8-1 アイシャルナ1

サリナは職場に割とすぐに復帰できた。いつも道理の元気なサリナに戻り、晴一朗とサリナは再び島中の特定変異種の調査をして回った。だが逆に菅谷は職場に戻ってくることはなかった。

晴一朗が菅谷の一件を酒々井に聞いた時もあったが、酒々井は適正に処理しているというだけだった。その適正な処理は屑箱行きになることだったが晴一朗が知る由もなかった。

また晴一朗は菅谷のことなかり考えていられる程暇でもなかった。晴一朗はスイルの世話というか生態観察に追われていたのだ。

「スパゲティの食べ方もマスターと」

晴一朗はノートをつけた。ここのところスイルのことを色々と確認していたのだ。

「セイ、ごちそうさま。おいしかったよ」

サリナはスイルの隣に座っていた。ここのところ足繁く晴一朗のところに通っていた。晴一朗は日本から取り寄せた冷凍スパの袋をゴミ袋に入れたりしていた。

「サリナは早く帰ってくださいね。親御さんにはもうすぐ帰るって伝えたんですから」

「コールしたのサリナだけどね」

晴一朗はサリナが家に来るたびに、彼女に自宅に電話をさせていた。さすがに未成年を家に上げるのに親御さんに連絡なしはまずいと思っていた、いくら会社の同僚とはいえだ。本来なら晴一朗が直接電話すべきなのだろうが、晴一朗はこの島の言葉を話せないため、仕方なくサリナに電話させていた。

「げにジャパニーズは真面目だよね。うちのペアレントは別に気にしないのに」

ちなみにサリナは家に電話するふりをして実はしていないのだ。サリナは携帯電話をもっているが、サリナの親は持ってないし、家に電話もないし、必要としていなかった。

「それにしてもスイルはすごいね。今日もフォークをうまく使ってたし、チョップスティックもうまくユーズできるし」

このところスイルが何を食べるのかと、人間の生活に対する適応力を同時に夕飯時に調べていた。先日は寿司を出してみたがそれも普通に食べていた、しかもサリナはフォークで食べていたのに、スイルは晴一朗の真似をして箸を完璧に使いこなしたのだ。

「スイルはすぐに話したりも出来るようになりそうだね」

サリナはスイルの頭を撫でた。

「スイ!」

わかっているのかわかっていないのかわからないが、スイルは元気のよく返事をした。

「どうでしょうか。確かに歌ったりできますから、話せるようになってもおかしくないですが」

そんなことになったらますます植物の領域を超えるなと晴一朗は思った。

「そういえばさ、スイルって虫を招待する特徴があるの?」

「虫を招待? なんですかそれ」

「いや、だってほら」

サリナはスイルの頭上を指さした。その方向に二匹の蝶が舞っていた。

「あれ、いつの間に」

「晴一朗気が付いていないかもしれないけど、この家ちゃんと窓とかドアとかあるのにサリナの家より虫が多いよ」

確かにスイルはいい匂いがするし、体液は糖度の高い蜜だ。虫が寄ってきてもおかしい話ではなかった。

「最近、夏場だから虫が多いのかと思ってたんですが、スイルにおびき寄せられてきたんですか」


「セイ、明日はとうとうアイシャルナだね」

「そうですね、サリナ。もう明日なのに本当にお祭りのことなにも教えてくれないんですか?」

「うん、村の風習だからね。中途半端に知って神様に会ったら、畏敬の念が薄くなるからって言われているの」

晴一朗は性格柄祭りに臨む前に祭りのことをしっかり調べておきたかった。だがかたくなにサリナは教えてくれなかった。酒々井もサリナに口止めされているため、何も話してくれないのだ。

「まあ、村の神様って言っても、一年に一回だけくる迷惑なおじさんって感じなんだよ」

サリナは神様といっているが信心があるわけではなさそうだった。案外日本的な宗教スタイルなのかもしれないなと考えた。

「せめて何がいるかとか教えてくれませんか?」

「うーん、マシンガンはいると思うけど、たぶんセイの分もミスタシスイが用意してくれていると思うよ」

「マシンガン、ですか?」

「まあ、明日のお楽しみにしててよ」

サリナはいたずらっぽく笑った。


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