第2話 接続改装の夏 愛音篇 2

 傷無は愛音の後を追った。


 愛音は海の中に足をつける。寄せる波が裸足の足にまとわりつくようで、気持ちがいい。そして波が引くときに、波と共に砂が肌を撫でるようにして、海の中へと引っ張られる。その波にいざなわれるように、愛音は海の中へ入って行く。


「……気持ちいいわね」


「ああ。海に囲まれているのに、海で遊ぶ機会が滅多に無いからな。いい気分転換になるよ」


 水の気持ちよさにつられて、沖へ沖へと歩いて行く。人工のビーチは遠浅に設計されているらしく、砂浜の人影が豆粒のように見えるところまでやって来ても、まだ腰の辺りまでしか水がない。


 広いビーチは人もまばらで、傷無と愛音の周りにも人影はない。かなり大声で呼ばない限り声も届かないだろう。


 傷無の瞳がきらりと光る。


 ──これは、接続改装を行う絶好のチャンスだ。


 この休暇中に自分に課せられた任務、それは愛音たち天地穹女神アマテラスのハイブリッド・カウントを回復させることだ。


 すなわち接続改装ハート・ハイブリツド

 ハート・ハイブリッド・ギアを持つ男女が心と体を一つにし、愛情と快感を共有することで起きる奇跡。自然回復がほとんど見込めないハイブリッド・カウントを劇的に回復させる脅威の現象だ。


 この接続改装を行うことが出来るのは、傷無のハート・ハイブリッド・ギア『エロス』のみ。


 傷無は愛音の姿を改めて見つめた。


 波が来る度に、くびれたウエストにあるへそが見え隠れする。しかし水は綺麗で透明度が高い。腰から下は逆に足下までよく見える。水に浮かんだ銀色の長い髪が、波に合わせてゆらゆらと揺れていた。


 海から出ている上半身は、人魚姫を思わせる美しさ。口の悪さやぞんざいな態度がなければ、まるで童話の中のお姫様のようだ。精巧に作られた美術品の如き顔立ち。ルビーのような澄んだ赤い瞳。瞳を飾る長い睫毛。白く美しい肌。艶のあるピンク色の唇。


 作り物のような美しさだが、特にメイクもしていないでこれというのが驚きだ。


 しなやかな体に浮かぶ水滴が、太陽の光に輝いている。美しくはあるが、どこか儚く、脆いものを感じさせた。それは愛音の体のハイブリッド・カウントが残り少ないせいなのかも知れない。


 傷無は後ろから、そっと愛音の体に手を回した。


「なっ……ちょ、ちょっと!」


 愛音はびくっと体を震わせると、慌てて傷無から離れようとした。しかし傷無は、愛音の腰の前で手を組んで逃がさない。そして逆に、愛音の体を抱き寄せた。愛音は自分の体重を傷無の胸に預ける格好になる。


「な、なに考えてるのよ! こんなところで、何を!?」


 さっきまでの澄ました顔から一転、愛音は頬を染めて激しく狼狽えている。


「愛音、お前のハイブリッド・カウントはもう10%を切っている。急いで接続改装をしなければならないんだ」


「そ、それは知ってるけど! でも、なにもこんなところじゃなくても!」


 愛音は傷無の腕から逃れようと、じたばたと暴れた。しかし、その動きを押さえるように、傷無の手が愛音の胸をつかんだ。


「ひゃうっ!?」


「こんなところだからだ」


 傷無は左手で愛音の腰を抱えたまま、右手で愛音の胸を揉みしだいた。いつ触っても、愛音の胸は気持ちがいい。適度な重さを手の平に感じながら、大きな柔らかい塊に指を沈める。


