7-2 報告

晴一朗たちがジャングルをさまよった翌日、モンスター営業課には二人しか出社してこなかった。サリナは前日に池に落ちた関係で風邪をひいてしまい今日は休みを取ることになった。本当はサリナは(晴一朗の顔を見るために)出社したがったが、晴一朗に

「休みことも仕事だ」

と言われて諦めたのだ。

そしてもう一人いない人間は菅谷だった。


晴一朗は昨日起きたことを包み隠さずに酒々井に報告した。朝一番にきれいにレポートにまとめて提出したのだ。

菅谷がサリナを誘拐したこと

菅谷はヒューマンフラワーを栽培していて、それが業務時間内に行われていたこと

菅谷はヒューマンフラワーを販売して、多額の利益を得ていたこと。そしてそれが脱税の疑いがあること。

菅谷は自分たちに暴行を加えようとしたこと。

だがそれを返り討ちにしたこと。

ログハウスに火をつけられ脱出したが、菅谷の行方が不明なこと。

あともしかしたら過剰正当防衛で傷害罪で訴えられてしまうかもしれないことももれなく報告した。

昨日定時になって誰も帰ってこなくても何一つ心配せずに家に帰って晩酌をしていた薄情な課長は、この報告を聞いてどんどん顔が青くなっていった。

「それで課長、いかがしますか。本社と警察へ電話しますか」

「それに関してはちょっと時間が欲しい。自分の頭も整理し切れていないんだ」

「しかし、先輩の安否にかかわりますが」

「それに関してはおそらく大丈夫だよ。今の君の話を聞いて合点がいったけど、私と彼のコテージは近くてね。昨日の夜、外で涼みながらビールを飲んでいたんだけど菅谷君が車に乗ってどこかに行くのを見たんだ。時間帯的に深夜の1時とかだったから、彼の生存は間違いないと思う。今頃どこかの船の上かもしれないね」

「逃亡したのですか?」

「まあ、そういうことだろうね」

それを聞いた晴一朗の表情は少し険しくなった。

「生きているにしても、このまま先輩がサリナへの謝罪もないとなれば、未成年拉致監禁罪にあたります」

「あー、そうだよね、そうだよねえ。それに関してサリナ君はなんていっているの?」

「何も言っていません。ただ彼女が何も言わなくても、僕が警察に届けをだします」

その言葉を聞いて、酒々井は意外に思った。

「晴一朗君なら会社のために穏便に済ませようとするのかもと思ったが、そんなことはないんだね」

「サリナにちゃんと謝罪ができて、会社のために尽力する気があるなら、まだ話は違いますが、逃亡したなら話は別です。ここで逃がしてしまうのは道理に適っていません。さらにいえば、このまま野放しにして法的処置をしなければ、なにかの拍子で発覚した時に会社へ大打撃を与えると推察されます。それは合理的ではありません」

合理的か、この男はいつも合理ばっかりだ。

「晴一朗君、上司からの命令だ。このことはひとまず私預かりにして余計なことをしないようにして欲しい。大丈夫だ、適切に処置するから」

「わかりました。ではよろしくお願いします」

酒々井は晴一朗が食い下がると思っていた。だがこの部下は一礼だけして自席に戻りいつも通りに仕事を始めた。晴一朗からすれば、上司の下した判断であるならそれに従うのが良いと考えたのだ。例の始末書のように合理性が伴わないと考えられるものであれば、真っ向からぶつかるが、酒々井は適切に処置するといった。だったらこれ以上の議論は無駄だというものだ。

懸命に仕事をする晴一朗は眺めながら、酒々井は晴一朗が提出してきた紙を静かたたみ、机の下にあるごみ箱に捨てた。」

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