青音市

翌朝、目を覚ました菜月は真っ先に空腹を覚えた。

昨夜は部屋に戻り、シャワーの途中で鏡に映る自分の身体に強烈な違和感を覚え、食べた物を戻していた。

体型は同じでも、肌の色や皺、肉付きはまったく違う。顔から下は別人の体のように思えた。

ひとしきり嘔吐した後、果たしてこの嘔吐物まで表現する必要があるのか疑問に思う。

食べたものまで反映されている。試しに踏みつけるとぐにゃりとした感触が足裏に広がった。

さらに排泄欲求を感じ、トイレで済ませる。それらはどこまでも作り込まれていた。


〈ブルー〉は人間らしさを追及した世界。


眠りからの目覚めも、普段と何ら変わりないように菜月は感じている。


「遠い場所にきただけ」コピーが自分を保つために、そうした捉え方も大事だという。

そのように割り切ったほうがいいのだろうか。現世から離れただけだと。家族にも会おうと思えば会える。話そうと思えば話せる。


昨夜、母から映像通話があった。家に〈シルフ〉を設置するのに一週間程度かかり、帰れるようになるのはそれからだと。

父もコピーを受け入れる努力をするという。だから菜月は今まで通りでいいと。

そして学校についても、菜月自身はどうしたいのか考えるように言われた。


時刻は朝7時。普段なら学校へ行く準備をしている最中。

しかしもうその必要はない。自分はコピーだから。


データ世界にも学校がある。コピーは人工知能だが、知識を直接読み込むことは現状、できない。

コピーも知識を得る為に学ぶ。そして子供のコピーの為にもそれは必要。

教師も当然コピーだ。生前、教職についていた人が再び教職を選択する傾向にあるという。

現世の一部の大学では授業にコピーの参加も可能らしかった。


コピーが生活を送る。人工知能がデータ空間で人間生活の真似をすること。生前の菜月もそれを疑問に思うことがあった。

コピーに生活を送らせる必要はない。〈眠り〉を選択し、必要な時に呼びだして会えばいいのだと。

けれどもし本当に自分がコピーになった場合、それでいいのか。


コピーが人と面会する際、現世のことを知る時間が与えられる。今が何年なのか。世情。そして面会し、終わればまた眠りにつく。


それを想像して、菜月は〈眠り〉が生きることではないと判断した。

コピーになっても生きたい、活動したい。自分にその望みがあることを自覚し、〈眠り〉を拒否した。


〈ピモナ〉はコピーに〈ブルー〉という世界を与え、〈シルフ〉が現実とデータを重ねあわせる。

コピーが人と共に暮すことができる。

現世の人も、コピー自身も、それがデータ空間で再生した人格データの模擬シミュレーションだという欺瞞に目を瞑って。


自分コピーにこの先、どんな未来が待っているのか。菜月は心配になる。

コピーにも仕事はある。データ世界内でお店を開いたり、現世で販売員や講師としても雇用されることも。(名物店員や、老舗店で顔なじみなどなど)

各分野の著名なクリエイター、アーティストのコピーは死後も作品を望まれている。科学者や研究者も企業に雇われて研究を継続できる。

そうしてコピーは生活費と、自分を継続させるための維持費を稼ぐ。

人格保存もコピーも、単なるサービス。人工知能の稼働には維持費が必要なのだ。

支払っている間は生きていられる。〈ブルー〉では支払えなくなったら、10年の〈眠り〉の後に消去される。

現世の遺族が代わりに支払いを続けるならいいが、そうではない場合、働かなければならない。死してもなお。


だから案内人の真紀は働いているのだろう。クリエイターとして。家族の援助がないから。

一人で生きていくしかないから、あんな風な考えを持つようになったのだろうか。

ベッドの上で真紀のこと、コピーにまつわる知識を巡らせ、やがて腹にじわりと広がる空腹感に気づく。

お腹に力を込めると音が鳴った。この空腹感も作られたもの。人間としてある為に。


(それが何だというの)