「な……なに、あんっ! 言ってるのっ、ああっ、わ、わけが、わから……いやぁあん!」


 愛音の胸の手ざわりはふかふかの綿のようで、指に力を込めると、指の隙間からあふれ出そうになる。それでいて、その奥には指を押し返す弾力を秘めている。


 力を抜いて手を開き、そしてまた胸の形を歪めるように力を込める。それを繰り返す内に、愛音の抵抗のが徐々に弱まっていった。


「はうぅ……ああん♡ だ、だめ……だったらああぁあんっ」


 傷無の手をつかむ愛音の指も、もう引き離そうとしてはいない。むしろ傷無が手を離さないように押さえているようにすら思える。


「今日中に三人とも接続改装をしなきゃならない。一番最初は愛音、お前からだ」


「一番? そう、あたしが一番なの?」


 愛音の目がとろんと潤む。


「でも、どうせだったら……こんなところじゃなくて……どこか二人っきりになれるところとか……」


 恥ずかしそうに、もじもじと太ももをこすり合わせる。


「愛音は恥ずかしがり屋だからな。逆にこういう開放的な方が、刺激が強くて接続改装が成功しやすいと思うんだ」


「な……なにバカなことあああん! あっ、それはダメっ!」


 傷無は愛音の胸と水着の隙間に指を差し込んだ。水着の上からでも分かる先端のしこりは、直接さわるとよりその硬さが明らかになる。


「ひっやああああぁああん! つ、つまんじゃ……んああぁあっ」


 優しく揉みほぐすように、その先端を指の腹でつまんで押す。しかし柔らかくなるどころか、どんどんと大きく硬くなってゆく。


「ああ……そんな、ふ、ふぁああ……あん」


 傷無の手が激しく動くにつれ、水着がずり上がってゆく。そしてついに、隠しきれなくなった胸がこぼれ落ちた。真っ白な肌にピンク色の輪が美しい。海の水に濡れた肌は光沢があるように光り、さらに淫猥な彩りを添えていた。


「やっ! だ、ダメ……見られちゃう」


 愛音は胸を抱きかかえるようにして隠した。


「近くに人はいないから大丈夫さ」


「でも、監視員とか……」


「俺の体に隠れて見えないよ。沖には誰もいないし」


 そう説得すると愛音の手から力が抜けた。


「で、でも……胸だけね。それ以上は、ダメだから」


 腕を緩めると、押し潰されていた胸が元の形を取り戻す。ふるんと揺れて、愛音の胸が夏の日差しの中に現れる。


 まるく美しい曲線を描くそれは、見るからに柔らかく、しかし内側には羞恥や背徳感、そして快楽や愛といった様々な感情を詰め込み、今にもはち切れそうなほどに肌は張り詰めていた。


 針でつつけば破裂してしまいそうな愛音の胸を、傷無は優しく、しかし確実に快感を擦り込んでゆく。


「んあぁあっ! あああぁああああんんんっ!」


 涙の浮かぶ愛音の瞳の中に、きらきらと光る粒子が泳いだ。


 ──もう少しで接続改装が成功する。あともう一息だ。


 傷無は愛音のお腹からその下へと手をすべらす。しかしその先には、愛音の手がしっかりと守りを固めていた。傷無は愛音の耳元に唇を寄せ、囁いた。


「そんなに大きな声を出すと、誰かに聞かれるかも知れないぞ?」


「っ──!?」


 愛音は慌てて手で口を押さえる。


 その隙に傷無の手は愛音の下腹部のさらに下へと伸びた。そして、水着の食い込んだ谷間に指を滑らせる。


 愛音の目が驚いたように見開かれた。傷無を振り向くと、不安に満ちた、許しを請うようなまなざしを投げかける。しかし傷無は容赦なく指をより強く食い込ませた。


「ああんっ……♥!!」


 愛音の口から快感が悲鳴となって漏れ出る。


 傷無は片手で胸を、もう片手で股の間を撫でさする。水着を通して、その形がはっきり浮かび上がっていた。


 愛音に強烈な快感をもたらす部分が、自らの意思に反して大きくなってゆく。それはより快感を求め、傷無の指を求めているかのようだった。それは愛音の本心を体が表しているのかも知れない。


 愛音の体から粉雪のような青い光が漂い始めた。


 ──ここだ!


 傷無はより激しく愛音の体を責め立てた。快感をこらえる限界に、愛音は涙を浮かべて耐えていた。その耳元に傷無が囁く。


「大丈夫。今なら大声を出しても、声が届く範囲に人はいない」


 愛音の気が緩むと同時に、理性の壁が崩壊した。


「……え、あ、や、だだめぇええぁんんんあああああんんんっぁああああ♥♥♥!!」


 愛音の体と心が感じる喜びが、光の爆発となって現れる。愛音の体が青い光に包まれ、やがて消えた。


「あ……」


 愛音は崩れるように傷無の体にもたれかかった。傷無は海に沈んでしまいそうな愛音の体を抱きとめると、その顔色を窺う。


「大丈夫か? 愛音」


 気を失っているのか、愛音の答えはなかった。その顔は相変わらず美しかったが、しかし先程までの儚さはなく、生気に溢れているように見えた。


 傷無は愛音をお姫様抱っこの形で抱き上げると、砂浜に向かって歩き始めた。


「あとは姫川とユリシアか……」


 長い一日になりそうだ──と、傷無は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る