシアの明かりが浮かび上がっている。その背後は満天の星。まるでアタラクシアが宇宙に漂っているようだった。


「神奈川フロート出身のクラスメートに教えてもらったの。穴場のデートスポットなんですって」


「確かに……ロマンチックな割りには人もいないし──って、ユリシア?」


 ユリシアは胸を傷無の腕に押し付けてきた。そしてしなやかな指先を、傷無の浴衣の胸元に滑り込ませる。


「愛音もハユルも接続改装をしたんですもの。当然、わたくしともするんでしょ?」


 胸を這い回るユリシアの細い指先と、髪から香る甘い花の香りが傷無の胸を高鳴らせる。ユリシアには敵わないな、と傷無は苦笑いを浮かべた。


「ユリシアの方から切り出されるとは思わなかったよ」


「だって、いつ誘ってくれるか分からないんだもの。わたくしはキズナを誘っているつもりだったのに……そんなに魅力がないのかしら?」


 甘えるように体をすり寄せる。頬を寄せ、大きく飛び出した胸の先が傷無の胸板に触れた。傷無はふっと微笑むと、浴衣を押し上げている胸へ手を伸ばす。


「本当は自分がどれだけ魅力か分かっているくせに」


 ユリシアはうるんだ瞳を細めて囁く。


「キズナが教えて……わたくしのどこに魅力を感じているのか……あっ」


 傷無の手がユリシアの柔らかい胸を、下から持ち上げるようにして撫で上げる。


 ユリシアの胸は大きすぎて、浴衣の胸元が自然にはだけてしまう。傷無が手で揉みしだくと、さらに襟のあわせが広がっていった。


「あぁ……んっ、や、やっぱり、胸が……いいの?」


 嫌がる風ではなく、むしろ自慢気にユリシアはつぶやいた。


「ああ。やっぱりすごいよ、ユリシアのは。でも……」


 傷無はゆるんだ襟に手を滑り込ませ、そのまま左右に開かせると胸の先端が辛うじて隠れるギリギリで止め、ユリシアの両肩をむき出しにする。


 そして傷無は白い首筋に唇を押し当てる。すると、ユリシアの唇から熱い吐息が漏れた。


「はぁ……ふふ、何だか、吸血鬼のキズナに血を吸われてるみたい」


 そう言いながらも、ユリシアは気持ちよさそうに目を閉じる。


 傷無は首筋から肩、そして鎖骨から胸の谷間へと、ユリシアの肌を味わうようにして唇を進めた。


 ユリシアの肌からは良い香りが漂い、傷無の口と舌を誘惑し、さらにその先へ、奥へと誘っているかのようだった。

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