魔装学園H×H 特別編「接続改装の夏」

久慈マサムネ

接続改装の夏 愛音篇

第1話 接続改装の夏 愛音篇 1

 青い空に真夏の太陽が輝いている。


 強烈な日差しは砂浜を熱く焼き、その砂を冷ますように、海から白い波が打ち寄せていた。その砂を蹴って、飛弾傷無ひだきずなが落下するボールに向かって飛びついた。


 ボールが砂浜に落ちる寸前、手を伸ばして辛うじてボールを弾き上げる。傷無は砂浜に倒れながら叫んだ。


「愛音!」


 青空に舞い上がったボールに向かって、千鳥ヶ淵愛音ちどりがふちあいねが飛ぶ。銀色の長い髪が尻尾のように跳ね、赤い瞳には落下してくるボールが映る。


 ネットよりも高く舞い上がる愛音の体がしなやかに反り返り、引いた腕に力を溜める。そして引き絞った弓から矢が放たれるように、愛音の白い手が目にも止まらぬ速度でボールを打った。

 ネットの向こうで鋭い声が響く。


「ハユル!」


「はいっ!」


 愛音がジャンプするのにわずかに遅れて、ユリシア・ファランドールと姫川ハユルが、砂を蹴る。ネット際で両手を挙げて飛び上がった。その動きにわずかに遅れて、胸の膨らみが付いてくる。


 二人の体が頂点に差し掛かったとき、ビキニに包まれた胸が大きく跳ね上がった。水色に花柄の水着に守られた姫川の胸は、優雅な曲線を描いて持ち上がる。


 一方、白い水着に包まれたユリシアの巨大な胸は、ダイナミックな動きで見る者を圧倒した。水着の小ささに比べ、そこに包まれた胸の質量と容積はあまりにも大きい。ギリギリの白い水着から、柔らかな物体が今にも飛び出してしまいそうだった。


 飛び上がった体が頂点に差し掛かると、ユリシアの輝くような金髪と、姫川の艶のある黒髪が、重力を失ったようにふわりと広がる。ネットの上に二人の両腕が壁の如く屹立する。


 それは鉄壁の如く、愛音の放った強烈なスパイクを跳ね返した。ブロックされたボールは宙に浮き、落下してゆく。


「傷無っ!」


 愛音が焦った声をかける。既に傷無はボールの落下地点目指して飛び込んでいた。スライディングするように必死に腕をのばし、祈る。


 ──届け!


 だが指先の数センチ先をボールがすり抜けた。

 砂の上にボールが落ちる。


 次の瞬間、無情にも試合終了を告げる笛が鳴り響いた。砂を掘り起こしながら倒れた傷無の横に、ビーチバレーのボールが転がった。


「姫川、ユリシア組の勝利デス!」


 シルヴィア・シルクカットが手を上げて勝利チームの名前を宣言した。


 姫川とユリシアは砂浜に着地した。慣性の法則に従って、二人の胸が弾むように揺れる。二人並んで同じ動きをすると、その質量と体積の差による動きの違いが明らかだった。


 揺れ幅も小さく、すぐに元のポジションに収まる姫川の胸に対し、ユリシアの胸は長い揺れが続く。今まで打ち合っていたボールが、ここにも二つあるようだ。着地をして上下に弾み、姫川の方を向くと、体の動きに遅れて胸が左右のベクトルを追加する。


 暴れまくるわがままな胸の動きに、姫川も勝利の喜びも忘れて、思わず見入ってしまった。


「やったわね、ハユル」


「えっ、ええ……」


 顔を引きつらせた笑顔で、姫川は「それにしても、相変わらず凄い胸……」と口の中でつぶやいた。


「ん? 何か言った?」


 長い金髪をかき上げ、ユリシアが首を傾げる。そんな些細な動きにも、手を抜くことなく胸の二つの大きな丸みはふるっと揺れる。


「いっ、いえ! なんでもありません」


 長い黒髪を左右に揺らし、姫川は慌てて首を振る。姫川はスレンダーな体ながらも、胸と腰には立派に肉の付いた理想的な体型をしている。

 しかし、チームメイトであるユリシアや愛音の爆乳と並ぶと、相対的に小さく見える。他人から見れば贅沢な悩みだが、姫川本人は、胸が小さいのでは? と気にしていた。


 ──お尻ばっかり大きくて恥ずかしいから、せっかくパレオ付きの水着にしたのに……寮に忘れてくるだなんて、私のバカ。こんな体型を傷無くんに見られてしまったではありませんか。


 傷無は立ち上がると体に付いた砂を払った。


「さすがにユリシアと姫川のコンビだな。全然、敵わないよ」


「はっ! ち、違います! 別に私は傷無くんに見せるために水着になったわけでは──」


「え? 何の話だ?」


 姫川は我に返ると、顔を赤くして口をつぐんだ。


「な、何でもありません! 今のは……忘れて下さい。えっと……これで私とユリシアさんのチームが優勝ですね」


 ここはメガフロート日本の神奈川フロートにある湘南エリア。人工の砂浜を備えた海水浴場である。湘南といっても、目の前に広がる海は美しい南国の海だ。メガフロート日本とアタラクシアは現在太平洋上を航行中だからである。


