種 ~冬海 2~

 おれは春花と一緒にスーパーに寄ったあと帰宅したが、辺りはもう真っ暗だった。


「秋乃先輩と冬海、大丈夫かな?」


 エントランスホールでエレベーターを待っていた時に、思わずこぼれた言葉に春花も頷いた。


「晩御飯の仕度なら私がしてるから、二人を迎えに行ってきてくれる? やっぱり男の子も一緒にいたほうが安心だと思うし」


「ごめん、任せた。荷物置いたら、行ってくる」


 管理人室に荷物を置き、春花に後を任せると、おれは学校に向かった。



✽ 

 連絡を取ると、秋乃先輩の部活はまだ終わってないらしく、冬海もまだ図書室にいた。


「ありがとうね、一くん。きてくれて、本当に嬉しい」


 冬海は頬を赤らめながら礼を言う。


「気にすんなよ、おれも春花も二人のことが心配だったから来ただけだし」


「それでも嬉しいものは嬉しいんだよ」


 至近距離での冬海の笑顔に、なんだか恥ずかしくなったおれは話題を変えることにした。


「そういえばなんで冬海は四ツ葉荘から通ってるんだ? 別に実家は学校から遠くないだろ?」


 冬海の顔が一気に赤くなる。なんだか聞いてはいけないことだったのだろうか。


「そ、それは、ほら……将を射んとすれば馬から、とかなんとか……」


 ん? 全然わからない。


「この場合、緑さんは馬で……って、なに言ってるんだろ……とにかく、緑さんと仲良くなりたかったから……かな?」


「よくわからないけど、そんなに姉ちゃんと仲良くなりたかったんだな」


「うん……まぁ、そんな感じです……」


 なんだか意気消沈している冬海とおれの間に、きまずい空気が流れる。そんな空気を壊してくれたのは、扉の開く音だった。


「おまたせ、冬海ちゃん、四ツ葉くん。遅くなっちゃってごめんね」


「そろそろ図書室も締めるから、気をつけて帰ろよ」


 そこには小さな身長に見合わないギターを背負った竜胆先輩と鍵を持つ立葵先生がいた。


「はい、わかりました。冬海、荷物とか大丈夫か?」


 冬海を見ると、なんだかさっきまでの距離より離れて立っていた。


「大丈夫、うん、みんなで帰ろっか! うん!」


 なんだかやけくそな冬海に、みんなびっくりしたが、誰も冬海に聞くことはなかった。いや、聞けなかった。


「あー、一、今日の晩御飯はなんだ? それを楽しみにして、もうちょっと仕事を頑張るかな」


「うん、秋乃も楽しみ! 春花ちゃんがやってくれてるんだよね、あとでお礼を言わなきゃ!」


 立葵先生の話題転換のパスは秀逸だった。竜胆先輩もそれに乗っかると、あとはおれがゴールを決める

だけだ。


「今日は、生姜焼きと味噌汁、あとサラダです。ふりかけと漬物とか買ったので、御飯も進みますよ」


 二人は盛り上げるように、楽しみや美味しそうと言ってくれる。段々、冬海も冷静に戻ったようで、会話に笑顔を浮かべて相槌を打つ。


 冬海の変な雰囲気がなくなったのを感じ、立葵先生がドアを開けた。


「ほら、もう帰る時間だぞ。おいしいご飯と春花のためにさっさと帰れ」


 立葵先生の言葉に、各々返事をし、三人で四つ葉荘への帰路に着いた。



「おかえりなさい! 晩御飯できてるから、夏樹先生が帰ってくる前にお風呂どーぞ」


 春花は管理人室で待っていてくれていた。しかもお風呂も準備してくれているなんてありがたい。


「色々任せてごめんな、あと、ありがとう」


「ううん、気にしないで。ほら、私もちょっと部屋に帰ってくるからお風呂入って、癒されてきて」


 春花はそう言って部屋を出ていった。やっぱり、今の生活は幸せだと実感する。


 今度は冬海の気持ちをもっとわかりたいな、と思いながら風呂に向かった。


 こんな風におれたちは日常を重ね、みんなと少しずつ仲良くなって行った。

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