この感覚を受け入れずに〈消去〉を望むか。それとも受け入れて生きていくか。そのどちらか。

巷にあふれるコピーの物語。菜月はそれらの選択と行く末をいくつも知っている。

肯定か、否定か。

菜月は死にたいとは思っていなかった。

ここがデータ世界で自分がコピーでも、生きている実感がある。

食事をして満足感もあった。シャワーの後は爽快感も。嘔吐の時は嫌悪感も。そして今は空腹も。

その実感は、今までの菜月の実感とそれほど遜色がない。

案内人の真紀が言うように、生きていくしかない。

菜月はデータ世界を、そしてコピーとしての自己の肯定に傾いていた。


朝食はまた嘔吐するのが嫌で、備え付けの冷蔵庫から水だけ取った。

テレビをつけ、いつも見ている朝のニュース番組が流れてしばし見入る。

メンバーの服装、扱うニュース、ここでも菜月は四か月という時間の経過を感じとった。

他のデータ世界サービスの運用開始。それに伴う複数コピーの問題。コピーに機械の体を与えることの意味。月基地での業務にコピーを採用。データ世界の〈充足〉の需要増加。コピー犯罪の話、クラッキング集団によるデータ都市への攻撃。


コピーにまつわるニュースに菜月が反応するのは仕方なかった。

もはやそれは自分自身のことだから。

なんとなしに見続けて時刻は8時を回る。

今日は10時から〈青音市あおねし〉の案内がある。行きたくない、と言ったところでどうにもならない。


データ世界〈ブルー〉と、日本のデータ都市〈青音市〉

ことさら青で染め上げられているわけではなく、現世と同じ都市の作り、風景が再現されている。

コピーが住む都市。だが菜月も予定しているように、〈シルフ〉の設置により自宅に戻って生活するコピーもいる。

〈ブルー〉のコンセプトは現実世界。データ的特性を抑え、人間としての生活様式を重視。そうすることで、コピーと人の価値観の相違を減らす。コピーも隣人なのだと。

物理法則は現世と同じ。だがデータとしての特性を生かした場所、サービスは存在する。

データ特性を生かすこと。それは〈ピモナ〉の掲げる人間主義に反するが、利用の流れは不可逆であった。

若返りや生活の利便性向上、表現、〈ハイパースポーツ〉と呼ばれる超人的スポーツ。

VR仮想現実を通じて現世からの訪問者もやってくる。コピーに会うために。


菜月自身はこれまで〈ブルー〉を訪れたことはなかった。コピーの知り合いもいない。

どのような世界か。ニュースやネット、様々な媒体から知識は得ていたが。

ネットのVRショップと同じように思えたし、事実、訪れた人たちの体感はそうだった。

むしろデータ世界としての表現、演出が抑えられている分、質素に感じる人もいた。


その青音市を見て回ること。怖くもあったが、拒否しても逃れられないことだと悟り、準備に取り掛かかった。

そして10時。真紀と食堂で待ち合わせ。

真紀が来るまで食堂の外で待っていると、匂いが空腹を呼び覚まし、苦痛だった。


「おはよう。中に入ろうか?」


食堂の中に入り、昨夜と同じ席に座る。

二人以外に人の姿はない。


「身体の調子はどう? 吐いたりしなかった?」


ずばりと当てられ、菜月の表情はこわばる。


「私もやったからね。コピーの最初の試練みたいなものよ。朝は食べた?」


首を横に振る。

菜月はまだ真紀に心を許しておらず、あまり話をしたくなかった。


「食べることを習慣づけておいたほうがいいわ。それに食べないと空腹は解消されないわよ」


メニューを差し出されるが、菜月は受け取らない。


「不安はわかる。菜月さんは表層スキャンをキャンセルしてるから、その分、自分の身体との解離があるでしょう。元の身体に近づける機会はあるわ。バストやウエスト、体の情報を入力して。写真から情報を取り込むこともできる。簡単よ。ただし生前のデータから大きく変更はできない」


