第3話

珍妙なものである。

みな私を見るとまるで魔法にかかったかのように回れ右をし、逃げてゆくのだ。

...そう、先ほども年若い女性が逃げていってしまった。

何があったのか。私は何もしていないのに...

まったく、珍妙なものである。

私の草履が左右交互に前方に向かい、右手は家の戸を引いた。

風鈴が『おかえりなさい』とささやいた。


――――――――――――


ガラガラと引き戸が開く音がして、着物の男が吸い込まれた。

何を隠すことがあろうか。私の家の向かいは速水先生の家なのだ。

私の記憶が正しければ、あの家は老夫婦が暮らしていたはずだ。

だというのに、だ。

なぜあの男が...っ。

まさか遺産目当ての殺人を...

という根拠のない考えに至り、カーテンを勢いよく閉めた。

―――カーテンが外れた。


――――――――――――


先生の家の前で待っているとき、ふとおもった。

(先生は一人暮らしなのにこんな立派な一軒家に住んでいるのか...)

インターフォンを押して早20分。鳴らしてからこちらに来るまでが長い。

どれだけ広い家なのだろうか。

歴史を感じさせる瓦、縁側。それから、庭師を入れているのだろうか。妙にきれいな庭もある。

何者なんだ、一体...

と、引き戸が開き、ぼさぼさ頭に作務衣の男が眠そうに出てきた。

11時26分。

10時に約束を取り付けたのは先生である。




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