 異世界間衝突いせかいかんしょうとつが発生した今、陸地に近付くことは出来ない。異世界間衝突の影響で出現した衝突面エントランスから、謎の魔導兵器が大挙して押し寄せている。


 魔導兵器に唯一対抗出来る手段は、ハート・ハイブリッド・ギアのみ。そのコアを体に宿す傷無、愛音、姫川、ユリシアたちと、それを支えるアタラクシアの生徒たち、そしてナユタラボの研究員たちは日本を、世界を取り戻すため、必死の戦いを続けている。


 先日には大規模な魔導兵器との戦いがあった。その死闘を乗り越え、つかの間の休息を堪能しているところである。


 南国の海を借りたナユタラボのプライベートビーチに、ラボの職員とアタラクシアの生徒たちが遊びに来ている。異世界との戦闘が続く日々の中で、休息の時間は貴重だ。傷無たち、ハート・ハイブリッド・ギアを身に着けて戦う『天地穹女神アマテラス』たちもそれは同様である。いや、それ以上に重要な意味を持っていた。


 戦闘の度に消費するエネルギー『ハイブリッド・カウント』を補給しなければ、次に異世界の魔導兵器が襲ってきたときに戦えなくなってしまう。よってこの休暇は、傷無と愛音、姫川、ユリシアにとって、次の戦闘に備えてエネルギー補給を行う、という任務でもあった。


 今はレクリエーションの一環で、ビーチバレーに興じているところだ。傷無&愛音組と、姫川&ユリシア組による優勝決定戦。勝者には景品が出るらしい。


 愛音が不満そうな顔でやって来た。


「こっちのチームは傷無が役立たずなんだから、今のは無効よ。二対一で戦ったようなものだし。でもまあ、あと二本あたしから勝利を挙げたら、勝ちを認めてあげてもいいわ」


 いつものことではあるが、愛音の毒舌混じりの他人を小馬鹿にしたような言い回しに、姫川は頭痛でもあるようにこめかみを押さえた。


「負けたのに、何でそんなに偉そうなんですか……」


 気が付いたようにユリシアが口を挟む。


「でもアイネ。キズナはちゃんとボールを拾っていたじゃない」


「ああ、砂の中に落ちているお金でも見つけたじゃないかしら? 拾いに行ったらたまたまそこにボールが飛んできただけよ」


「金なんて拾ってねえよ! どんだけ必死なんだよ、俺!」


「そうね、あの必死さからすると五百円だったのかしら? 良かったわね。これで一ヶ月は生きていけるわね」


「生きられねえよ。俺の食費は一日十五円かよ」


「あのーお取り込み中すみませんデス」


 イギリスからの留学生であり、アタラクシア中等部に通っているシルヴィア・シルクカットが申し訳なさそうにやって来た。体が小さく、凹凸も少ない幼児体型のシルヴィアだが、立派なビキニを身に着けている。紫色でフリルの付いた可愛らしいデザインだ。


「姫川先輩とユリシア先輩は、次の試合の準備をお願いするデス」


「それってどういうこと? わたくしたちの優勝じゃないの?」


 怪訝な表情をするユリシアに、突然現れた人影が答える。


「ふっ、それはシードチームとの試合に勝利したら、だ」


「ねっ、姉ちゃん!?」


 傷無の姉、飛弾怜悧ひだれいりが水着姿で立っていた。胸でストラップが交差するタイプのホルターネック。そのストラップが怜悧の日本人離れした大きく張り出した胸を辛うじて隠している。


「この私とシルヴィアのチームが相手だ」


 ザシャアッ! という擬音が聞こえてきそうな、太陽を背にした立ちポーズ。怜悧とシルヴィアのやる気満々の表情に、傷無は苦笑いを浮かべた。


「姉ちゃん、それにシルヴィアも。悪ノリはそれくらいにして……天地穹女神アマテラスの二人に勝てるわけないじゃないか」


「いいえキズナ。これは強敵よ」


 ユリシアは真剣な顔で、新たな敵を睨み付けた。姫川も神妙な顔でうなずく。


「総司令とシルヴィアちゃん……これは手強いですね」


「そ、そうなの?」


 傷無と愛音を置き去りにして、次なる対戦相手同士が燃え上がる。ユリシアがにやりと口の端をつり上げた。


「でもぉ、こんな機会でもないと、総司令を叩き潰すなんて出来ないものね♪」


 怜悧も負けじと、不敵な微笑みを浮かべる。


「ふん。ハート・ハイブリッド・ギアなしの戦いで、この私に勝てると思うか?」


 傷無は呆れたまなざしで、火花を散らす二人を見つめた。


「こいつは止められないな……なあ、愛音?」


「バカバカしい。付き合いきれないわ」


 くるりと身をひるがえすと、愛音は波打ち際へと向かって行く。


「おい、愛音」

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