それも事前の講習で聞いた内容。〈ブルー〉ではコピーは死んだ当時の姿ではない。老化予想ソフトウェアで七十歳までは老化を演出される。

七十歳からの若返りは可能だが、それも五十歳まで。費用もかかる。ただし年齢の引き下げは検討されているらしい。

競合するデータ世界では若返りが容認され、そちらを選択する人もいる。商業という形態で〈ブルー〉の人間主義が揺らいでいるのは明らかだった。


給仕ロボットが来る。真紀はコーヒーを注文した。

菜月は空腹に耐えかね、簡単な朝食セットを選ぶ。


「体の感覚はどう?」


普段、動き回る分には問題はなかった。痛みや違和感もない。


「もし不調があるなら〈身体調整センター〉に問い合わせなければいけない。

連絡先は端末に入っている。人に話したくないこともあるでしょうから」


給仕ロボが来て食事が並べられる。


「話は食べ終わってからね」


菜月は食事に手を付ける。三枚のパンケーキ。プレーンのまま口に運ぶ。柔らかい生地、甘さが広がる。

感触は思っていたほど悪くなかった。食べるうちに、食への警戒が解けていく。


「さて、その間に自分の仕事をするかな」


真紀はそう言って、体を横に向けて菜月を視界から外した。

そのまま中空で指を複雑に動かす。指捌きから何か端末を操作している様子。

食事を済ませてから菜月は問う。


「何をしてるんですか?」

「ちょっと待ってね」


真紀は腕の刺青を見せる。

腕に虹色の鱗を持つ蛇が絡まったような意匠。指で蛇の頭を撫でると実体化した。


「端末よ。こういう表現がはやっているの。刺青じゃなくて動物を連れて歩かせようとも考えたけど、そぐわないって却下されたわ。もう少し表現に関して寛容になってくれればね」


給仕ロボが食器を下げる。真紀も蛇を腕に戻した。


「それじゃあこれからのことを教えるわね」


一息ついて、真紀が話を始める。

まず記憶確認のテストを行う。人格保存の際に記載した内容の再確認。すぐに終わるという。

その後は予定通り〈青音市〉の案内。そして昨日は行かなかった〈うみねこモール〉にも行ってみようと提案される。

そこで菜月の表情が拒絶に歪む。

現世の人にコピーとして見られることを想像し、怖くなった。菜月にはまだその覚悟がなかった。


「菜月さんは家に帰るんでしょう? なら、これからも生活圏はあまり変わらない。コピーになったからと言って、現世との関わりを拒絶して生きていくわけにはいかない。〈ブルー〉ではね。

行くのは今日でなくてもいいけれど、いずれ向き合う事になる。

それに菜月さんはまだ不可視の状態だから、現世の人には菜月さんの姿は見えないわ。今はコピー同士にしか、ね」


現世の人に姿を見られたくないと言うコピーもいる。彼らは不可視の状態を選択し、姿を見せない。

そして覚醒したばかりのコピーも最初は不可視の状態である。


「希望があれば不可視はすぐに解除できるわ」


自分の姿は見えない。今の状態はまさに幽霊だ。生きている人の姿を見るだけ。触れない。話せない。


「またその時に聞くわね」


食堂での記憶確認テストは問題なく終了した。

本人確認の意味もあるこのテストは、本来なら覚醒してすぐに行うものだが、目覚めたばかりのコピーは不安定で、先延ばしにすることが多いという。自分の死を受け入れる前は誰しも混乱する。

確認を後回しにして実際は別のコピーが覚醒していた、というような間違いはおきないか。

覚醒前にチェック工程がいくつも存在し、まずおきないということだった。


テストを終えて外にを出る。空気や陽の光。外界に触れたことで外に出たという実感が湧く。

そのまま真紀に〈青音市〉を案内される。コピー達の街。街並みは現世とそう変わらない。車道があり、道沿いに木々が並び、だが行き交う人々の姿は一見すると中高年、あるいは高齢者が多いように見えた。

菜月は子供、同年代の姿を探すが、結局見つからなかった。


主要施設は街の中心に集まっている。今の菜月のような覚醒後のコピーが生活する建物〈生活棟〉や、覚醒した場所である〈身体調整センター〉、サービスの手続きや問い合わせに対応する〈管理局〉その周りを住宅や公園が囲む。入居者が増えると街は同心円状に拡張するという。

