種 ~冬海 1~
新学期が始まった。おれ、春花、冬海の三人は二年B組に集まることとなった。学校でも家でも一緒の生活が始まったことで、おれの心臓はいつもドキドキしており寿命の縮まりを感じている。
「一くん、さっきの授業わかりにくそうな顔してたけど、大丈夫?」
ノートとにらんで、さっきの授業のわかりにくかったところを復習しようとしていると、冬海が側にきてくれた。
「実はさっきの先生の話、全然わかんなくてどうしよかと思ってて……教えてくれるか?」
冬海も春花と同じ頭が良く、学年の順位では二人共、一桁代をキープしている。そんなところも憧れの元なのだ。
ノートを指差すと、冬海が顔周りの横髪を抑えながらのぞき込む。髪からほのかに花の香りがする。
「ああ、ここは確かにわかりにくいよね。ここはね……」
それはとても丁寧な解説だった。おれのノートに書き込む綺麗な字と図は、簡潔で見やすい。
「ありがとう、冬海。すごいわかりやすくて、なんだかわかった気分になれてる」
冬海の雰囲気が柔らかくなり、ふわりと笑う。おれもつられて笑ってしまう。
「わかった気分も大事だよ。一くんの役に立ててよかった。今度一緒に勉強しよう? わからないところがあったら教えるし、一くんが得意な国語は教えてほしいな」
「ちょっと二人共、その勉強会に私も混ぜてね。はい、どーぞ、差し入れだよ」
春花が二人分のジュースパックを持って、側にきた。ジュースをありがたく受け取ると、春花はポケットからグミを取り出し、おれと冬海にくれた。グミはブドウ味だった。
「疲れた時には甘いものだよね。ジュースは夏樹先生からだよ。通りがかったら二人が頑張ってたのを見たんだって。ご褒美だーって、夏樹先生と一緒に買ってきたんだ」
後半の言葉は耳の近くで、声を潜めてだった。それがくすぐったくて思わず笑いが漏れそうになるのを、春花や冬海に知られるのが恥ずかしくてこらえるしかなかった。
そんなおれを救ったのは、次の授業のチャイムだった。二人はおれに挨拶すると席に戻った。
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午前の授業終了のチャイムが昼休みを告げる。実家にいた頃は母さんが弁当を作っていてくれたが、今はみんなで作ってみんなで中庭で食べている。これは姉ちゃんがいた頃からの習慣だそうだ。今まで他の友達と食べていたが、今はこうしているせいで仲の良い友達からは羨ましいとからかわれている。少し恥ずかしい話だ。
「今日は図書委員の仕事があるから、帰るのはちょっと遅くなるね」
冬海がそう言うと、秋乃先輩も手をあげた。
「秋乃も今日は部活があるから、冬海ちゃん、一緒に帰ろっか。まだ暗くなるの早いからねー」
「いつもありがとうございます、秋乃先輩」
この中で一番下の妹みたいなのに、秋乃先輩はやはりお姉さんなんだなと、一緒に暮らし始めてから何度も思い知らされる。おれはもうすっかり秋乃先輩を尊敬している。
「部活ってことは軽音ですか? そういえば今日、ギター持って行ってましたね」
春花が思い出したと秋乃先輩を見ると、秋乃先輩は笑顔で答える。
「そうだよー、軽音。自主練の成果を見せ合うんだ」
「秋乃先輩、軽音学部だったんですか? 知らなかった……」
おれはてっきり助っ人で行く部活の話をしているのだと思ったが、違ったみたいだ。
「うん、メインは軽音なんだ。時々スタジオとか行って練習してるんだよ」
「秋乃は歌もうまいが、ギターも上手なんだ。今年の文化祭も軽音の出し物が楽しみだな」
黙々と食べていた夏樹先生は優しい顔つきで言う。褒められて嬉しそうな秋乃先輩は幸せそうで、おれも嬉しくなった。
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