1-7 1日目の終わり
帰り道、晴一朗は地図を頼りに自分のコテージを目指していた。地図によるとガラニア諸島支部から歩いて5分程度の場所らしい。地図を読みながらゆっくりと歩く晴一朗の後ろをサリナがついてきている。晴一朗は偶然帰り道が同じなのかと考えていたが、サリナの家は逆方向であった。
「サリナは家に帰って食事の支度をするんですね」
晴一朗はサリナの家庭事情に興味があるわけではないが、これから一緒に行動することも多くなるから最低限のコミュニケーションはとっておいたほうがいいと判断したのだ。
「うん、小さい妹がいるからね。昔は兄も存在したんだけどね」
「なるほど。妹さんはいくつなんですか?」
晴一朗は人に興味がない、だが会話を続ける術は理解しているつもりだった。相手が話したがりそうなことをずっと質問し続ける、すると相手が勝手に話してくれる。こうすることで興味がない話題でも形だけはずっと続いているように見えるのだ。
「まだ7つだよ」
だがこの日はすこし様子が違った。晴一朗はサリナが話しやすそうな妹の話題を選んだが彼女が黙ってしまったのだ。どうやら選択を間違えたようだ、そう晴一朗は思い別の話題を振ろうと考えた。無難に今日見たパチガンか大玉トウガラシの話でいいだろう。どちらの話をするか逡巡している間にサリナのほうから声が出た。
「セイ、今日はありがとう」
「はあ、なにがでしょうか?」
「今日、あのミスタスガヤにいじめられたときに擁護してくれて」
「ああ、あれですか」
サリナはいじめといっているが、晴一朗は別に食べ物への見解の違い程度にしか考えてなかった。
「助けたつもりはないですよ。菅谷さんの価値観と僕の価値観が違うだけです」
「セイってなんかストレンジマンだね」
「変人といいたいんですか?」
「うん、それそれ。このアイランドでは男の子たちは女の子たちのまえで格好つけたいから、ちょっとでも恩を着せようとするよ。でもセイはナチュラルというか悠然というか、ジャパンでは仙人みたいっていうんだっけ?」
「別に普通ですよ。ジャパンのスタンダードです」
「そうかな、うふふ」
サリナは初めて晴一朗の前で自然に笑った。だが晴一朗がそんなこと気が付けるはずもなかった。
「お、あれがセイのコテージかな」
話しているうちにだいぶ歩いているようで彼の新居が見えてきた。晴一朗が考えていたよりだいぶ大きなコテージだった。造りも新しいようでまるでバカンスに来たような錯覚を覚えた。しかし晴一朗は感動するよりも先に掃除が大変そうだなと考えていた。
「じゃあ、サリナも帰路につくね。明日から頑張ろうね、セイ」
「はい、お疲れさまでした」
サリナは今来た道を戻っていく。晴一朗はなぜ今来た道を帰っていくんだと思ったが口にしなかった。それよりも今からコテージを最低限掃除し、今日やる筋トレのメニューを考えていた。女性の感謝を気づけず、海外に来た初日でさえ筋トレを重視する、晴一朗はつまりそういう男なのだ。
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