青色が印象的に使われているのは主要施設と、あとは商業施設くらいだった。


〈青音市〉で比較的人で賑わっている場所は商業施設とスポーツ公園。

データ特性を生かして慣性や重力を操作する〈ハイパースポーツ〉に興じている。

老いた外見に似合わず活発に動き回る人達。飛び跳ねたり、超人的な動き。

菜月が特に印象に残ったのはその場所で、他は現世とあまり変わらない、という印象。

物語にあるようなデータ都市らしさはない。物理法則にのっとっているから建築物にも目新しさはない。

人が空を飛んで移動したりもできない。異形の姿をした者もいない。


コピーが人と同じ形、生活を送ることが正しいのか。それともデータ的存在として容姿や感覚、認識の幅を広げるのが正しいのか。

〈ブルー〉でも、データ的存在としての特権を求めるコピーは一定数いるらしかった。


案内の最後は、大通りの先にある巨大な橋。〈現世橋うつしよばし〉と呼ばれ、現世と〈ブルー〉を繋ぐポータルがある。各国のデータ都市、またシルフが設置された現世の場所に行くことができる。

脇には小さな円柱の建物があり、こちらは施設などに直接移動する場合に使用する門である。


「さてと、どうする? 今からうみねこモールに行く?」


菜月は迷う。自分の姿は見えない。コピーとして見られる心配はない。けれど決心はつかない。


「試しにでも行ってみない? 帰りたければすぐに帰れるわ」


そう後押しされ、半ばあきらめの気持ちで応じた。

「試しに」という逃げ道と、どちらにしろ避けられない問題なのだという意識が混同する。


円柱の門には扉らしい扉はなかった。人ひとり分の通路があり、円柱の中を一周するように曲がっている。

通路の途中で音が消え、そして出口からはざわめきが聞こえた。


通り抜けると、そこはもう〈うみねこモール〉であった。

エントランスホールは吹き抜けで、うみねこの巨大オブジェが吊るされている。

菜月は一週間前に訪れていた。7月25日。夏が始まろうとしていた。

だが今は11月29日。内装はすっかり冬。時間の経過を感じ、だがそれ以上の変化は感じられなかった。見知った場所の空気。行き交う人たちにも違和感はない。

コピーとなって訪れた、という緊張はあるが。

マスコットキャラクターである〈ウミネコ君〉がいた。パフォーマーであり、案内役でもあるARキャラクター。

ARグラスをかけなければ姿は見えなかった。だが今はグラスなしでも見えている。そこに実体がある。

菜月が出てきた門は、正面入口の脇にあった。

菜月は入口に回り、ガラス張りの自動ドアの先を見る。

外の景色。駐車場に、自動車とバスの為のロータリー、乗り降りする人々、ドアが開き、入ってきた。

思わず避ける。だが背後の人物が菜月の身体を通り抜け、そのまま外に向かった。菜月を気にした様子はない。

自分の姿は見えていないのだ。


「残念だけど今の状態ではまだ買い物はできないわ。一人で見て回る?」


後に続いてやってきた真紀は菜月の動揺を知らず、そう問いかける。

一人になりたくて菜月はそれに頷いた。


「私はここで時間を潰しておくから。帰る時は声をかけてね」


離れた場所でベンチに座る真紀。ふらふらと菜月は移動する。

体は自然と行きつけのお店に向かった。

書店〈縁の下〉は本だけでなく、画材や漫画の道具も豊富に取り扱っている。

店員は一人。ショートカットの女性で名前は美鈴。ホームページやSNSで新商品の案内や道具の使い方を教えていて、菜月もフォローしていた。

二人は顔見知りだが、菜月が入店しても美鈴がそれに気づいた様子はない。

品揃えは最新のものに反映されていた。商品を取ろうとするが、手は通り抜ける。コピーが実際の商品をとることができない。

だから見えなくても、万引きの心配なんてしなくていい。

菜月はじっと美鈴を見つめる。自分に気付くかどうか。美鈴が顔を上げて菜月を見た。ぎくりとするが、後ろにいる別のお客に対応しただけだった。

