第4話

泥人形ゴーレム

 ベブライ語で胎児の意味。有名な話では、旧約聖書に登場するアダムも、土から作られた泥人形ゴーレムだったのではなかったかと言われているそうで、土御門さんが帰った後、カップを片付けている私に、迷斎さんが話してくれました。


 「でも、土御門さんは人形と言っていましたよね?泥人形ゴーレムって確か泥とか土とかから作った人形を言うのではないでしょうか?」


 私は、素朴な疑問を迷斎さんに投げ掛けました。


 「はぁ。弁天堂、無知とは恐ろしいものだな」

 「……!?」


 人を小馬鹿にしたような憎たらしい顔で、大袈裟なため息を迷斎さんは吐き出しました。


 「一般的には、泥人形ゴーレムは土で作られていると思われているが、ギリシャ神話には青銅で出来た巨人の泥人形ゴーレムも登場している。だから、土以外の布とかセルロイドでも、泥人形ゴーレムは作れるのだよ。知らないのか?これだから、弁天堂は無知だと言うのだよ」


 普通の女子高生が、ギリシャ神話だの旧約聖書だのに知識が明るいはずがなく、そんな反論をしたところで、迷斎さんが納得するわけがないので、私はただ黙っていることしか出来ませんでした。


 「まあ、今回のようなケースは稀有なことであって、本来は泥人形ゴーレムだと気づく者も少ないだろうからな」

 「どういうことでしょうか?」


 迷斎さんは、待ってましたと言わんばかりに、水を得た魚のように、私に説明してくれました。

それにしてもこの人は……。こんな時と、私を罵る時だけ嬉しそうで――嫌いです。


 迷斎さんが言うには、人形などに魂や霊が宿ることがあるそうで、所謂、付喪神と呼ばれる現象です。しかし、物に魂が宿るには長い年月が必要で、九十九神とも書くように百年は経たないといけないそうで、今回の件の場合は当てはまらないそうです。


 それに――。


「それに、土御門の話を覚えているか?」

「ええ……」


 土御門さんの母親は、ヨーロッパの生まれだそうで、その家系は魔女の家系。実際に魔女狩りを逃げ延びたそうで、土御門さんにもその魔女の血が流れているそうです。


 娘を思い、作った人形に自然と術がかかってしまったのではないか?と、迷斎さんと土御門さんは同じ見解だったようです。


 「でも迷斎さん。仮に泥人形ゴーレムだったとして、なぜ今夜の内に解決しなければならないのですか?それは、早いにこしたことはないけれど、あまりにも急というか……」


 土御門さんからすべての話を聞き終えた後、迷斎さんは今夜、土御門さんの家で落ち合う約束をしていました。問題を早期に解決することは良いことなのでしょうが、土御門さんも大きな被害を受けている様子ではなかったし、あまりにも急な気が私はしていました。


 それに、泥人形ゴーレムとわかっている割には、迷斎さんがこの件に絡もうとしていること、稀有なケースと言っていることにも、違和感を感じていました。


 決して、他人のためには動かず、自分のためだけにしか行動しない迷斎さんがなぜ?


 迷斎さんは、一言私に言いました。


 「どちらにせよ、時間がないのだよ」


 この時の私は、この話がこんな結末を迎えるとは、思ってもいませんでした。

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