1-5 ガラニア諸島支部2

ガラニア諸島支部の一階は広すぎる部屋に数台の机が並べられているだけの空間だ。本来人員数が多くなる予定だったため、空間は確保されているが、今日人数が倍になったとはいえそれでも4人しか職員がいない

「じゃあ、それでは簡単に自己紹介しておこうか。サリナ君にはまえ少ししたけど改めてね。私はこのモンスター営業課の課長の酒々井だ。前は技術開発部にいたけど三年前にこの課が発足した時につれてこられた。よろしく頼むよ」

酒々井はあえて連れてこられたという発言をした。

「じゃあ、次菅谷君」

そういわれて晴一朗の目の前にいる小太りな男が立ち上がった。

「ブフ、自己紹介といっても得意言うことなんてないけどね。菅谷です、よろしく。趣味はラーメン巡りだったけどこの島にラーメン屋ないから、島に来て十キロやせました。あんまりおいしいものない島だからね。晴一朗くんだっけ、君も覚悟しておいたほうがいいよ」

菅谷は妙に鼻息が荒い。そしてこの場にサリナもいるというのにデリカシーの欠けた発言をする。

「このアイランドにだって美味なものくらいありますよ!」

サリナはすぐに反論した。

「どうだが、東京にはおいしいものがあふれてるからねえ、晴一朗くん」

「セイもそんなことないっていってやってよ」

始まって早々険悪なムードになってしまい、酒々井はため息を漏らしそうになった。どうやら菅谷とサリナの相性は良くなさそうだ。そして二人に挟まれている晴一朗は黙っている。

「まあまあ、お互いに好みがあるとおもうしな。晴一朗君もそう思うんだろ?」

晴一朗は酒々井の顔をまっすぐと見た。

「課長、発言させていただいてよろしいですか」

「え、いや、どうぞ?」

「サリナ、あいにく僕はまだこの島のものを口にしたことがないです。だけどあいにく食には無頓着なもので栄養さえあれば僕はかまいません。そういう意味で言えば島のもののほうが無添加でしょうし健康にいいのではないかと思います」

ここは普通、お互いをなだめるようなことを言うべきだろうに、晴一朗は自分勝手なことを言い始めたので酒々井はぎょっとした。

「へー、言うじゃないか。まあすぐに後悔すると思うよ」

菅谷はにたにたと笑っている。この場にいる常識人は自分だけだと酒々井は理解した。

「ほら、仲いいのはいいがまだ自己紹介の続きだ。じゃあ、次は一週間だけ先輩のサリナ君」

「サリナ・サーマゴールです。16歳です。この職場でしっかり働いて賃金をゲットしたいです。よろしくお願いいたします」

「はー、16歳! 16歳の子になにができるんしょうねえ。ねえ課長!」

菅谷はすぐに茶々を入れる。

「ミスタスガヤ。ガラニアでは16歳は立派なアダルトです。あまり莫迦にしないでください」

「なるほど、島全体が低学歴ってわけか」

「菅谷君、その辺にしておきなさい。新人いじめをする必要もないだろう。ほらサリナ君、もっと話したいことはあるかい」

「存在しません。ナッシングです」

サリナはすっかりへそを曲げてしまった

「じゃあ、次、晴一朗くん」

指名され晴一朗はゆっくりと立ち上がった。

「佐藤晴一朗です。よろしくお願いします」

そういうと晴一朗は黙り座ってしまった。あまりに短い自己紹介に菅谷も驚いたようでなにも言わなかった、いや言えなかった。

「あれ、晴一朗君、なにか一言アピールとかないかな。なんだったら趣味でもいいんだけど」

「なるほど。では一言申し上げさせていただきます」

晴一朗は再び立ち上がった。

「社会通念、労働基準法、その他関連法案、合理性、会社の利益、道理、これらを最大限重視して、仕事を頑張りたいと思います。逆に言えばこれらを伴わない仕事をするつもりはありません。よろしくお願いします」

酒々井は正しく理解した。この場には自分以外の常識人どころか変人しかいないという事実を。



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