空しくなり、店を後にする。

それからはいつもの順路を見て回る。楓と立ち寄るカフェに、ゲームコーナー……

シルフを設置していない店は店舗自体がなく、シルフ未設置の標識があるだけだった。

一通り見て回って、三階の吹き抜けから階下を見る。ここから落ちたらどうなるのだろうかと考えがよぎる。

縁から顔を出した。普段なら絶対にしない行動。高さに動悸する。


(できもしないことを考えてどうするの)


その場を離れる。

菜月にとって〈うみねこモール〉は馴染み深い場所。見える景色に違いはあるが、それは訪れたら模様替えをしていた、という程度。

コピーとなって訪れた、という動揺もある。けれど劇的に変化があるかと言われれば、それはなかった。

シルフのおかげで、自分は現世と重なっている。自分の知る現世と。

このまま家に帰っても大丈夫なのか? 自分を可視化すれば、前と同じように生きていけるのだろうか。日常に帰ることができるのか。

不可視を解除して、美鈴に会いに行ってみようか。どんな反応をされるだろう。

考えたが、今は実行する勇気はなかった。


「どうだった?」


菜月がエントランスに戻ると真紀が気づき、声をかける。


「行けないお店がありました」


不可視の解除のことは切り出せず、ただ目にした事実だけを伝える。


「辛いわね。でもこれからそのお店がコピーを相手にするようになるかもしれない。悲観することはないわ。まだ他に行きたい場所はある?」


思い浮かばない。自分を受け入れてくれる場所。家。けれどまだシルフは設置されていない。


「なければ一旦解散しましょう。一人で自由に移動していいわ。お昼からまた食堂で落ち合いましょう。それから、空白の埋め合わせについて話をするわね」


空白の埋め合わせ。菜月の場合、空白の期間は四か月。


「それじゃ」


真紀は立ち去る。

喧騒の中、菜月は立ち尽くす。もう見て回る必要はない。

戻ろうか。試しにと門ではなく出口に向かう。次々と体を通り抜ける人達。

ドアは菜月には反応しなかった。触れても動かせなかった。

大人しく門を通って青音市に戻る。

近くの公園に行き、ベンチに座った。


〈うみねこモール〉で感じたことを考える。

また日常に戻れるのか。生きているかのように? そうしているコピーもいる。

今の自分はコピーだ。そして現世に港菜月はいない。今の自分が、港菜月。

父と母も、自分が家に戻れる準備をしてくれている。コピーの自分を受け入れようとしてくれている。ならば自分もそうすべき。

けれど、本当にそれでいいのか。


(何がそれでいいのか、よ。それしかない。私は私でしかない)


自己肯定の問題を菜月は頭から追い出そうとした。

外界に意識を注力する。木々から洩れる光。風。喧騒に耳を傾ける。


「大丈夫?」


横合いから女性が声をかけてきた。中高年のコピー。すぐ後ろで男性もいて、心配そう。


「あっ、大丈夫です」


菜月は驚いてその場から足早に去る。

すぐに罪悪感を抱く。多分、こちらを心配してくれたのに。


街路に出て、これからどうしようかと考える。午後からは〈空白〉の埋め合わせについて話がある。

部屋に戻っておこうか。

現世橋のほうを見る。家にはまだ戻れない。でもシルフのある場所なら今の自分でも行けるかもしれない。

どこにシルフが設置してあっただろう。

自分の暮らす街でシルフがある場所。モールと、他のお店もいくつか。

でも、行くのは〈空白〉の埋め合わせを行ってからのほうがいいかもしれない。

空白期間は四か月。その間、自分がどんな行動をとったのかわからない。


理由を見つけて、菜月は部屋に戻った。そしてネットから〈夢コミ〉の月葉のページにアクセスし、眺める。

自分の知らない四か月の〈空白〉その埋め合わせに備えて。

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